第5話ー⑧ 夢

 ――上映会終了後、食堂にて。


「いやあ、あのぎりぎりのところに出てきた魔導士のオリヴィエにはしびれたなあ。あそこで間に合わなかったら、主人公のユウキたちはあのままどうなってたんだって、手に汗握ったぜ!」


 剛は何かを伝えるようと身振り手振りをして、結衣にそう言った。


「ほお、『オリヴィエ』のあのシーンをチョイスするなんて、剛君はお目が高いですな! あれはあのアニメの中でも、かなりの人気なシーンなんです!」


 嬉しそうにそう答える結衣。


「でもさ! ああやってピンチの時に来てくれる人って素敵だよね! ピンチを救う白馬の王子様的な? いやあ、惚れちゃうなあ!」


 いろはは両手を頬に当てて、うっとりとした顔でそう言った。


「いろはちゃんは、ああいう男性がいいって思うんだね。なるほど――」


 まゆおはそう呟きながら、小さく頷く。


 そんなまゆおを見ながら、暁は何かを察してくすりと笑った。


「でも、ヒロインの『アリス』もかわいかった。最後は結ばれなかった2人だけど、どこかでまた2人が会えたらいいなって思った」


 マリアはそう言って悲しそうな顔をする。


「あー確かに、あのお別れはマジ勘弁だったよね。アタシ、マジ泣いたもん……やっぱり好きな人とは、ちゃんと結ばれたいって思うよね」

「うん、そうだね」


 恋愛について語る2人に、いろはもマリアも年相応な考えがあるんだな――と暁は感心しながら頷いていた。


「主人公の意思の強さもとても引き込まれる要因の一つでしたね。自分の中にある力を誰かのために最大限使おうとする。そんな姿がとても勇ましく、そしてカッコよく見えました」


 奏多はそう言って嬉しそうに微笑んでいた。


 そんな奏多を見た暁は、奏多がアニメに興味を示すなんて、ちょっと意外だな、と思っていた。


 でも結衣に言われて秋葉原に行きたいと思うくらいだし、ありえなくはないことだったのかもな――


 それからある程度の感想を聞き終えた結衣は、食堂に集まっている生徒たちの顔を見渡し、


「私はこの秘められた力があるっていう設定が好きなのです。その力を何のために使うのか。私自身の力の使い方を考えさせられる作品なのですよ!」


 笑顔でそう言った。


 そしてその結衣の言葉を聞いた一同は大きく頷く。


 きっとみんなも、結衣と同じ気持ちになったのかもしれないな――


「この主人公のように、俺は俺にしかできないことをしていったらいいんだなって思ったよ。俺たちの与えられた力は厄介なものなんかじゃなくて、もしかしたら誰かを守るためのものなのかもな」


 そう言ってニッと笑う暁。


「センセー良い事言うじゃん! 確かにその通りかもね! アタシはアタシの力が嫌いだけど、使い方を考えたら、たくさんの人を救えるものなのかもって思ったよ!」


 いろはは満面の笑みでそう言った。


「私の力も、誰かのためになる、かな」


 いろはとは対照的に、マリアは心配そうな顔を浮かべてそう言った。


 そんなマリアを見た結衣は、そっとマリアの隣に行き、


「マリアちゃんのその力は、人を幸せにする力ですから、誰かのためになりますよ! だから、自信を持ってください」


 微笑みながらそう言った。


「うん……そうだと、いいな」


 そしてマリアと結衣はお互いを見つめ、微笑みあった。


「ぼ、僕の力も、誰かを救える、かな……」


 結衣とマリアの後ろでまゆおはもじもじしながら、そう言って下を向いていた。


 そしてそんなまゆおの周りに剛といろはが集まり、



「何言ってんだよ! まゆおの能力は実用的だろう? 極めれば、すごく人のためになる力じゃないか。自信も持てって!」


「そうそう! それにアタシと組めば、2人でお助け隊とかできそうじゃん? まゆおの力は頼りになるし!」



 まゆおの顔を覗き込むようにしてそう言った。


「2人とも、ありがとう……」


 そう言って、照れ臭そうにまゆおは微笑んだ。


 笑顔で話し合う生徒たちを見て、今回のことで生徒たちは少しだけ自信をつけたことを察した暁。


 自分の力のせいで、たくさん傷ついてきたからこそ、今回のアニメの内容が心に響いたのかもしれないな――


 そんなことを思いながら、暁は生徒たちを優しい笑顔で見つめる。


 それから暁の傍にゆっくりと近づいた奏多は、


「先生。私にはもう能力はなくなってしまったけど、でもみんなの気持ちはすごくわかります」


 暁にしか聞こえない声でそう言いながら、食堂にいる生徒たちを静かに見つめた。


 奏多は今、何を想っているのだろう――と暁がそう思っていると、奏多はゆっくりと口を開く。



「自分の力は周りを不幸にするって思っていたけれど、でもそうじゃなくて――その力は使い方さえ間違わなければ、人を幸せにできるものなんだなと改めて思えました」


「そうか」



 自分の過去を重ねて、奏多はあの物語を観ていたんだな――


 暁はそう思いながら、奏多の横顔を見つめていた。


「力を与えられた私たちは、不幸なんじゃなくて、案外幸せ者なのかもしれませんね!」


 そう言ってニコッと微笑む奏多。


「幸せ者、か。確かにそうかもな! 俺は力が目覚めなきゃ、みんなに出会えなかったし、今に立ち会うこともできたかっただろうからさ」


 そう言いながら、生徒たちが楽しそうに話す姿を嬉しそうに見つめる暁。


「――自分の力が目覚めなきゃよかったって思うときもあったけど、でも今は感謝しかないよ。だって俺はみんなに会えて幸せなんだから!」


 暁はそう言って奏多の顔を見て微笑んだ。


「ええ、そうですね!」


 そして暁たちは、遅い時間までそのアニメについて語り合ったのだった。

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