第15話ー⑧ 大事件発生

 施設に着いた暁はキリヤたちと別れ、所長たちへ今回のお礼と報告をするために、スマホが置いたままにしてある職員室に向かった。


 ――職員室にて。


「えっと、確か報告書を作っている時だったから、机の上に――ああ、あった」


 そして暁は机の上に放置されているスマホを手に取ると、そのまま画面を操作して、所長の名前を選んでタップした。


 それから2コールほどで所長は通話に応じた。


「――お疲れ様です、所長」

『おお、暁君か!! 無事だったんだね、よかった』


 所長はそんな安堵の声を漏らした。


 すごく心配させてしまったんだな――


 そう思いながら、面目ないと言った表情をする暁。


「ご心配おかけしてすみませんでした。それで……今回のこと、本当にありがとうございました。キリヤから話は聞きました」


 暁がそう言うと、所長は「ははは!」と笑い、


『いいんだ、君が無事だっただけで。でも、本当に心配したんだよ? 君にもしものことがあったらって――大丈夫かい? 怪我とかしていないか??』


 暁が言葉をはさむ隙もないほど、所長は立て続けにそう言った。


「ええ、俺は大丈夫です! 本当にご心配おかけしました」


 電話越しではあるものの、暁は所長が自分のことをとても大切に思ってくれているということを感じていた。


 所長からそう思ってもらえる俺は、幸せのものなのかもしれないな――


 そう思いながら、暁は微笑んだ。


「あ、そういえば白銀さんもキリヤに協力してくれたとか……今、白銀さんはどうしています?」

『今はちょっと出張で研究所にはいないんだ。すまないね』

「そうですか――じゃあまた後日、直接連絡しますね!」

『そうしてくれるとありがたい』


 それから暁は電話を切る前に、狂司の言っていたあることを思い出す。


 ――『じゃあ先生は『ポイズン・アップル』って知っていますか?』


 政府が極秘で研究をしているチップだったよな。もしかしたら、所長も少しくらいは知っているかもしれない――


「所長! あの……『ポイズン・アップル』って聞いたこと、ありますか?」


 暁がそう尋ねると、所長は沈黙した。


 その沈黙が、知らないという事を現しているのか、それとも別の意味があるのか――暁はそんなことを考えながら所長からの返答を待った。そして、


『そうか。君もそのことを知ってしまったんだね』


 重い口調でそう告げる所長。


「じゃあ、所長はそのことをご存じで……?」

『ああ』


 そう相槌を打ってから、所長はまた黙り込んだ。


「……あの、それっていったい何なんですか?」

『時期が来たら話す。今ここで誰かに聞かれたら、まずいことになるからね』


 いつにない真剣な口調でそう言う所長に、暁は事の重大さを察する。


「わかりました。その時が来るまで待つことにします」

『賢明な判断だ。それじゃ、私は会議があるからこの辺でね』

「はい。お忙しいところ、ありがとうございました」


 それから通話を終える暁。


「時期が来たらか……」


 そう呟きながら暁はスマホの画面を見つめる。


 所長は『ポイズン・アップル』のことを何かを知っている。ということは、狂司が言ったことは本当なのか――?


 そう思いながら、スマホを握る手に力が入る暁。


 もし本当にそうだとしたら、俺は――


「まあ、今考えても仕方ないことだよな」


 暁はため息交じりにそう呟くと、


「そうだった。奏多にも電話をしないと」


 そう言って今度は奏多の名前をタップして連絡を入れる。


 現在の時刻は14時03分。奏多のいるイギリスと日本の時差は9時間あるため、奏多が電話に応じない可能性もあるだろうと暁は思っていた。


「向こうは今頃午前5時くらいだったよな。まだ寝ているのかもしれない」


 暁は奏多に少し悪いな、と思いながら呼び出し音を聞いていた。


 すると、


『もしもし、先生? 大丈夫ですか!!』


 奏多は心配そうな声でそう電話に応じた。


 もう起きていたんだ。さすが、奏多。それと、声が聞けて俺は嬉しい――


 そう思いながら微笑む暁。


「おはよう、奏多。俺は大丈夫だよ」


 暁がそう答えると、


『もし先生に何かあったらって、すごく心配していたんですよ。――でも、よかった。本当によかった』


 安堵の声でそう言う奏多。


 奏多も俺のことをこんなに心配してくれていたのか。素直に嬉しいって思うよ――


「ありがとな、奏多。奏多のおかげでキリヤたちが俺を見つけてくれたんだ」

『もしかして……キリヤからあのことを聞いてしまいました?』


 奏多は何かを探るように暁へそう尋ねた。


 そして暁は「ははっ」と笑うと、


「聞いたときは本当に驚いたよ! でも結果的にそのおかげで助かったわけだから、感謝しかないさ! ありがとな。まあでも――一言、俺にも言ってくれればよかったのにとは思ったよ!」


 笑顔でそう言った。


『あはは……次からは隠し事は無しにします』

「ああ」

『うふふ。ああ、そういえば先生――』


 それから暁たちは他愛のない会話をしたのちに、通話を終えたのだった。




 奏多との通話後、暁は職員室の自席に着いていた。


「今回はいろんな人たちに助けられたな……この恩は少しずつみんなに返していこう」


 そんなことを呟きながら、暁は窓の外を見つめる。


 俺は今回のことで、たくさんの人に支えられて生きていることを改めて実感した。だから俺も、誰かの支えになれる人間になろう――


「それにしても、狂司はどこへ行ってしまったんだろうな」


 あれだけの事件を起こし、ケロッとした顔で施設に戻って来ているはずもないことはわかっていた暁だったが、やはり生徒との唐突な別れは悲しく思っていた。


 狂司のことは残念だったな。でも、なぜだろう。狂司とはまたどこかで会えるような……そんな気がする――


「まあ、そん時はそん時だな! よし――」


 それから暁は途中になっている報告書の作成を再開したのだった。

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