第81話ー⑦ 二人を繋ぐもの

 空気が変わった――? 


 そう思いながら優香が目を開けると、そこは神社の境内だった。


「ここに着いたという事は」


 優香が辺りを見渡すと、


「あ、キリヤ君! お姉さんも!!」


 竹箒たけぼうきを片手に、驚いた顔をしている環奈が視界に入った。


「か、環奈……?」


 キリヤがそう呟くと、環奈は二人の方に駆け寄り、


「おかえりなさい」


 そう言って微笑んだのだった。


「「ただいま!!」」


 そして優香とキリヤは笑顔でそう答えた。


 その後、優香たちは神主から暁は5日前に施設に帰ったことを聞かされた。


「君たちが無事に帰ってくれたこと、本当に嬉しく思うよ。ありがとう。そして、すまなかった」


 神主はそう言ってキリヤに頭を下げる。


「違うんです。世界が改変されるとき、僕がうっかり『渡り石』を落としてしまって……だから神主さんは何も悪くないんです!」


 キリヤはそう言って申し訳なさそうな顔をした。


「いや、そんなことはない。君がなかなか帰ってこないことを私はわかっていて、何もしなかった。優香さんたちが来なかったら、私は君をそのままに……だから謝らせてくれ!!」


 神主は頭を下げたままそう言った。


「キリヤ君、神主さんもこう言っていますし、ここは素直に謝られておきましょう。それも神主さんのためですよ」


 優香はそう言って微笑んだ。


「わ、わかりました……でも、もういいんですよ。もう終わったことですから。だから頭を上げてください」

「ありがとう、キリヤ君」


 神主はそう言いながら、顔を上げた。


「ふふふ。じゃあ、キリヤ君、次に行かねばならない場所はお分かりですね?」

「……うん」


 そして優香は神主たちの方を見ると、


「それでは私たちはこれで失礼致します。またちゃんとご挨拶に伺いますね」

「ああ。待っているよ」


 神主はそう言って微笑んだ。


「はい。じゃあ行きましょうか、キリヤ君」

「うん! 神主さん、ご協力ありがとうございました! また必ず遊びに来ます!」

「ああ、待っているよ」


 そう言って神主は微笑んだ。


 それから優香たちは駅へと向かい、電車を乗り継いで、S級保護施設を目指したのだった。




 ――S級施設エントランスゲート前。


「そういえば、先生に連絡はしたの?」

「あ、そうだった。先生に連絡しないと、入れないんだったね」


 それから優香はスマホを取り出すと、画面をタップしてからそれを耳に当てる。


「あ、先生。たった今施設に到着しました。開けてもらってもいいですか?」


 優香はそれだけ言って、一方的に通話を終える。


「もっと詳しく話してあげてもよかったんじゃ……」

「いいの。リアクションは大体把握済みだから!」


 優香たちがそんなやり取りをしていると、建物の中から暁が走ってやってきた。


「先生!!」


 優香はそう言って暁に手を振り、キリヤも暁に見えるように手を上げた。


 先生、すごく嬉しそうな顔をしてるなあ――


 そう思って微笑みながら、走って来る暁を見つめる優香。


 それからエントランスゲートに着いた暁は、優香にゲストパスを渡した。


 そしてゲートを潜る優香とキリヤ。


「お、おかえり! 待ってた。2人が一緒に帰ってくるのを!!」


 暁は今にも泣き出しそうな顔でそう言った。


「先生、ごめんね。僕――」


 キリヤが最後まで言葉を言う前に暁はキリヤに抱き着いた。


「先生!? 恥ずかしいから!!」

「いいだろ……ずっと会いたかった。心配したんだから」


 そんなキリヤたちを見ながら優香は笑う。


「案外、一番キリヤ君に帰ってきてほしかったのは、私よりも暁先生の方だったのかもしれませんね」

「そっか」


 そう言って、キリヤは嬉しそうに暁を見つめたのだった。


「あ、そうだ。今夜はどうする? 施設に泊っていくか?」


 暁がキリヤから身体を離してそう言うと、


「ううん。研究所に戻るよ。所長たちにもちゃんと謝らなくちゃ」


 キリヤはそう言って微笑んだのだった。


「そっか……」


 暁はそう言って少し残念そうな顔をしていたが、また会えばいいか! と言いながら、笑っていた。


 それから優香が八雲に連絡を入れると、八雲は連絡を受けてからすぐに研究所からすっ飛んできた。


「キリヤ君! 本当に、キリヤ君!?」

「本当にキリヤですよ。ご心配をおかけしました」


 そう言って頭を下げるキリヤ。


「いいんだよ、君がここにいてくれる。ただそれだけで、僕もみんなもきっと嬉しいから」


 八雲はそう言って微笑んだ。


「じゃあ笹垣さん、よろしくお願いします」


 優香がそう言うと、


「うん! じゃあ、早く戻ろう。『グリム』のみんなの元へ」


 八雲はそう言って車にエンジンを掛けた。


「はい! あ、それと安全運転でお願いします」


 優香が真面目な顔でそう言うと、


「もちろん!!」


 八雲はそう言って大きく頷き、車を動かした。


 そしてそのまま優香たちは、研究所に向かったのだった。

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