第19話ー② 平穏な日々
お祭りレクリエーション当日。
朝からグラウンドでお祭りの準備が進められていた。
「お祭りだー! 楽しみだね、まゆお!!」
その準備を見ながら、大はしゃぎのいろは。
「そう、だね」
そんないろはの隣にいる、少し元気のないまゆお。
「どうした?」
いろははまゆおの顔を覗き込みながらそう尋ねると、
「お祭りって良い思い出がなくって。だからなんだかあまり気乗りしないというか……あははは」
まゆおは苦笑いでそう答えた。それからいろははまゆおの肩に両手を置くと、
「まゆお……。いい? 楽しい行事は全力で楽しむものだよ! 昔は嫌なことがあったかもしれないけど、でも大丈夫! だって、今日はアタシが一緒なんだから! まゆおにとって絶対楽しい思い出になるよ!! だから、笑って! それで一緒にはしゃごう!!」
そう言ってまゆおに笑いかけた。
するとそんないろはの笑顔を見たまゆおは、つられて笑顔になる。
「うん。そうだね……ありがとう、いろはちゃん!」
「いいってことよ!」
それからいろはとまゆおは、祭りが始まるのを心待ちにするのだった。
* * *
――施設内廊下にて。
キリヤは暁に会うために職員室へ向かって歩いていると、
「キ~リヤ君っ!」
背後から聞こえる声に振り返るキリヤ。そしてそこには、ニヤニヤと笑いながらゆっくりと歩いて来る優香の姿があった。
なんだか、すごく含みのある笑顔なんですけれど――!?
優香の顔を見て、そんなことを思うキリヤ。
「ど、どうしたの?」
変なことをされませんように――と祈りながら、キリヤは優香にそう尋ねた。
優香はキリヤの前でピタッと足を止め、後ろで腕を組むと、
「今日のお祭り、一緒に回りましょう?」
満面の笑みでそう言った。
「えっと、僕は先生と……」
「え?」
何言っているの? と言わんばかりの表情をキリヤに向ける優香。
「だから、先生と――!」
「じゃあ準備ができたら入り口集合だから、よろしくね!」
キリヤの言葉を遮るようにそう言って、優香は元来た道を戻っていった。
「強引だな……まあいいか。僕も先生と約束をしていたわけじゃないし」
ため息交じりのそう呟くキリヤ。そしてキリヤはなんだか楽しそうに歩いて行く優香の背中を見つめる。
でもまあ……もっと優香と仲良くなりたいって気持ちもあるから、いいか――
それからキリヤは窓の外を見つめながら、両手を上げて背伸びをした。
「今日は楽しめそうだ」
それからキリヤは「くすっ」と微笑み、自室に向かったのだった。
* * *
結衣はマリアとシロと共にマリアの部屋にいた。
マリアがシロの髪をくしで梳いていると、結衣はさみしそうな顔でマリアに言う。
「マリアちゃんはシロちゃんとお祭りに行くのですか?」
「うん。そうだよ」
その言葉にしゅんとする結衣。
「そうですか……」
そんな結衣を見たマリアは微笑むと、
「結衣も一緒でしょ?」
そう言って、結衣に手を差し伸べた。
結衣の顔はぱあっと明るくなり、
「はい!!」
そう言って差し伸べられたマリアの手をぎゅっと握った。
結衣とマリアは微笑みあい、その様子をシロは見つめていた。
「ふふふ。今夜、楽しみだね。そうだ! シロには私が昔着ていた浴衣があるから、それを着せてあげる」
マリアの言葉にきょとんとするシロ。
「白髪美少女の浴衣姿ですか……いろいろとそそられるものがありますなあ」
それから3人は祭りが始まるまでの間、この場所で過ごしたのだった。
* * *
一人、自室に籠る真一。
ベッドに横たわりながら、気になるバンドの動画を見ていた。
「このボーカル、すごく声が透き通ってる……それについていくように楽器の音が重なっていて。技術はまだまだにしても、ここまで完成されている世界観は凄いかも」
すると突然キリヤからの着信が入り、その音が途切れる。
「キリヤか……」
少しムッとしつつも真一はその着信に応じた。
「何?」
少々きつめの口調で答える真一。
『あ、ごめん。もしかして、動画観てた?』
「そんなとこ。それで?」
真一は変わらずきつめの口調でキリヤにそう尋ねた。
『いや、真一はお祭り行くのかな……って思って』
キリヤのその問いに、真一は少しだけ考えると、
「……気が向いたら、行くかもしれない」
ぽつりとそう答えたのだった。
『そっか。わかった。邪魔してごめんね。じゃ、またあとで』
それから通話を終えた真一は、ぼーっとスマホの画面を見つめた。その画面には着信が来たところで止まったまま動画が表示されていた。
「お祭り、か……」
行く理由はない。でも行かない理由もないか――
「気が向いたら、ね」
そう呟くと、真一は止まっていた動画を再生したのだった。
* * *
「よし、準備も順調だ」
そう呟きながら、会場の準備を見守る暁。
施設のグラウンドでは外部から来たお祭りスタッフたちが、昼過ぎくらいから着々と屋台の準備を始めていたのだった。
俺はお祭りに関しての知識がないから、外部からお祭りの関係者が来てくれることは本当にありがたいな――
暁がそんなことを思っていると、ポケットに入っているスマホが急に振動した。
そして暁はそのスマホを取り出し、画面を見る。
「ん、奏多からのメールか」
それからそのメールを開く暁。
『先生、今夜は夏祭りでしたね。私もそちらで一緒にお祭りを楽しみたかったなと思っております。私が戻ったら、今度は二人でお祭り行きましょうね。それでは、素敵な一日を』
そういえば、奏多には今日がお祭りだって伝えていたっけな――
「今度は二人で……か」
そして暁はそのメール内容に舞い上がりつつも、少し寂しさを感じた。
「俺も奏多とお祭りに行きたかったって思っているよ。戻ってきたら、必ず二人で行こう。奏多もいい一日を――っと。よし!!」
暁は海外にいる奏多にちゃんと届くようにと、スマホを高く掲げてからメールを送信した。
「まあ。こんなことをしなくても、ちゃんと届くことはわかっているんだけどな!」
はにかみながらそんなことを一人で呟く暁。
それから暁は、これから始まるお祭りといつか一緒に行ける奏多とのお祭りデートに心を躍らせながら、再び準備を見守ったのだった。
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