第74話ー③ アイドルでも役者でもステージの上では同じだから

 翌日。凛子が食堂に着くと、そこには暁と施設の生徒たちが揃っていた。


「皆さん、おはようございますう☆」


 凛子がそう言って微笑むと、そこにいる全員がそれぞれで朝の挨拶をした。


 さて、今朝は何を食べようかな――


 それから朝食を選び終えて着席した凛子は、手を合わせてからその朝食を摂り始めた。そしてしばらくするとそこへ暁やってきて、


「凛子の昨日のレクの件なんだけどさ!」


 そう言って微笑んだ。


 たぶん、私以外のみんなにはもう話したんだろうな。結局どうなったんだろう――


「何か良い案があったんですか?」


 凛子は笑顔でそう尋ねる。


 すると暁はぱあっと笑顔になって、


「ああ! 織姫のおかげだ!」


 織姫の方を見てから凛子にそう言った。


 まあ、結局はそうなるよね。うん――


 そう思いながらも凛子は笑顔を作り、


「そうですかあ☆ それは楽しみですね! それで、結局は何になったんです?」


 明るい声で暁にそう尋ねた。


「ふふふ~。なんと、今回のレクリエーションは――ドッジボール大会だ!!」

「ド、ドッジボール大会??」

「そうだ! さっそく今日の午後、やるぞ! ドッジボール大会!!」


 暁は楽しそうにそう言った。


 なんだか懐かしいな――と思いながら、楽しそうに笑う暁を見つめる凛子だった。


 それから午前の授業終了後、昼食を摂り、一同はグラウンドに集合した。



 * * *



 ――グラウンドにて。


「ドッジボールなんて古典的な遊び、僕はしたことないですね」


 狂司はそう言って困り顔をしていた。


「まあ楽しもうぜ! 能力有りなら、それを知っても知らなくても関係ないわけだからな!」


 そう言ってニコッと微笑む剛。


「そうですね。お馬鹿な剛君にしては、良いことを言います」


 狂司は満面の笑みでそう言った。


「お、お馬鹿は余計だ!!」

「では、先生。さっそくチーム分けを――」

「無視すんな~!!!」


 相変わらず仲が良いのか悪いのか――


 狂司と剛のやり取りを苦笑いで見つめる生徒と暁だった。


「ええ、コホン。気を取り直して……レクリエーションを始めるぞ!!」

「「おおお!」」

「ルールは簡単。1個のボールをコートの中にいる人間目掛けてお互いに投げ合う。そしてボールに当たったものはコートを去る。最後にコートに残った人数が多いチームが勝ちだ!」

「特別ルールに、能力の使用を認める。だろ?」


 剛が確かめるようにそう言うと、暁はニヤリと笑った。


「そうだ! じゃあ、思う存分楽しんでいこう!」

「「おおお!!」」


 それからチーム分けのくじ引きをして、決まったチームは――



 赤チーム……狂司、織姫。

 青チーム……剛、凛子、暁。



 今回も狂司と暁が同じチームになることを避けるため、暁はくじ引きには参加せずに平等なチーム分けをすることになった。


 そして1人少ない赤チームは、一度アウトになった1人を復活させる権利を有するというルールを設けることで人数的な問題を補うことに。


「今回は敵同士だな、狂司」


 剛がニヤリと笑いながらそう言うと、


「ええ。日頃の鬱憤を晴らしますよ」


 狂司も挑発するようにそう言った。


「ああ、覚悟しておけ! 俺の炎の剛速球を食らわせてやるからな!!」


 それからドッジボール大会は始まったのだった。




 青チームのコート内には剛と凛子。そして赤チームのコート内には織姫がいた。


 きっと織姫の能力を考慮して、先に織姫をコートの残したんだろうな――


 そんなことを思いながら、織姫を見つめる暁。


 今回はどんなレクになるだろう――暁はそう思い、心を躍らせて微笑む。


「じゃあ始めよう! 水蓮、ボールを上に投げてくれ!」


 暁がそう言うと、


「はーい!」


 水蓮は笑顔でそう言って、ボールを天高く投げる。


 そしてそのボールは暁たち青チームの陣地に落ちた。


「よしゃ、いただきぃ!」


 そう言ってボールを掴む剛。


「いくぜ、織姫!!」


 そして織姫へ炎を纏わせたボールを投げる剛。


 すると織姫は小さな隕石を生成し、ボールの威力を弱めてコート内に落とした。


「やるな!」


 剛が織姫にそう言うと、織姫は静かにその転がっているボールを持ちあげる。


「……どうしてですか?」

「え?」

「どうして力を押さえたんですか? 私が、女だからですか? そうですよね??」

「あ、いや……それは……」

「許さない――っ!!」


 織姫はそう言って、右手の手のひらにボールを乗せた。するとそのボールは宙に浮く。


「粉々になりなさいっ!!」


 織姫がそう言うと、そのボールは自ら光を放ち、そのまま剛に向かって飛んでいった。


「いや、それはやばいって!」


 剛は焦りながらそう言って、咄嗟に両手を炎で覆う。そして飛んできた光の玉を正面から受け、勢いに負けてコートの外まで吹っ飛んだ。


「ううう……」


 剛はうなりながら、目を回して倒れていた。


「あはは。本当に君は馬鹿ですね。まあ概ね作戦通りですが」


 狂司は倒れている剛の元へ行き、そう告げた。


「おーい! 剛は大丈夫そうか?」

「はい! とりあえずここだと邪魔そうなので、いったん医務室に運びましょう」

「ああ、わかった」


 それから暁は剛を背負い、医務室へ運んだ。


 そして暁が帰ってくると、レクリエーションは再開されたのだった。


「こちらのコートに落ちたので、青チームボールからですねえ」


 凛子はボールを持ちながら、織姫にそう告げた。


「手加減は許しませんよ?」

「手加減? 私がしてあげるとお思いですか? うふふ。誰が相手でも全力で迎え撃つのが、知立凛子流ですよ☆」

「さすが、スーパーアイドル知立凛子さんです」


 そう言って織姫はニコッと笑う。


「私の能力はボールを使いますからねえ。これらの扱いには慣れているので……すよ?」


 突然首をかしげる凛子。


「どうしたんですか。お得意のお芝居ですか」

「……能力が発動しないですね☆」

「え……?」


 目を丸くする織姫。


「えいっ!」


 その隙に織姫へボールを投げる凛子。そして突然のことに反応できなかった織姫はそのボールが当たってしまう。


「しまった……」


 そう言って悔しそうな表情をする織姫。


「ごめんなさい☆ でも、能力が発動しないのは、本当なんですよ。うーん。不思議ですね☆」

「え、それって……」

「織姫さん、交代ですよ? まんまとはめられてアウトになったんだから、さっさと外野に行ってもらえませんか?」


 狂司は笑顔でボールを持ちながら、織姫にそう告げた。


「い、言われなくてもわかっていますよ!! 何なんですか、その言い方は!! それと凛子さん? 話の続きはこのレクリエーションの後に」

「はあい☆」


 それから凛子はあっという間に狂司のボールに当たってアウトになり、外野の暁と交代をした。


 そしてここからが長い戦いの始まりだった――。



 * * *



「これ、いつまで続くのかな」


 コートの中を見つめながら、そんなことを呟く凛子。


 ――そのコート内では激しい戦いが繰り広げられていた。


 暁が片腕を獣人化してボールを投げると、狂司はそのボールを鴉の羽の盾で受け止める。

 そして今度は狂司が大量の鴉の羽と共にそのボールを暁に向かって投げるが、暁に届く前にそのボールは無効化され、普通のボールとなって暁が受け止める。


 そんな繰り返される攻防戦を退屈そうに見つめる凛子と織姫。


「はあ。制限時間を設けなかったことが仇となりましたか……」


 そんなことを呟き、あくびをする凛子。それから凛子は右手を見つめて、再び能力が発動するかの確認をした。


 ああ、本当に私――そう思いながら、凛子はふふっと笑う。


「お二人とも、いい加減にしてください!! そろそろ決着を!!」


 織姫が暁たちに向かってそう叫び、暁と狂司はお互いに最後の一投をして今回のレクリエーションはドローとなった。


「ああ、良い汗かいたな! 狂司!!」


 暁が満面の笑みでそう言うと、


「僕、そういう暑苦しいのはあまり――」


 狂司はそう言って顔をそらした。


「ええー」

「あ、そういえば、剛君は目を覚ましたでしょうか」


 狂司がそう言って、暁の方を見ると、


「お! じゃあ一緒に医務室まで見に行くか!」


 暁は嬉しそうにそう言った。


「いえ。それは先生にお願いしますね! 僕は汗を流してくるので」


 そう言って建物へ向かって歩き出す狂司。


「ああ、わかったよ」


 暁は悲しそうな顔でそう言った。


 そしてそんな暁を見た水蓮は、そっと暁の傍に寄り、その身体優しくを擦った。


「先生、ドンマイ! よしよし」

「――水蓮! お前は優しいなあ!!」


 そう言って水蓮の頭を思いっきり撫でる暁。


「頭、ごしごしし過ぎ! スイ、禿げちゃう!!」

「あははは、悪い悪い!」


 水蓮ちゃん、しっかり者になってきたって感じだなあ――


 そう思いながら、凛子は水蓮と暁のやり取りを微笑ましく見ていた。


「じゃあ私達もこれで。行きましょう、凛子さん。さっきの続きを」


 そう言って真剣な顔をする織姫。


 ああ、そういえば織姫ちゃんとそんな約束をしていましたね――!


「はあい☆ じゃあ先生、またあとでですね!」


 そう言って織姫と凛子も建物の中へと向かっていったのだった。

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