第1話ー② 出会い

 ――教室にて。


 生徒から一斉に視線を浴びた暁は、それを横目に教壇まで歩き始めた。


 さっきまで賑やかそうだったのに、俺を見た途端に空気が変わった。やっぱり、俺に対して良い印象を抱いていないみたいだな――


 それから暁は教壇に立つ。


 そしてその場所からゆっくりと生徒たちの顔を見渡した。


 鋭い視線を向けられていることは察していた暁。しかしここへ来たら絶対にやると決めていたことがあり、生徒からの視線については一旦頭の隅に寄せた。


 暁は「こほん」と咳ばらいをしてから、満面の笑みで教室内を見つめると、


「今日からこのクラスを受け持つことになった三谷暁だ。気軽に、暁先生って呼んでくれよな! よろしくっ!」


 最後にグッと親指を突き出してそう言った。


 そのセリフも動きも、暁が小学生の頃に観ていた教師物のドラマで使われていた自己紹介シーンだった。


 そんな暁を見て、生徒たちは呆然としていた。


 あの頃は誰もが良いと思っていたものだった。だから、時間が経てばいつかは廃れてしまうだろうなんて思わなかった。ああ本当に。子供の頃に抱いた憧れは時に残酷だ――


 白ける生徒たちを見て、暁はそんな切ない気持ちになっていた。


「あ、あははは――ごめんな。初めから、テンション上げすぎたかな。実はこれ、俺が大好きなドラマのシーンでさ!」


 暁は頭を掻きながら、ニッと歯を見せて笑った。


 しかし、早々にやってしまった感じがする……廃れる以前に、やっぱり練習が足らなかったのか? いや。そもそも受け入れられていないこの状況でやるべきではなかったかもしれない――


 落胆のため息を吐いてから、


「――ま、まあそんなわけで! これからよろしく頼む!」


 暁は苦笑いでそう言った。


 それから沈黙が流れる教室。


 恥ずかしく思った暁は、その沈黙に耐えられずそっと項垂れたのだった。


「―――――あははははは! めっちゃうけるんですけどー!」


 その声に反応し、暁は声の主の方へ視線を向けた。


 ブロンド色のツインテールを揺らしながら、腹を抱えて笑う少女がいた。


「ってか滑っちゃうとこもだけど、それでも折れずに開き直るとか! ヤバすぎ!! あははははは!」


 何かわからないけど、ウケた――!


 暁はその少女を見ながら、嬉しくて目を輝かせた。


「あ、ありがとう! ああ、えっと――君は?」


「え? アタシ? アタシの名前は速水はやみいろは! ピッチピチの14歳! よろしく!」


 ピッチピチって。今どきそんなことを言う若者いるなんて思いもしなかったよ――


 そう思いながら、クスッと笑う暁。


 好意的な生徒の存在を知り、暁は少しだけここで上手くやっていけそうな気がしていた。


「速水いろは――と」


 そう言いながら、持っている出席簿に丸印とカッコちょっとギャルカッコとじると特徴を書き込む暁。


「うん、よろしくな! じゃあこのまま順番に自己紹介をしてくれないか?出席簿の確認と、みんなの顔と名前を早く覚えたいからさ!」


 暁が笑顔でそう言うと、


「なんでそんな必要があるんだ? ここへ来る前に俺たちのデータはもらってんだろ? 俺たちがどんな奴らかってこともわかってるくせに」


 短髪の少年が頬杖をついて、目を細めながらそう言った。



「ああ、もちろんデータはもらっているし、軽く目を通したよ」


「じゃあ――」


「でもさ、あれって政府の人間が作ったデータだろ? 確かにいくつかの質問だったり、関係者の言葉が使われてはいるけど、俺はそこにあることだけが真実だとは思っていないんだよ」



 そう言って暁はニヤリと笑う。


 短髪の少年が言ったとおり、暁は生徒たちの個人データが記載されているデータを施設へ来る前に渡されていた。


 簡単なプロフィールと能力覚醒に至った経緯がまとめられたデータと聞いていた暁は、プロフィール欄にだけ目を通していた。


 生徒たちのことはここで知っていきたい――暁にはそんな思いがあったため、生徒たちの過去をあえて見ないという選択を取ったのだった。


「はあ? なんでそんなこと……」

「あははは! 俺は直接お前たちと関わって、本当のことを知っていきたいんだよ」

「意味わかんねえし」


 そう言ってそっぽを向く短髪の少年。


 すると、


「ふふっ。面白いね、暁先生は」


 剛のナナメ後ろに座っている黒髪の少年が、そう言って微笑んだ。


 この世界に美少年、という生き物って本当に存在するんだな――


 そんなことを思いながら、顔立ちが整ったその少年に、暁は思わず見惚れていた。

 

「良いじゃないか、つよし! それにみんなも。せっかくだから暁先生に自己紹介をしてあげようよ」


 黒髪の少年が満面の笑みでそう声を上げると、他の生徒たちは静かに頷いた。


 暁はその時の空気を、少しだけ冷たく感じる。


「僕の名前は桑島くわしまキリヤ。このクラスでは一番在籍歴が長いんだ。データで見たと思うけど、僕は『氷』を操る能力持ちだよ。これからよろしくね、暁先生?」


 終始笑顔で自己紹介をするキリヤだったが、その笑顔に暁は違和感を抱く。


 確か『桑島キリヤは最も危険な人物』とデータに記載があったはずだ。だからこうも容易く俺を受け入れてくれるとは思っていない。でも、あの笑顔の裏にキリヤは何を想っていたのだろうな――


 そして、いつかそれを聞き出せるくらい、キリヤと仲良くなれたらいいなと思う暁だった。


 それから暁はキリヤに「ありがとな」と告げて微笑み、出席簿に丸印をつけた。それから一緒にカッコ美少年。不思議なオーラがあるカッコとじると記載した。


「じゃあ次は――」

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