第5話ー④ 夢
「今度はどこへ行くんだ?」
暁は奏多の方を見て、首を傾げながらそう尋ねた。
「とても興味深いところですよ。私もあまり行ったことはないのですが、たぶん楽しめると思います。渋谷とは違う魅力の場所とだけ、お伝えしておきます」
奏多は胸の前で両手の指を合わせてそう言った。
渋谷とは違う魅力――?
それから少し考えてみる暁だったが、結局その意味はわからなかったのだった。
そして暁たちを乗せた車は次の目的地へ到着した。
「奏多、ここは?」
暁はそう言ってキョロキョロと周りを見た。
「オタクの聖地、秋葉原です!」
そう言って奏多は嬉しそうに笑う。
「ここが噂の秋葉原!?」
確かに渋谷とは違う独特の魅力がある場所かもしれない――
そんなことを思いながら、暁は奏多と秋葉原探索に向かった。
ビルの壁にはアニメキャラのイラストが施されており、街を歩くのはアニメのTシャツを着ている人、メイド服を着ている人やアニメのグッズを袋いっぱいに入れて持っている人など――暁にとって秋葉原は独特の空気が漂っているように感じていた。
でも、どうしてだろう。渋谷の人たちと同じようにキラキラした目をしている気がする――
暁はそう思いながら、すれ違った男女グループの会話に耳を傾けると、彼らが好きなアニメの話で楽しそうに語り合っているのだと知った。
結衣もこんな感じでいつも好きなアニメのことを語っていたな――
「ここにいる人たちを見ていると、結衣を思い出すな。雰囲気とか目が似ているのかな」
「うふふ、そうかもしれないですね!」
それから奏多は両手をパンっと鳴らすと、
「さあ、私達も見て回りましょう! 時間がもったいないですよ?」
そう言って暁の手を引き、歩き出す。
それから暁たちは、アニメショップやメイドカフェなどを巡って、秋葉原の街を楽しんでいた。
奏多は結衣から秋葉原の話を聞いていて、一度は行ってみたいと思っていたようだった。
一人だと恥ずかしかったので、今回のデートで先生と一緒に行こうと思ったんです――とそう言って笑った。
「先生。今回は私のわがままにお付き合いいただきありがとうございます。今度は、結衣も一緒に来られるといいですね!」
「ああ、そうだな。それにみんなと一緒に東京観光ができたらいいな!」
そして、ある程度秋葉原の街を楽しんだ暁たちは帰路に着くことにした。
本当はもっと楽しみたいと思う暁だったが、『外出時間は8時間まで』という制限があり、しぶしぶ帰ることにしたのだった。
まあ、今回は外に出かけられただけありがたいからな――
そして暁たちは帰りの車内でこの日のことを思い出しながら、すでに思い出になりつつある東京観光の話で盛り上がっていた。
「今日は本当に楽しかったな! 渋谷で飲んだ……あの、黒いプチプチの――なんだっけ」
「えっと、タピオカドリンクですか?」
「そう、それだ! おいしかったなあ。飲む前はこんなゲテモノって思っていたのに!」
「かえるの卵みたいじゃないかって騒いでおりましたわね! ふふふ」
「お、おい! あれは奏多がそう言ったからだろう!」
「先生って何でも信じてくれるから、ついからかいたくなってしまいます!」
「それは褒めてるのか? 馬鹿にしてるのか?」
「さて、どちらでしょう!」
そう言って笑う奏多。そして暁もそんな奏多につられて笑っていた。
そんな楽しい会話に熱中しているうちに暁たちは施設に到着していた。
それから奏多が暁より先に車から降り、その場で振り返ると、
「先生、今日は一日ありがとうございました! とても楽しかったです」
そう言って楽しそうに笑う奏多。
暁はそんな奏多の笑顔が今までで一番楽しそうな顔に見えていた。
「ああ、俺の方こそ、誘ってくれてありがとうな。すごく楽しかったよ。また行こうな!」
そう言ってニッと笑う暁。
「ええ。私も楽しみにしております!」
それから暁と奏多はそれぞれの自室に向かったのだった。
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