第74話ー④ アイドルでも役者でもステージの上では同じだから

 施設内、廊下にて――


 凛子と織姫は女子の生活スペースに向かって歩いていた。


「それで? 先ほどのことですが――」

「能力のことでしたよね☆ そうなんですよ、どうやら消失したみたいで!」


 満面の笑みでそう言う凛子。


「みたいでって……でも凛子さんもまだ15歳ですよね。もう思春期を超えたという事なんでしょうか……?」


 そう言いながら顎に指を添えて、考えるしぐさをする織姫。


 まあ年齢的なものなのか、それとも精神的なものなのかわからないけど、でも考えられることはそれくらいしかないよね――


「まあ、きっとそういうことなんだと思います☆」

「……じゃあ来年からは別の学校、という事ですね」


 そう言って俯く織姫。


「あらら~☆ もしかして、寂しく思ってくれるんですかあ?」


 凛子は織姫の顔を覗き込みながら、そう言って笑った。


「べ、別にそう言うわけでは!! ――ただ女子生徒がいなくなってしまうので、話す相手がいなくなってしまうのかなと」

「ふふふ。それを寂しいと言うんじゃないですか☆」

「うぅ……もう、そういう事でいいです」


 織姫はそう言いながら、頬を赤らめる。


「大丈夫。ここには先生もいますし、剛君や狂司君もいますから! それに女子なら、水蓮ちゃんもいるじゃないですか☆」

「そう、ですね。私は1人じゃないですものね。ありがとうございます、凛子さん」


 そう言って微笑む織姫。


「いえいえ、お安い御用です☆」


 だって誰かを笑顔にするのが、アイドルだもんね――


 織姫の笑顔を見て、凛子はそう思うのだった。



 それから数日後。凛子は暁と共に研究所へ行き、自身の能力消失を確認する――。




 ――凛子の自室にて。


「これで私もここを出られるわけですか……」


 なんだか不思議だな。あっという間だったというか――


「たった2年なのにこの場所ですごくたくさんの出来事があって、変わるきっかけがあって――」


 そしてしおんの顔を思い出す凛子。


「やっぱり彼との出会いが、私を変えたのかもしれない。それに、今でも」


 凛子は机に置いてある『はちみつとジンジャー』のCDに目を向ける。


「悔しいけど、2人の音楽を聴いていると私もステージで歌いたい、観てくれている人たちを笑顔にしたいって思えてくる。それにしおん君を見ていると、音楽は楽しいものなんだって思い知らされる……」


 そう言って両手をぎゅっと握る凛子。


「あああ! 負けたくないっ!」


 それからスマホを取り、凛子はマネージャーに電話を入れた。


「――ライブしましょう! 私の復活ライブ!!」


 そして凛子の復活ライブが決まったのだった。




 数日後。凛子の復活ライブ当日――。


「おはようございます!」


 凛子はそう言って楽屋の扉を開けた。


 するとそこには凛子と同じアイドルユニットのメンバーがいた。


「凛子! お疲れ様!」


 そう言ってグレー色のポニーテールヘアを揺らしながら、右手を振る少女。


「かなちゃん、ありがとう。お疲れ様です!」

「おお、お久じゃん! レッスン被らなかったもんね~」


 金髪内巻きカールの少女がそう言って笑った。


「そうですね~。でも百合子ゆりこがいるなら、きっと大丈夫だって私は思ってますよ」

「りんりん、今日はいつもより楽しそうだね~」


 艶々の黒髪の少女が笑顔でそう告げる。


千聖ちさとちゃんとみんなとライブできるからかな!」

「準備はできてる?」


 ニヤリと笑いながらそう言う胸まであるスカイブルーの髪の少女。


「ええ、もちろんですよ☆ わかちゃん、今日は最高のライブにしましょう!!」

「じゃあ凛子の準備ができたら、リハやるよ」


 かながそう言うと、


「「はあい」」


 少女たちは声を合わせてそう言った。




 ステージ上――。


 リハーサルが始まり、1曲ずつ音と立ち位置の確認をしていった。


「ここで、こう……うーん」


 曲の間で凛子が振りの確認をしていると、


「そこは腕をこう大きく振るといいよ」


 百合子はそう言って凛子の傍にやってきた。


「えっと……こう?」

「そうそう! ばっちり!」


 笑顔で親指を立てながらそう言う百合子。


「よかった……ありがとう、百合子」

「でも凛子さ、すごくダンスが上達したよね! 私も負けてられないなあ」

「そう思ってくれるなら、よかった。私、前はもっとやる気なくて、みんなに迷惑をかけたから……」


 そう言って苦笑いをする凛子。


「うん。知ってたよ。だから私も、凛子に対してあたりがきつかったかなって反省してる……だからごめんね。私、凛子が悩んでいることに気が付けなくてさ」


 百合子にそんなことを思わせてしまっていたなんて。私がアイドルを……アイドルのことをもっとちゃんと知ろうとしなかっただけなのに――



「百合子は悪くない。みんなが頑張っているのに私、本当に失礼だった。アイドルなんてって思ってた……でもね、今は違うよ。アイドルをもっとがんばりたい。みんなと一緒に最高のステージを届けたいんだ。だから――」


「うん。みんな、気持ちは同じ。……私達、これでやっと始められるね。一緒に同じものを見られる」



 そう言って微笑む百合子。


「百合子……はい☆ 今日はアイドル史に残る、最高のライブにしようね!!」

「うん!!」


 そして数時間後。多くの観客が見守る中、凛子たちのライブが始まった。


 5人のアイドル達が、輝くステージの上でパフォーマンスをする。その姿は見ている人間すべてを魅了し、そして笑顔にした。


 ライブをしているとき、凛子は幼い時に感じたものを再びステージ上で味わっていた。


 アイドルでも役者でもステージの上では同じなんですね――


 そんなことを思い、最後までスーパーアイドル知立凛子を魅せたのだった。




 ライブを終了後、ステージ裏――。


 凛子たちは並んで、壁にもたれながら座っていた。


「なんか、すごかった……」


 かながそう呟くと、


「あの会場にいたみんなが一つになったような、そんな感じだったね」


 百合子は呆然とそう言った。


「胸がドキドキした~! ね? わかちゃん、凛子ちゃん!」


 千聖は胸を押さえてそう言った。


「そうだね!」


 わかが笑顔でそう言うと、


「共感覚、ですね……」


 凛子は笑いながらそう言った。


「何それ~」


 千聖が興味津々に凛子に尋ねる。


「言葉にするのは難しいけど、でもみんなが一つになったってことかな」


 凛子がそう言うと、4人は笑顔になった。


「――じゃあいつまでもここにいるとスタッフさんに迷惑も掛かるし、続きは控室で!!」

「「はーい」」


 そして5人は控室へ向かったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る