第1話ー③ 出会い
「じゃあ次は――」
暁がそう言うと、キリヤの後ろの席からひょこっと黒髪の少女が顔を出した。
その顔は、くっきりとした大きな目と綺麗な鼻筋、ピンク色の唇が女の子らしさをより際立たせていた。
ああ、このクラスには美少女もいるのか――
そんなことをしみじみと思う暁。
「……
マリアは声を震わせながらそう言うと、すっとキリヤの後ろに隠れた。
なんだか怖がっているような、怯えているような目をしていたな――
嫌われたのかもしれないなと少し悲しく思う暁。そして必ず挽回するぞと心に決めたのだった。
そしてマリアの能力は『フェロモン』というものらしい。
それから生徒たちは次々に自己紹介をしていく。
「俺は
先ほど暁に嚙みついた短髪の少年――剛は暁から顔をそらしたままそう言った。
「おう! よろしくな、剛!」
最年長で身体もでかいから、剛はクラスの番長って感じなのかな――?
そう思いながら、暁は出席簿の印とメモを残す。
「私は
艶々のショートボブヘアで切れ長の目をしている少女――奏多は淡々とそう告げた。
「神宮寺、奏多――と」
マリアが可愛い系の女子だとしたら、奏多は綺麗系の女子って感じだな。それになんだか独特のオーラを感じる――
暁はそう思いながらぼーっと奏多を見ていると、その視線に気が付いた奏多が暁を睨みつけた。
慌てて奏多から視線をそらす暁。
「えっと、じゃあ次!」
それからまた順番に自己紹介が進んでいった。
言葉を詰まらせながらも懸命に自己紹介をするおかっぱの少年――
無関心そうな顔をして淡々と話す、『風』を操る能力者――
『具現化』の能力を持つ、縁眼鏡とアホ毛が特徴的な少女――
全員の自己紹介を聞き終え、出席簿の丸印が埋まったのを確認した暁は、改めて生徒たちの顔を見る。
データじゃなく直接本人から聞くと、やっぱり印象が変わるものだな――
そんなことを思い、暁は感心しながら頷いていた。
それからなんとなく、生徒からの向けられる視線が敵意ではないものに変わったように感じた暁は、自己紹介をやってもらったのは正解だったんだなと嬉しく思ったのだった。
「よし、これで全員の名前を知ることができた。みんな、ありがとな!」
暁はそう言ってニッと笑い、腕を組む。
「さて、今からだけど――軽く、レクリエーションをしようか!」
そう言って笑う暁を見たいろはは、首を傾げる。
「レクリエーションって?」
それから暁は得意満面な顔をして、
「そうだ! 親睦を深めるために、ちょっとした遊びをするのさ!」
楽しそうな声で生徒に告げた。
「はあ!?」
目を丸くするいろは。そして他の生徒たちもそれぞれで驚愕の顔をしていた。
「私たちと遊ぶっていうのは、どういうことかお分かりなんでしょうね?」
奏多は目を細めて、淡々と暁へそう尋ねる。そして他の生徒たちは、暁の答えを沈黙したまま待っていた。
それから暁はニヤリと笑い、大きく頷いた。
「――もちろんさ。全力で遊ぼう!!」
そう答えた暁に、生徒たちはまた驚愕の表情をした。
生徒たちからしたら、正気の沙汰じゃないんだろうな。殺人級の力を持つ自分たちと遊ぼうとする馬鹿がいるなんてさ――
驚く生徒たちを見つめながら、暁はそんなことを思っていた。
しかし暁は無策でそんな発言をしたわけではなく、ちゃんとした考えがあった。
「はあ!? 暁センセーマジ、イカれてんじゃん! それともアタシたちのこと子供だからって舐めてんの?」
いろははそう言って暁を見据える。
「ははは。もちろん舐めてないし、俺はイカれてない! 俺は俺なりにお前たちと仲良くなりたいんだよ」
普通の人間ならば、死を覚悟するところかもしれないその提案を言っておきながら、暁は終始笑顔でいた。
そんな暁の姿に、生徒たちは怪訝な顔をする。
「じゃあ、着替えたらグラウンドに集合だからな!」
暁はそう告げて、グラウンドへ向かったのだった。
* * *
暁が出て行ってから、教室にいた生徒たちは暁のいう事に従うかどうかを迷いながらも、運動しやすい服装に着替えて教室を出て行った。
しかし、キリヤと剛だけは未だに教室に残っていたのだった。
「なあ、キリヤ。どう思う?」
剛は座ったまま、後ろの席のキリヤにそう尋ねた。
その問いに、キリヤは不機嫌そうな顔で頬杖を突いたまま答える。
「さあね。何を企んでいるかは知らないけど、僕は変わらない。あいつもすぐに根をあげて、他の大人と同じように逃げ出すに決まっている」
キリヤの言葉を聞いた剛は、少し考えを巡らせていた。
剛は、何を迷っている――?
そんなことを思いながら、キリヤは剛を見つめた。
「――そう、か。でも、なんだろうな……あの人は今までの大人となんか違う気がする」
そう言って剛は立ち上がり、教室を出て行った。
「なんだよ……」
キリヤはそう呟き、剛の出て行った扉を睨みつけた。
大人なんてみんな同じに決まっている。僕たち能力持ちを怖がって遠ざけて、迫害してきた――
キリヤは眉間に皺を寄せ、拳を握った。
「今までの大人と違う? そんなわけないだろ」
僕は大人を絶対に信じない。これからも、ずっと――
それからキリヤは教室を出て、グラウンドへと向かっていったのだった。
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