第5話ー② 夢
――教室にて。
午後の授業が始まり、生徒たちはそれぞれの学習ノルマを進めていた。
暁はそんな生徒たちを教室の自分の席から見守っていたのだった。
「なるほど……ふむふむ」
結衣はぶつぶつとそう呟きながら、真剣な表情でタブレットを見つめていた。
もしかして、何かの問題に躓いて困っているのか――?
結衣に対してそう思った暁は、こっそりと結衣の席に行き、そのタブレットを覗き込む。
すると、そこには『今期の人気アニメランキング ベスト10』と書かれたWebサイトが表示されていた。
「こら、結衣! それは授業に関係ないだろう?」
「あーあ。ばれちゃいましたか! 以後気をつけます~」
結衣はそう言ってサイトを閉じ、数学問題の画面に切り替えた。
「まったく……」
やれやれと言った顔をしながら、自分の席に戻る暁。
でも。それほどまでに何か一つのことを好きでいることができるって、すごいことかもな――
暁はそう思いながら、感心して頷く。
その後――結衣は真面目に授業をこなし、本日分のノルマを終えて教室を出て行った。
そして他の生徒たちも順調にノルマを終えていき、最後に教室に残ったのは、いつも通りまゆおだけだった。
「まゆお、進捗状況を聞いてもいいか?」
暁が笑顔でそう尋ねると、まゆおは困った表情をして、
「あとは、最後の、チェックだけ、です」
小さな声でそう答えた。
「そうか。うん、わかった。がんばれ、もう少しだ!」
「は、はい……」
そう言って再びタブレットに視線を戻すまゆお。
そういえばあの日から特にまゆおとの距離が縮まることもなかったな――
そんなことを思いながら、暁は真剣な表情でタブレットに向かうまゆおを見つめた。
俺と会話するときは、相変わらずおどおどしたままか――
と小さくため息を吐く暁。
でも。いつかいろはみたいに、まゆおと楽しく会話ができたらいいな――
暁はまゆおを見ながらそう思ったのだった。
――数分後。
時間内に本日分の学習ノルマを終えたまゆおは、ほっとした表情で教室から出て行った。
それから教室で一人になった暁は、職員室に戻ろうと扉の方に身体を向けると、それと同時に教室に入って来る奏多を見つけた。
「先生! お疲れ様です」
奏多は笑顔でそう言いながら、暁の傍に歩み寄る。
そんな奏多に目を見開いて、
「か、奏多!? ああ、お疲れ……」
そう言って困惑する暁。
なんで奏多が!? いや。たぶん、あの話のことなんだろうな――
「あら、私じゃダメでした?」
ニヤニヤと笑いながら、意地悪な言い方をする奏多。
「いや、その……」
暁は困惑の表情でそう言ながら奏多から目をそらし、窓の方を見つめる。
こんなのは時間稼ぎでしかないのかもしれないけれど――
すると、奏多はそんな暁の視線を追うように移動してから、暁の顔を覗き込み、ニコッと微笑む。
どうやら奏多は、俺に悩む時間を与える気はないらしいな――
暁はそう思いながら、息を飲んだ。
「あれから何日か経つのに、先生がなかなかデートの話をしてくれないから、わざわざ私から提案しにきたのですよ?」
「す、すまん……」
そう言って申し訳なさそうな顔をする暁。
やっぱり奏多はデートのことは本気だったんだな。実は冗談なんじゃないかと思っていたんだが――
暁がそんなことを思っていると、
「じゃあとりあえず、今度の日曜日にいきましょう。場所は私が決めておきますね!」
奏多は勝手に話を進めていた。
「え!? 今度の日曜日!?」
「何かご予定でも?」
奏多は目を細めて暁にそう尋ねた。
「予定も何も、唐突すぎて――」
この時、奏多は意外と強引なんだな――ということを知った暁だった。
「では、日曜日。よろしくお願い致しますね」
奏多は嬉しそうに笑ってそう言った。
「あ、ああ。俺も外出許可を申請しておくよ」
「ええ。楽しみにしておりますので!」
奏多は喜色満面でそう言って教室を出て行ったのだった。
そんなに楽しみにしてくれているのは、なんだか嬉しいな――
そう思ったのもつかの間、暁には一気に緊張感が押し寄せる。
「今週末か……はあ」
生徒の一人とはいえ、やっぱり二人きりで出かけるのは緊張するよな――
それから暁は緊張感を抱いたまま職員室に戻り、気を紛らわせようとすぐに報告書の作成を始めた。
「――そうだ。外出申請も出しておかないとな」
そして報告書の作成後に外出申請書を作成し、報告書と共に研究所へと送った。
暁はSS級の能力者でありながらも、申請書一枚で気軽に外出できるようにはなっていたが、それでも多少の行動制限と外出後は報告書の作成を義務付けられていた。
まあ学生だった時と比べれば、今は自由になったもんだと思うよ――
「これで、よしっと――」
外出申請所と報告書を終えた暁は、そう言って大きく背伸びをする。
「それにしても、外の世界か――高校ぶりかな」
デートとはいえ、外に出られるのはやっぱり嬉しいな――
「けど、奏多は俺をどこへ連れて行くつもりなんだろう」
暁はそう言って腕を組んで、考えを巡らせる。
奏多は大企業のご令嬢だし、おしゃれなレストランとかだったらどうしような――
それから暁は小さくため息を吐くと、
「テーブルマナーの本でも読んでおこうかな」
そう呟いて、PCで通販サイトを開いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます