第74話ー⑤ アイドルでも役者でもステージの上では同じだから
――帰りの車内。
凛子はマネージャーの車で施設に向かっていた。
「今日のライブ良かったね、凛子」
マネージャーはバックミラー越しにそう言った。
「はい。今回は私のわがままを聞いてもらってありがとうございます」
「ううん。みんな、凛子とやりたがってたから。きっかけがあってよかったよ」
そう言って嬉しそうに笑うマネージャー。
「ありがとうございます。私もずっと、みんなと一緒にステージをやりたかった……だから今回はすごく楽しかったです!」
「そっか」
でも私の楽しんでいる姿は、観ている人たちにはどう映ったのだろうか。もしかして、独りよがりに見えていたのでは――? ふとそんなことを思い、不安げな顔をする凛子。
「あの……」
「ん?」
「私、ちゃんとアイドルできていましたか?」
凛子はバックミラー越しに、マネージャーの顔を見てそう言った。
「……何、言ってるの」
「え……」
やっぱり、私は――
「今日の凛子を見て、誰が凛子をアイドルじゃないなんて思うのよ」
マネージャーは優しい声でそう言った。
その言葉に顔を伏せる凛子。
ちゃんと、伝わっていたのかな……本当にそうだったら、嬉しいな――
そう思いながら、凛子は涙をこらえる。
「私ね、凛子がS級だってわかってから後悔したんだ。もっと凛子の話を聞いてあげられたらよかったのかなって……」
凛子は話を聞きながらゆっくりと顔を上げると、マネージャーが悲し気な表情でそう語っていることを知った。
「本当は凛子が女優のお仕事をしたいんだってことはわかってたのに、事務所の意向で無理やりアイドルをやらせてしまって、それがストレスになったんだろうなって」
「それは――!」
「でもね。今日の凛子を見て、確信したよ。元天才子役の知立凛子なんじゃなく、今はアイドル知立凛子なんだって。凛子はすごい。もっともっとすごいところまで行けるって!」
マネージャーは嬉しそうにそう言った。
「マネージャー……」
今までたくさん迷惑をかけてきたのに、私のことをずっと見守ってくれていたんだ――
「ねえ、これからも凛子の活躍する姿を傍で見させてくれる? どこまでも高みに向かっていく凛子を支えさせてくれる??」
「ええ、もちろんです!」
そう言って満面の笑みをする凛子。
「じゃあこれからもよろしくね、凛子!」
「はい!!」
それから凛子は施設に着き、マネージャーと別れたのだった。
――施設内。
「ふわああ。今日は疲れましたね……早く戻って寝よう」
凛子は歩きながらそう言って目を擦った。そして、
「お! 凛子、おかえり!!」
偶然目の前を通りかかった暁が凛子にそう言った。
「ああ、先生。お疲れ様ですぅ」
「ライブ、お疲れ様! すごく良かった!! なんか、こう……ぐわあああって感じでさ!」
それから暁は身振り手振りでライブの感想を伝えていた。
「うふふふ。ありがとうございます、先生☆」
相変わらず語彙力は皆無だけど、先生なりに伝えようとしていることはわかりますよ――
そんなことを思いながら、嬉しそうに話す暁を見ていた凛子。
「そういえば前に俺が、本当は女優がいいんじゃないかって話をしたことがあっただろ?」
「ああ、そんなこともありましたねえ」
「でもその時に凛子はさ、『アイドルも楽しんでいます』って言ってたな」
「そう、でしたね」
その時のことを思い返しながら、そう答える凛子。
「あの時の言葉の通りだった。凛子は本当にアイドル、楽しんでいるんだな!」
暁がそう言うと、
「はいっ☆」
凛子は満面の笑みでそう答えた。
「これからもスーパーアイドル、知立凛子を楽しみにしているからな! じゃあ、おやすみ!!」
そう言って暁は職員室の方へ歩いていった。
「おやすみなさいです☆」
凛子は歩いていく暁の背中を見つめながら、
――画面の向こう側の人たちにも伝わったんだ。
そう思って微笑んだ。
「よおし、これからもアイドル、がんばっちゃいますよお!」
それから凛子は自室に戻ったのだった。
* * *
しおんの部屋にて――。
座りながら芸能雑誌を読むしおん。
「あ! 凛子たち、ライブをやってたんだな」
しおんがそう言うと、隣にいた真一がその雑誌を覗き込んだ。
「へえ。ってことは凛子もついにってことだね」
「そうみたいだな! えっと……『アイドルも役者も、二足の草鞋で世界を目指します☆』か。さすがだな……俺たちも、頑張ろうぜ!!」
しおんは笑顔で真一にそう言うと、
「そうだね。しおんのライバルは僕のライバルでもあるから!」
真一も笑顔でそう答えたのだった。
* * *
凛子の復活ライブは業界で瞬く間に話題になった。
元天才子役ではなく、知立凛子は本当のアイドルへ――そのフレーズが各メディアで次々に拡散されていった。
それから凛子は以前よりアイドルとしての仕事が増えていき、そして――
「主演映画……?」
「ええ。普通の女の子がトップアイドルになるって物語だって! どうする??」
マネージャーが笑顔で凛子にそう告げると、
「もちろん、やります! 芝居もアイドルも私にとってはかけがえのないものですから!」
凛子は満面の笑みでそう答えたのだった。
そして凛子は、再び女優の仕事を始めることとなる――。
『アイドルでも役者でも、舞台に立てばみんな同じ。観に来てくれた人たちに楽しんでもらったり、時には自分自身で楽しんだり。どっちが良いとか悪いとかじゃなくて、どっちも素敵なものなんだ。
だから私はどっちかを取るんじゃなく、どっちも大事にする。そうすれば、また新しい道が開けるから――!』
それからの凛子は女優として数々のドラマや舞台に出演し、アイドルとしてドーム公演も成功させた。
アイドルと役者。どちらも諦めない選択をした凛子だからこそ、掴めた未来だったのかもしれない――
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