第81話ー⑧ 二人を繋ぐもの

 ――研究所。


 車から降りたキリヤはそのまま所長室へ向かった。


「所長、ただいま戻りました」


 キリヤが所長の顔をまっすぐに見てそう言うと、


「おかえり、キリヤ君」


 所長は優しい顔でそう言った。


 それからゆめかたちとの再会を果たすと、キリヤは久しぶりに自分の部屋に戻ったのだった。




 ――キリヤの部屋にて。


 優香とキリヤは並んでベッドに座っていた。


「そうだ……メモ、見たよ」


 優香が笑顔でそう言うと、キリヤははっとした顔で優香の方を見る。


「あ……」

「その反応、忘れていたでしょ」


 目を細めながらそう言う優香。


「ほんっとに、ごめん!!」


 キリヤはそう言って顔の前で手を合わせた。


「もう! それで?? 帰ったら言いたいことがあるって書いていたじゃない?」

「え、う、うん……」

「何? 言いたくないの?」

「そ、そうじゃなくて……えっと、その。なんというか――」


 歯切れの悪い言い方をするキリヤに、優香は首を傾げる。


「?」

「一応、前置きね。あっちの世界の僕と、優香がその――」

「ああ、付き合っていたって話?」

「あ、やっぱり知っているよね」


 そう言って肩を落とすキリヤ。


「それがどうしたの? 私は別に気にしないよ。だってキリヤ君はキリヤ君なんだから」

「うん……ありがとう」


 キリヤはそう言って微笑んだ。


「それで?」

「はい。えっと……」


 それからキリヤはゆっくりと口を開く。


「優香は、あとどれくらいヒトでいられるのかわからないって言っていたよね。でも、いつまでも優香が優香である限り、僕は優香の隣に居続けたい」

「うん」

「だから……優香。僕と――」

「いいよ!」


 優香はキリヤの言葉を遮るようにそう言って、微笑んだ。


「え?」

「だからいいよって言ったの!!」

「まだ僕、最後まで言えてない……」

「じゃあ――」


 優香はキリヤの唇にそっとキスをした。


「な、何するの!? ええ!?」

「あ、あれ……もしかして違った? あっちの世界の私とは付き合っていたし、そういうこともあったのかなって」


 優香はそう言って困惑する。


 そして今度はキリヤからそっと口づけをした。


「そういうのは、僕からが良かったなって……」

「ふふふ。どっちが先かなんて関係ないよ。それと、私はこれからもずっとキリヤ君の傍に居られるよ」

「え、どういう事……?」


 キリヤはきょとんとしてそう言った。


「明日になれば、わかるから」


 優香はそう言って微笑んだ。




 そして翌日、キリヤは優香の言った言葉の意味を知る。


「優香君、能力が消失しているよ!!」


 所長は嬉しそうに優香へそう告げた。


「え!? どういうこと??」


 キリヤは驚いた顔でそう言った。


「うん。あっちの世界に行ったとき、私の中にいる蜘蛛がもういいよって言ってくれたんです。だから私は、もうずっとキリヤ君の傍に居られるよ」


 優香はそう言ってキリヤに笑いかけた。


「じゃあもう優香と離れることはないってこと……?」

「うん!」

「良かった……本当によかった」


 キリヤはほっとした表情でそう言ったのだった。




 キリヤ君が帰ってきた。そして私の能力はなくなった。


 いつもとは違う日常の幕が上がり、これからどんな未来が待っているのだろうとそんなことを思うけれど……でも、私には不安なんてないよ。


 だって私には私を見守ってくれている存在がいて、大切な仲間たちがいる。そして大切な人もいるから――


 そう思いながら、優香は隣で笑うキリヤの方を見て微笑んだ。


「私達を繋げてくれた、これには感謝しないとね」


 優香はそう言って左手にあるバングルに視線を落とし、そっと触れる。


「優香?」

「ん? どうしたの、キリヤ君!」


 それから優香はキリヤと共に、新たな未来に向かって歩き出すことにしたのだった。

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