第15話ー⑥ 大事件発生

 一人取り残されたキリヤは、動かない身体に動揺しながら冷や汗をかいていた。


 身体は動かないし、声も出せない。それと、さっきの地鳴りはなんだ……? このまま誰にも助けを求められず、さっきの地鳴りの犯人に僕は――

 

 そう思いながら、キリヤは瞼を閉じる。


 あれ……目だけは動かせる――?


 それからキリヤは視界のぎりぎりまで眼球を動かし、周囲を確認する。


 やっぱり何もないか――そう思いながら溜息を吐こうとして、身体がうまく動かせないことを再確認するキリヤ。


 とりあえず、さっき聞えた地鳴りの犯人が他の能力者じゃないことを祈るしかない――


 そしてどこかからゆっくりとした足音が響き渡り、それを聞いたキリヤの鼓動は早まる。


 足音が近づいてくる。まずい。どうする……? お願い、先生、助けて――


 キリヤはそう思いながら、瞼を再びギュッと閉じる。


 そして足音がキリヤのすぐ傍まで来ると、


「キリヤ! なんでここに!?」


 驚いた声でそう言う足音の主。


 聞き覚えのある声にキリヤは目を開けると、そこには捜索していた暁の姿があった。


 よかった。先生、無事だったんだ――


 そう思いながらほっとするキリヤ。


 それからうんともすんとも言わないキリヤを見て疑問に思ったのか、


「どうしたんだキリヤ? もしかして、動けないのか?」


 暁は首を傾げてそう言った。


 そう! そうなんだよ!! ああ、でも。声も出せないんだった――


 それからキリヤは唯一動かせる瞼を使って(目にゴミが入ったくらいの勢いで連続開閉をする)、暁に今の状況を伝えた。


「何か伝えたいってことはわかった。でも、直接聞いた方が早そうだな」


 そう言って暁はキリヤの身体に触れる。


 すると、先ほどまで瞼しか動かすことができなかったキリヤは、暁の『無効化』の効力で狂司の能力が解けて、ゆっくりと動き出した。それから大きく深呼吸をして、


「ありがとう先生……ほんとに怖かった」


 ホッと胸を撫でおろしながらそう言った。


「ごめんな、キリヤまで巻き込んで――」


 暁はそう言って俯く。


「いいんだよ。僕がやりたくてやったことだから」


 キリヤはそう言って微笑んだ。


「そっか、ありがとな!」


 暁は、そう言いながら顔を上げて笑う。


 僕も先生も無事。これで一件落ちゃ……そうだ――!


 それからはっとしたキリヤは入ってきた入り口の方に視線を向ける。


「優香が囮を――」


 キリヤはそう言って、急いで入り口の方へ走り出す。


 もしかしたら、大怪我をしているかもしれない。早く援護に行かなくちゃ――


 すると、そう思うキリヤの前に、無傷で息切れ一つなくゆっくりと歩いて来る優等生――糸原優香の姿があった。


「優香!! 大丈夫??」


 キリヤはそう言いながら急いで優香に駆け寄る。


 すると優香はニコッと微笑み、


「誰に言ってるの? 私は優等生なんだよ? 大丈夫に決まっているじゃない!」


 顔を傾けながらそう言った。


「そう、だよね……はあ、よかった」


 これで本当に一件落着、かな――


「ありがとう――でも私の事、そんなに心配してくれたんだ」


 目を丸くしてそう言う優香。


「そりゃ、心配するに決まってるよ! 優香だって、僕の大切な仲間なんだから!!」


 その言葉を聞いた優香は、ポッと頬が赤くなる。


「どうしたの? やっぱり、どこか怪我を――?」

「な、何でもないっ!! それで、そっちはどうだったの? 先生は?」


 優香がそう言うと、キリヤは後ろに立つ暁の方に視線を向けた。


 そして暁の元気な姿を確認した優香は、キリヤの前で見せた勝気な雰囲気からおしとやかモードに切り替え、


「先生、ご無事で何よりです」


 そう言ってニコッと微笑んだ。


「優香も、ありがとな。大丈夫か?」


 暁がそう問うと、優香は微笑んだまま、


「ええ。大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」


 そう言って丁寧に頭を下げる。


「そうか、よかった」


 ほっとした表情の暁。


「さあ、施設に戻りましょう? きっとみんな、心配していますよ」


 優香が笑顔でそう言うと、キリヤたちは頷き、施設へと戻って行ったのだった。



 * * *



 キリヤと別れた狂司は、裏口から廃墟の外に出ていた。


「やっぱり無理だったでしょ、狂司」


 裏口の前に広がっている林の木の陰から、一人の少年が出てくる。


 その少年は深緑のパーカーにフードを深く被り、ポケットの中に手を入れていた。


かける先輩……そうですね。あの人がお人よしすぎなのか、それとも僕の戦略が甘かったのか。どっちにしても『アンチドーテ』の一員として、不甲斐ないです……」


 狂司はそう言って肩を落とす。


「そんなことないさ。狂司はよくやっていたと思うよ。今回は仕方がなかったんだ。あの人はそう簡単に仲間を裏切るなんてできないだろうからね。……さあ戻ろう。ドクターが待っている」


 翔と呼ばれたフードの少年は、そう言って踵を返し、歩き出す。


「はい」


 その後を狂司は小走りで追った。


 それから狂司たちは、林の中へ消えていったのだった。

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