第6話ー⑦ 信じることの難しさ

「奏多が言っていたぞ。心が凍り付いていくキリヤを見ているのは辛いって。大切な仲間で家族だから、もっと何かをしてあげたいのに、何もしてあげられない自分が悔しいって!!」


 その言葉にはっとするキリヤ。


「……奏多、が?」


 そしてキリヤは手を止めた。


 今なら、俺の言葉も届くかもしれない――


 それから暁はまっすぐにキリヤを見つめ、


「他のみんなももっとキリヤと一緒にいることを望んでいる。もちろん俺もだ。お前が俺をどう思っているかはわからんが、どう思われていたって俺はお前を信じるよ」


 そう言って微笑んだ。


「…………そんなこと、口では簡単に言えるだろ。あの時の先生もそうやって」


 キリヤはそう言いながら、俯く。


 キリヤはあの時の先生のことを本当に慕っていたんだな……。だからこそ、裏切られたときにひどくショックを受けたのだろう――


 暁は眉間に皺を寄せながら、そう思っていた。


 そして小さく頷くと、


「俺は今までの大人たちと違って、有言実行する男だぞ? じゃなきゃここで教師なんてやってないからな!」


 暁は自慢げな顔をしてそう言った。少しでも、キリヤに安心してもらえるようにと。



「どうせ、政府の犬のくせに……」


「ああ、そうだ。俺は政府の犬さ! だけどな、今までの政府の犬とはわけが違うぞ? 俺一人いれば、政府なんて簡単に潰せる。それだけの力がある俺が、黙って言いなりでいるわけがないだろう?」



 暁が挑発的にそう言うと、キリヤは顔を上げて暁を睨みつけた。

 

「そんなことを言ってても、どうせ命令には逆らえないんだろ!!」


 語気を強めてそう言うキリヤに、暁はニヤリと笑って見せると、


「いいや。俺は俺がやりたいことをやる! それが政府と敵対することになっても。俺はお前たちの味方だ! 何があっても、絶対に! 世界中の人間が全員敵になったとしても、俺だけはお前のことを絶対に裏切らない!! だから俺を信じろ!!」


 そう言ってキリヤをまっすぐに見つめた。


「信じろって……」


 すると、キリヤの能力が少しずつ落ち着き始めた。


「……キリヤ?」


 そしてキリヤはその呼びかけに答えることなく、その場に倒れた。


「先生!」


 騒ぎを聞きつけた生徒たちがそう言いながら、建物から出てきた。


「先生、キリヤは!?」

 

 マリアは心配そうな顔で、暁にそう尋ねた。


「気を失っているだけだと思うが、ちょっと暴走した時間が長かったかもしれない……今からキリヤを連れて、研究所に行ってくるよ。研究所に報告もあるし」


 暁は冷静な口調でそう答えた。


 本当はもっと早く解決しなくちゃならなかったのに――


 そう思いながら、暁は苦い表情を浮かべた。


「先生、キリヤは大丈夫なのですか?」


 奏多は不安そうな声でそう言った。


 それは、暴走後に目覚めなくなるということを知っての質問だと暁は察した。


 暁は生徒たちのその不安を取り除くため、ニコッと笑う。そして、


「大丈夫だ! 必ず連れて帰るから、みんなと待っていてくれるか?」


 奏多にそう告げた。

 

 奏多は暁の言葉に頷くと、


「さあ皆さん、とにかく建物に戻りましょう」


 生徒たちにそう促したのだった。


 そして奏多のその言葉に生徒たちは従い、建物の中に戻っていった。


「奏多、ありがとう」


 それから暁は研究所に連絡を取り、エントランスゲートで眠ったままのキリヤと共に研究所からの車を待っていた。


 しばらくすると、そこへ奏多が小走りでやってきた。


「みんなは?」

「不安そうでしたけど、とりあえず自室で待機してもらっています」

「そうか……奏多、みんなの誘導ありがとな」


 暁はほっとした顔でそう言った。


 キリヤのこんな姿を、みんなもきっといつまでも見ていたくはないだろうからな――


 そう思いながら、キリヤの顔を見る暁。


「いいえ、いいんです。それより先生――キリヤのことを頼みましたよ。キリヤは、私達の大切な家族なんですから」


 奏多はそう言って、再び建物の中に戻っていった。


 そして暁は到着した車にキリヤを乗せ、急いで研究所へ向かったのだった。


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