第19話ー④ 平穏な日々

 並んでいる屋台の前まできた暁はその景色に感動していた。


「おおお、本当にお祭り会場みたいだ!」


 屋台の数はそれほど多くはないけれど、グラウンドはちゃんとしたお祭り会場になっていた。


 クレープの甘い香りに、フランクフルトが焼けて弾ける音。これぞ、祭りって感じだな! なんだか、腹が減ってきたよ――


 そう思いながら、腹を擦って歩く暁。


「さあ、俺はどれから行こうかな」


 暁はそう呟きながら屋台を一望すると、生徒たちがそれぞれで楽しんでいる姿を目にする。そしてそんな姿を見た暁は微笑み、


「ははっ。みんな楽しそうだな」


 嬉しそうにそう呟いたのだった。すると、


「先生、にやにやしてる」


 どこからやってきたのか、そう言いながらキリヤは暁の隣に立っていた。


「そうだな。なんだかみんなが楽しそうで、俺も楽しい気持ちになる。キリヤ、企画の提供をありがとな。キリヤのおかげでみんな楽しそうだ」


 暁はそう言ってキリヤに笑いかけると、


「僕はただ、みんなと楽しめる企画をやりたかっただけ。僕も今年で高校課程が修了するでしょ? だから、みんなと何か思い出をつくっておきたかったのかも」


 キリヤはそう言ってみんなの楽しそうな顔を見て、微笑んだ。


 そんな思いがあって、キリヤはこの祭りを企画してくれたのか。だったら、キリヤが卒業するまでの間、キリヤがみんなと楽しく過ごせるよう俺も頑張らないとな――


「なあ、キリヤ。これからもこんな楽しい日々がずっと続いていくといいな!」


 微笑むキリヤを見ながら、暁はそう言った。


「うん!」


 キリヤは満面の笑みでそう答えたのだった。


「じゃあ、先生! 僕と一緒に屋台を周ろう!」

「ああ! でも、優香はいいのか?」

「あはは、あっちで結衣たちに捕まっているみたい」


 キリヤの視線の先を見ると、優香は結衣といろはに頼まれたのか、射的の銃を片手に、屋台に並ぶターゲット(何かのアニメキャラのフィギュア?)を捕捉していた。


 やっぱり優香は、勉強以外でも優秀なんだな――


 そんなことをふと思う暁。


「じゃあ、俺たちも行こうか」

「うん!!」


 それから暁たちは屋台を周り、夏祭りを楽しんだのだった。




 夏祭りが始まって1時間くらい経った頃、暁はキリヤと共に屋台から少し離れた場所にブルーシートを敷いて座っていた。


「やっぱり年を取ると、体力が落ちて来るよな……」

「そんなおじさんみたいなこと言わないでよ、先生」


 キリヤは笑いながらそう言った。


「おじさんって――! ま、まあ……でも確かにそんなことを言う日が来るなんてな、あはは」


 暁たちがそんな話をしていると屋台の方から、


「おーい! そろそろ花火やるってー!!」


 暁たちに向かって大声でそう呼びかけるいろは。


「お! キリヤの一押し、花火の時間だぞ! いくか!!」


 暁がニッと笑いながらそう言うと、


「ねえ。ちょっと馬鹿にしてない?」


 目を細めてそう言うキリヤ。


「してない、してない! ほら!!」

「はあ。まったく」


 暁が満面の笑みをすると、キリヤはやれやれと言った顔をしてから笑う。


 それから暁たちはいろはの元へと向かったのだった。




「キリヤ君! こっちです!!」


 暁とキリヤはいろはたちの集まっているところへ行くと、優香が嬉しそうに手を振っている姿を見つける。


 そしてキリヤはそんな優香に手を振り返し、優香の元へと向かった。


「いろは、掛け声ありがとな!」


 暁がいろはの傍に来てそう言うと、


「良いってことよ! じゃあこれ、キリヤ君とセンセーの分!」


 いろははそう言って暁たちに手持ち花火を手渡した。


「ああ、ありがとう!」


 手持ち花火ってこんなに小さかったんだな――と思いながら暁は受け取った手持ち花火を見る。


 それから暁は久しぶりの手持ち花火を楽しんだ。


 シロは手持ち花火を珍しく思ったのか、とても興味を示しているようで自分の手に持っている花火の先から出ている火花を何も言わずにじっと眺めていた。


 そして初めは乗り気じゃなさそうだった真一は、一人で線香花火を楽しんでいた。


「あ! めっちゃ、面白いこと思いついた!!」


 唐突にそう言ったいろはは、同時に複数本の花火を持ち、振り回し始める。


「いろはちゃん、危ないよ!」

「大丈夫、大丈夫! ほれほれ!!」


 それからいろはは花火で大きな円を描くと、生徒たちは少し離れたところからその様子を笑いながら見つめていたのだった。


 そしてこのレクリエーションを企画したキリヤは、他の生徒たちに普段見せることのない無邪気な表情で花火を楽しんでいた。


 暁はその様子を笑顔で見つめ、花火をやるって決めて正解だったな。キリヤもみんなも楽しんでくれているようでよかったよ――そう思ったのだった。

 

「センセー、何してんの? まだまだ花火、残ってるよー!!」

「あ、ああ!」


 いろはに呼ばれ、その元へ行く暁。そして久しぶりに子供に戻ったように暁は全力で花火を楽しんだのだった。

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