第15話ー③ 大事件発生

 ――エントランスゲート前にて。


 キリヤはエントランスゲート前で優香と共に外出承認が下りるのを待っていた。


「巻き込んでごめんね」


 キリヤが申し訳なさそうにそう言うと、優香はニコっと微笑み、


「なんだかおもしろいことになりそうじゃない? だから、いいよ! 気にしないで!」


 楽しそうにそう言った。


 そんな優香を見たキリヤは、優香は肝が座っているな――と感心していたのだった。


 でもそう思ってくれるパートナーがいてくれることはありがたいかもしれない――


 そう思いながら、キリヤは微笑んだ。


 それからしばらくすると、キリヤのスマホが振動した。


「ゆめかさんからのメールだ。――承認下りたって! じゃあ行こう、優香!」


 キリヤがそう言うと、優香は満面の笑みで「うん!」と答える。


 そしてキリヤたちは、奏多からのデータを頼りに暁が誘拐された場所へと急いで向かったのだった。



 * * *



 その頃の暁は、施設からそう遠くない場所にある廃墟にいた。


 そしてその廃墟の一室に、暁は閉じ込められていたのだった。


「なあ、狂司。お前の目的って何なんだ? いい加減教えてくれよ」


 自身が閉じ込められている部屋の扉を挟んだ隣の部屋にいるであろう狂司に暁はそう問いかけた。


「――わかりました。話しますよ。言われたとおりに着いてきてくれましたし」


 そして狂司は扉越しに話し始める。


「僕たちは『アンチドーテ』っていう反政府組織――能力者を利用する政府に反旗を翻す存在です」


 僕『たち』ってことは、ここへ来るまでに一緒に行動していた大人たちのことも示しているんだろうな。それにしても――


「能力者を利用って? 政府がそんなことを……」


 困惑した表情をする暁。


 反政府組織、能力者を利用する政府。小学生の狂司がなんでそんな組織に――?


「先生は何も知らないだけ」

「そんな……」

「じゃあ先生は『ポイズン・アップル』って知っていますか?」

「『ポイズン・アップル』?」


 直訳すれば、毒リンゴだ。でもそれはただの毒リンゴという意味じゃないことくらいはわかる――


「『ポイズン・アップル』は政府が開発した能力者を操るチップのこと」

「操るチップ!?」


 そう言って目を丸くする暁。


 そんな暁とは対称に、狂司は調子を変えず話し続ける。


「そうです。低い能力者に使用して、強制的に能力値を引き上げたり、暴走させたりする。そして、その子供を利用して研究対象にしているんですよ」

「な、そんな……」


 自分の知らないところで、そんなことが行われているなんて知りもしなかった――


 そう思いながら俯く暁。


 でも、どうして政府のその秘密を狂司は知っているんだ――?


「なあ。それが本当だとしても、なんでそんなことをお前が知っているんだ?」

「――僕の兄さんが、そうだったから」


 狂司は重い口調でそう答えた。


 その言葉にゆっくりと顔を上げた暁は、そのまま狂司と自分を隔てる扉を見つめる。


「狂司の、兄さんが……?」

「ええ。僕の兄さんは、そのチップで政府の連中に心を破壊されたですよ」


 憎悪に満ちた声色で暁にそう告げる狂司。


 まさか狂司の兄さんが……政府のせいで――


「僕は政府の奴らが言っているのを聞いたんだ。『まだ試作段階のチップだから仕方なかった。ご愁傷様』って言って笑う声を! 僕はそれが許せなかった!!」


 悲嘆の声を発する狂司に、暁は何も返すことができずにいた。


 政府のこと、そして狂司の兄のこと――暁は一度にいろんな情報を知り、頭が追い付いていなかったからだった。


 狂司の様子から嘘を言っているとは考えにくい。でも政府がそんなことをしているなんて――


 そう思いながら、暁は額を押さえる。


「兄さんは言っていたんだ、自分が誰かの役に立てることが嬉しいって。自分が協力することでたくさんの子供たちを救うことができるんだって」


 狂司の兄への想いを感じ取る暁。


 狂司にそんな過去があったなんて。それに、お兄さんもまさかそんなことに――



「狂司、お――」


「それなのに! あいつらは兄さんを利用するだけ利用して、用済みになったら簡単に切り捨てたんだ! 僕は兄さんの気持ちを踏みにじった政府のやつらを絶対に許せないんだよ!!」



 暁の言葉に被せるようにそう叫ぶ狂司。それから「ふう」と息を吐き、


「――だから先生。先生の力を貸してほしい。先生のビーストは国をひとつ滅ぼすほどの力がある。先生を味方につければ、今の政府を破壊できる! だからお願いします!!」


 懇願するように狂司はそう言った。


 一体、何が真実なのか――それがはっきりしない暁は、狂司の気持ちを理解しながらも、素直に首を縦に振ることができなかった。


「ごめん、俺は――」

「いいさ。所詮、先生は政府の犬。断られることくらいわかっていましたよ」


 淡々とそう告げる狂司。


「俺は、そんな!!」

「あの人の言う通りだ。先生は自分を助けてくれた人を裏切れないお人よしな性格なんですね」


 狂司の言葉を最後まで聞き取れなかった暁は首を傾げ、


「今、なんて――」


 暁が問いかけるよりも先に、狂司はその言葉を遮る。


「とにかく。これから僕たちは先生を人質に政府を脅迫する予定です。政府にとって先生の存在は脅威ですから。それと先生。一応言っておきますが、敵を間違えないほうがいいですよ?」


 そう言ってから、狂司はどこかへ歩いて行った。


「狂司!!」


 それから静まり返った部屋で暁は無言で俯いていた。


 今は考えが追い付かない。政府が能力者を使って、怪しい実験をしている? そして狂司が反政府組織の人間だったなんて――


「俺は、これからどうしたらいいんだ」


 かつてキリヤに『政府だって敵に回す』と言っていた暁だったが、いざそうなった今、結局何もできずに悩むことしかできなかった。


 恩のある政府を本当に敵に回せるのか? でも狂司のいう事が本当だとしたら、俺は政府がやっていることを認めるわけにはいかない――


「ああああ! もう、どうしたらいいんだ!!」


 暁は頭を抱え、一人で悶々と悩むのだった。

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