第8話ー③ 白の少女
帰宅途中、暁は行きの時と同じように車の窓から外に目を向けると、太陽が完全に沈み、空には星たちが瞬き始めているところを見た。
「ちょっと遅くなりすぎたかな」
そういえば、キリヤと一緒に夕食を食べる約束をしていたっけ。帰りが遅くて怒っているかもしれない……。帰ったら、謝らなくちゃな――
そんなことを考えているうちに暁の乗せた車は施設に到着した。
暁が車から降りると、エントランスゲートの向こうに数人の生徒たちの姿を見つけた。
もしかして、俺を待っていてくれたのか――?
それから急いで生徒たちの元へと向かう暁。
「センセー、遅いよ! もう晩御飯済ませちゃったじゃん!」
そう言って頬を膨らませるいろは。
「朝と昼は食べられないから、夜は一緒に食べようって言ったのは先生なのにね!」
キリヤは暁から顔を背けながら、嫌味っぽくそう言った。
「あ、あはは、ごめんな! ちょっと検査に手間取ちゃってさ!」
本当は自分のことに打ちのめされていた、とは言えないよな。これ以上、ツッコまれたらどうしようか――
そう思いながら苦笑いをする暁。
「ほらほら、お二人とも。先生のことが好きなのはわかりますけれど、そんなに責めないであげてください。先生だって、本当はみんなと晩御飯を食べたかったかもしれないでしょう?」
奏多はキリヤといろはに諭すように告げた。
「そう……だよね。先生だって検査で疲れているのに。ごめんね、先生」
キリヤはそう言って申し訳なさそうな顔をした。
「いや。俺の方こそ、約束守れなくてごめんな。明日は一緒に夕食を食べよう」
暁がそう言って微笑むと、
「うん!」
とキリヤは満面の笑みをした。
キリヤには悪いことをしちゃったな……でも、さっきの奏多のフォローは本当に助かったよ――
そう思いながら、暁は奏多を見つめる。
すると、目があった奏多は暁に微笑んだ。
「では! ここで立ち話もなんですから、食堂に参りましょうか、先生?」
奏多が笑顔でそう言うと、
「そうだな! 俺も腹減ったし!!」
暁も笑顔でそう返した。
それから暁たちは食堂へ向かったのだった。
――食堂にて。
「これは……!」
食堂に着いた暁は目を丸くしてそう呟く。
そんな暁の視線の先には食事ののったお盆があった。
通常ならもう片づけが済み、カウンターには何も食べ物が置いていない時間だったが、帰りの遅かった暁のために奏多たちが少しだけ取り置きをしていたようだった。
「ふふふ~今日は先生の好きなから揚げの日だったのですよ!」
「から揚げは結衣が取り置きしてくれたんだ」
「あはは~」
暁の帰還を聞きつけた結衣とマリアは、そう言いながらニコニコと笑う。
「そうか……ありがとな、結衣!」
「いえいえです!」
「あ、先生。野菜も食べなきゃダメ」
マリアはそう言いながら、暁がまだ手をつけていないサラダを指さした。
「は、はい……」
さすがはマリア。しっかりしてるな――
それから暁の机の周りには、生徒たちが笑顔で集まっていた。
「――そうだ、先生! 今回の検査結果はどうだった?」
剛は暁の顔を覗き込むように問いかけた。
「いつもと一緒さ。何も変わってないって」
「そうか……」
暁の返答を聞き、申し訳ないことを聞いてしまったと言わんばかりの顔をする剛。
「いや、別にいいんだよ! 俺はこの力のおかげでみんなに会えたんだからさ! 剛が落ち込むことなんてないさ!」
その言葉を聞いた剛は安堵したのか「ありがとな、先生」と笑顔で小さく答えた。
そしてそれから暁たちは、今日の出来事や研究所であったことを話し合い、会話を楽しんだのだった。
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