第19話ー③ 平穏な日々

 日が落ち始めた頃、グラウンドに並ぶ屋台に電気が灯った。


「おおお。なんかそれっぽい感じになったな!」


 そんなことを言いつつ、暁は胸を躍らせていた。


「そろそろみんな出てくる頃かな」


 それから暁は玄関の前で生徒たちがグラウンドに出てくるのを待った。


 するとマリアと結衣、シロが浴衣を着て、建物から出てきた。


「3人とも、似合ってるな!」


 暁がそう言うと、マリアと結衣は少し照れながら笑っていた。


「ありがとう。嬉しい! ね? シロ、結衣?」

「はい!」


 シロはコクリと頷く。


「じゃあ行こう! 結衣、シロ」

「いざ、出陣でござる~♪」


 再び頷くシロ。


 シロも楽しんでくれたらいいな――


 そんなことを思いながら、暁はシロを優しい笑顔で見つめる。


 それからマリアたちは、屋台に向かって歩き出したのだった。


「それにしても……他の生徒たちはまだ、か?」


 いろははレクが決まった時から随分と楽しみにしていたみたいだけど、なかなか出てこないな――


 そんなことを思いながら、入り口の方に視線を向ける暁。


 すると、まゆおとキリヤが揃って現れた。


 マリアたちとは違って普段着で現れたキリヤたちに、


「キリヤたちは普段着なんだな」


 ついそんな言葉を発する暁。


「まあね。見た目で楽しむこともありかもしれないけど、僕は雰囲気を楽しみたいって思うから」


 そう言って微笑むキリヤ。


「僕は、特にこだわりがないだけです」


 まゆおは恥ずかしそうにそう答えた。


「あはは、そうか!」


 まあこういう時にいつもと違う格好をしたがるのは、きっと女子の特性みたいなものだからな。キリヤたちに特別なこだわりがないことも頷けるか――


 暁がそんなことを思っていると、建物の中から走ってくる下駄の音が響き、


「まゆおー! お待たせ!! どう? 似合う??」


 そう言いながら、暁たちの前にいろはが現れる。


 黒地に黄色の花柄の浴衣に身を包み、お団子ヘアにしているいろは。


 そんないろはの姿を見て、まゆおは頬を赤らめていた。


「すごく似合ってる……かわいいよ、いろはちゃん!」


 まゆおは少々恥ずかしそうにしながらも、いろはの方を見てそう告げる。


 それを聞いたいろはは嬉しそうに微笑むと、


「あはは! あんがと! さあ、アタシらも行こうか!! まずは射的だよ!!」


 そう言ってまゆおの腕を掴み屋台の方へと歩いて行った。


「相変わらず、まゆおといろはは仲良しだな」


 暁はそう言って、仲良く並んで歩いて行くまゆおたちを見ながら微笑んだ。


「そうだね。まゆおも嬉しそうで何よりだよ」


 暁とキリヤがそんな会話をしていると、玄関からゆっくりと優香が歩いて出てきた。そしていつもと違う姿の優香に暁は目を見張る。


 普段の学生服とは違い、赤を基調にした生地で大きな花が多く描かれた浴衣に身を包んでいた優香。


 服装が変わるだけで、こんなに変化があるものなんだな。なんだか色っぽい――


 優香を見て、そんなことを思う暁。


「キリヤ君、この浴衣どうかな? 変じゃない?」


 照れながらキリヤにそう言う優香。


 ここはキリヤの男気が試されるとき、だな――


 そんなことを思いながら、暁はキリヤの返答を待つ。

 

 そしてキリヤは優香の全身を眺めてから、


「いいんじゃない? さあ、僕らも行こう。みんなもう楽しんでる!」


 そう言って屋台の方を指さした。


 ま、まあキリヤらしい答えだと、俺も思うよ――


 暁はやれやれと言った顔でキリヤを見る。


 それから優香はキリヤのそんな態度にむくれつつ、


「もうっ! 乙女心が全然わかってないんだから!!」


 そう言ってキリヤの手を引き、屋台に向かった。


「ははは。キリヤたちも相変わらずで何よりだな。……あとは真一だけか」


 暁はそんなことを呟きながら、入り口で真一が出てくるのを待っていた。


 もちろん約束はしていないし、俺から声を掛けたわけでもないけれど――


「もしかしたら、来ないかもしれないな。始まる前に、声を掛けるべきだったかな……」


 暁がため息交じりにそう呟いていると、建物の中から真一が出てきた。


「こんなところで何してるの?」


 無感情に平坦な口調で暁にそう言う真一。


「おおお、真一ぃ! 待ってたぞ!! 一緒に行くか!!」


 暁は両手を広げ、この胸に飛び込んで来いと言わんばかりに真一にそう言った。


 するとそんな暁を見た真一は冷めた視線を暁に送り、


「はあ? 僕は一人で行く。一緒に行く人がいないからって、ぼっちそうな僕を待ち伏せするのはやめてくれない? そういうの気持ち悪いよ」


 そう吐き捨て、真一は一人で屋台に向かっていった。


「そういうつもりじゃなかったんだけどな……でもそう見えるのか、俺」


 肩を落としながらそう呟く暁。


「俺も行こう……」


 そして暁も屋台に向かったのだった。

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