第15話ー④ 大事件発生

 外の世界を久々に見たキリヤは、その変化に驚きながら、目的地を目指して街の中を走っていた。


「ちょっと距離を置いていただけなのに、世界ってこんなに変わるものなんだ――」

「そんなことはどうでも良いから、さっさと走る! おいていくよ?」


 キリヤの前を走る優香は、そう言って振り返りながらキリヤをたしなめる。


「ご、ごめん!」


 さすがは優等生。スポーツと言うジャンルにおいても万能なんだな――と息切れ一つなく走る優香を見て、キリヤは感心していた。


 それからキリヤたちが街を抜けると、その視線の先に目的地である廃墟があった。


「あ、あそこ、だよ!!」


 息を切らしながら走っていたキリヤが、スマホに表示されている地図の位置を確認して優香にそう言った。


「うん、わかった! 急ぐよ!」


 そう言って走る速度を上げる優香。


「ちょ、ちょっと待って! 速いってば!!」


 まだ全力じゃなかったんだ。さすが、優等生――


 キリヤはそんなことを思いながら、懸命に優香の背中を追うのだった。




 廃墟の周りには、大人たちが数人立っていた。


「はあ、はあ。や、やっぱり、先生は、何か事件に巻き込まれて……」


 息を切らしながら、なんとか言葉を発するキリヤ。


 そしてそんなキリヤとは対照的に、優香は息切れ一つすることなく、落ち着いた様子で廃墟の周りの観察を行っていた。


 やっぱり、さすがは優等生……もう次の行動に移っているなんて。僕ももっと体力つけなくちゃなあ――


 そんなことを思いながら息を整え、キリヤは廃墟の方を見つめる優香を見ていた。


「こんなに見張りがいるんじゃ、簡単には中に入れなさそうね」


 そう呟いた優香は、「うーん」と唸りながら考える。それから小さく頷くと、キリヤにある提案を持ちかける。


「私が外の見張りを引き付けるから、その隙にキリヤ君があの廃墟に突入して?」


 優香の言葉に、キリヤは目を丸くすると、


「え!? そ、それじゃ、優香が危ないよ!」


 そう言って優香の顔をまっすぐに見た。


「大丈夫、大丈夫。それに――ちょっと走っただけで息切れしているキリヤ君には、囮なんて頼めないでしょ!」


 優香は人差し指をキリヤに向けてそう放った。


「そ、そんなこと、ないよ!!」


 キリヤは狼狽えながらそう反論する。


 女の子の優香には、そんな危ないことを頼みたくないし……それに、僕だって何か役に立ちたいって思ってはいるんだから――!


「あはは! それにさ。私が助けに行くより、キリヤ君が来た方がきっと先生は喜ぶと思わない?」


 そう言ってニコっと微笑む優香。


 先生が喜ぶ、か。そうだとしたら、僕も嬉しい……けど! やっぱり優香のことは心配だ――


「でも、優香――」

「それって、私のことを信じてないの?」

「え!?」


 さすがにその考えは飛躍しすぎでは――!?


「あーあ。あんなに僕を信じろって言った男がね。聞いてあきれるよ」


 優香は首を横に振り、ため息交じりにそう言った。


「わかった! わかったから!! 優香のこと、信じるよ!! でも、無理はダメだからね!」


 キリヤがそう言うと、優香は満足そうな顔をして、


「うん。それはお互いにね!」


 そう言って頷いた。


 そしてキリヤは、優香と共に『先生奪還作戦』を決行する。



「いい? まずは、私が入り口にいる人たちの注意を引く。中から何人か応援が来たら、キリヤ君は中に突入して」


「わかった。でも注意を引くって、どうするの?」


「適当なところまでおびき寄せて――『えいっ!』てやる!」



 いやいやいや。『えいっ』て可愛らしく言っているけれど、明らかに拳を振るうポージングでしたよね――?


「いろいろと片付いたら、私もすぐにキリヤ君を追うね。だから私のことは気にせずにどんどん先に進んでよ?」


 そう言って優香は笑った。


 なんだか優香、楽しそうだな。もしかして杞憂だったかな――


 そう思いながら、クスクスと笑うキリヤ。


 そんなキリヤを見た優香は、


「え!? なんで笑うの!」


 驚いた顔をしてそう言った。



「いやあ、結構危険なことをするはずなのに、優香ってば楽しそうだなって思って。それに『片付いたら』って――負ける気もないんだね!」


「当たり前でしょ? 私は優等生なんだから! 誰よりも優れているってところを見せてやるわ!」



 優香は得意げな顔をしてそう言った。


「ははっ。それは頼もしい」


 キリヤがそう言って微笑むと、優香はスッと立ち上がる。


「じゃあ、行ってきます!」


 そして優香はそう言って微笑むと、廃墟に向かって走っていった。


「優香、ありがとう。頑張って……」


 キリヤは優香の作戦通り、廃墟から見張りが出て行くのを待つのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る