第15話ー⑤ 大事件発生
「ふふふ。楽しませてよ?」
優香はそう呟きながら、暁が捕らわれているであろう廃墟から離れるように走っていた。
「待てえ!」「逃がさねえぞ!!」
優香の背後では、そんな叫び声が響いていた。
「ま、この辺でいいかな」
そう呟いた優香は、廃墟から少し離れたところで立ち止まり、追ってくる大人たちと対面する。
「あなたたちの目的は、何?」
優香は面と向かってその大人たちに問うが、誰もその問いに答えることはなかった。
まあ、素直に聞いても答えてはくれないか――
ため息を吐きながらそんなことを思う優香。
「観念しろよ……へへへ……」
そして大人たちはじりじりと優香に詰め寄る。
素直に聞いても答えてくれないのなら、無理やり聞くしかない。よね――?
「まったく。素直に答えてくれたら――こんなこと、しなくて済んだのにね!」
そう言って優香は、手から無数の蜘蛛の糸を繰り出し、迫りくる大人たちを拘束した。
「ふう」
優香は手をはたいてから、ニコッと微笑む。
「おい! どうした!!」「状況は!!」
増援か。これで全部、かな――?
「さて。次はどうしましょうか? ふふふ」
そう言って楽しそうに呟く優香だった。
* * *
キリヤが木の陰から廃墟を見つめていると、数人の大人たちがその廃墟から出てきた。
「侵入者だ!」「捕まえろ!!」
そう言いながら、優香の方に向かっていく数人の大人たち。
うわあ、本当に出てきた。優香、ありがとう。それと、気をつけてね――
それからキリヤは、しばらくその場で廃墟の様子を窺っていた。
もう出てこない、か。優香が時間を稼いでくれているうちに、早く先生を――
キリヤは静かに廃墟へと潜入した。
――廃墟にて。
ひびが入っているコンクリートの床、割れた窓ガラス。そして足音の一つも聞こえないほど、その廃墟の中は静かだった。
「もしかして、全員が出て行ったのか……」
キリヤはそんな廃墟の中を歩きながら、周りを見渡す。
今がチャンスってことだよね。でも、こんなにあっさりと先生を救い出せていいのか――?
「あーあ、もう居場所に気づいちゃいましたか。そう簡単にばれないと思ったんですが――いったいどうしてここがわかったのでしょう?」
その声にはっとしたキリヤは、キョロキョロとあたりを見まわす。
そしてキリヤが歩いてきた通路の反対方向から、誰かがゆっくりとキリヤに歩み寄る。
その姿がはっきりとわかると、キリヤは眉間に皺を寄せた。
やっぱり……植物たちから聞いた声に、もしかしたらと思っていたけれど――
「ねえ。これは何のつもりなの、狂司」
キリヤがそう問うと、狂司は足を止め、不敵な笑みを浮かべた。
「君には関係のないことです。僕は先生さえいれば、それでいい」
先生さえいればって――
それからキリヤははっとして、口を押えた。
もしかしたら、狂司はさみしかったのではないか――とそう思ったからだった。
「狂司……もしかして、僕が先生と一緒に居ると、先生を独り占めできないからこんなことを? だったら、ごめん。ちゃんと謝るから、もうこんなことはやめよう!」
そんなキリヤを少々呆れた表情で見つめる狂司。
あれ? もしかして、違うのか――
「はあ。キリヤ君……君は一体、何を勘違いしているんです?」
「あ、あの……えっと」
狼狽えるな、僕! 逆に恥ずかしくなる――!!
「まあ、そんなことはともかく。君もなかなか興味深い能力を持っているみたいですね」
狂司はそう言ってニヤリと笑う。
もしかして、狂司は僕の『植物』のことを知っているのか――?
キリヤはそう思いながら、ごくりと唾を呑み込んだ。
「それは、どういうことだい?」
「隠さなくてもわかっているんですよ。君の、複合能力のことはね」
「さて。何のことだろう」
キリヤはそう言って狂司の問いをはぐらかす。
それから狂司が何かを言おうとしたタイミングで、突然廃墟内で地鳴りが響いた。
はっとした狂司は、
「時間切れ、か……。今回はこの辺でお暇させていただきます。でも、僕は先生の力を諦めたわけじゃないですから――」
そう言ってキリヤの目を見つめた。
すると狂司に見つめられたキリヤは、自身の身体の異変を察する。
何、これ。声が出ないだけじゃない。身体も、全然動かない――
「僕の本当の能力は『集団催眠』。今、君は僕の催眠術で動けなくなっています」
狂司はそう言って微笑むと、
「それでは、僕はこれで。またどこかでお手合わせできるのを楽しみにしています」
そう言い残し、どこかへ歩いて行ったのだった。
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