第71話ー⑨ 捕らわれの獣たち 後編

 研究所にて――。


「これで必要な検査は全て完了ですか?」


 暁は検査室のカメラに向かってそう尋ねた。するとスピーカーから、


『ああ。今回も問題なし! 健康そのものだよ!!』


 嬉しそうにそう告げるゆめかの声が聞こえた。


「そうですか! ……あの、他の子供たちは」

『ああ、みんな大丈夫! 問題ないよ』

「よかった……」


 そう言って胸を撫でおろす暁。


『じゃあ続きは検査室を出てからにしよう。所長が君と話したくてしょうがないみたいだからね』

「あ、はい!」


 そして暁は検査室を出て、着替えを済ませてから所長室へと向かった。




 所長室に着くと所長はソファに腰を掛けて、優雅にコーヒーを嗜んでいた。


「本当に俺と話したいって思ってます?」


 暁は部屋に入って開口一番そう告げた。


「思っているよ! 君と、コーヒーを片手に話がしたい! とね!!」


 いや、それはコーヒーを飲みたいだけなのでは――?


 そう思いつつも、所長の正面のソファに腰を掛ける暁。


「そういえば、優香は――?」

「ああ、きっとキリヤ君に連絡をしてる頃じゃないかな。彼は今、外に出ているからね」

「そうですか」


 だから『グリム』の人たちが俺たちを助けに来たとき、キリヤの姿がなかったんだな――


「……えっと、それで話ってなんですか?」

「ああ、今後のことさ」

「今後……」

「君も知っているね、あの動画のことは」


 所長が言っていることは、篤志さんが撮影したあの時の――そう思った暁は、静かに頷いた。


「政府は君があの動画を拡散し、安藤の不正を暴いたという事にすると決定した」


 その言葉に一瞬だけ、目を見開く暁。そして、


「――そういえば、ドクターにも同じことを言われましたね。『君がこの事件の英雄になる』って。だから能力者の未来を頼むと……」


 そう言って視線を下に向ける。


「そうだ。だから君たちにしたことを公にはしないでほしいという事だ。それ以外は我々の自由にしてもいいらしい」


 そして暁はゆっくりと顔を上げると、


「わかりました。これでいつもの生活に戻れるのなら、俺はそれ以上、何も求めません」


 そう言って笑った。


「今回はいろいろとすまなかったね。それと君に話さなくちゃならないこともたくさんあるんだ」

「わかりました」


 それから数時間、所長は篤志から聞いた真実を暁に伝えた。


『1st』の件、『ポイズン・アップル』の件、そして『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』がなぜ生まれたのかという件――。


「たくさんのことで頭がいっぱいだろうが、ゆっくり整理してくれたらいい。とりあえず、これで一件落着だってことさ」

「そう、ですね」


 全てを聞いた暁は頭が混乱していたが、どうしても今一つだけ確認したいことだけはわかっていた。


「あの。じゃあいろはは、もう自由になれるってことなんですよね……?」


 暁がそう言うと、所長はニコッと微笑み、「ああ」と答えた。


「そうですか……はあ。よかった。それだけわかれば、あとのことは今は……あはははは」


 そう言ってソファに背中を預ける暁。


「どうする? いろは君に会いにいくかい?」

「……いえ。たぶん、いろはが一番に会いたい相手は俺じゃないだろうから」


 そう言って「ふふっ」と笑う暁。


「ははは、そうか!」

「じゃあ俺は、俺が会いたい子供たちのところに戻ります。もうずいぶん帰っていないから」

「そうだね。きっとみんな君に会えるのを楽しみにしているに違いないよ」

「はい!」


 暁はそう言って微笑み、それから所長室を後にした。


 これからのことを所長から任されたけれど、今はそんなことよりも――


「じゃあ、帰るか! みんなのところにさ!!」


 そして暁はいつもの場所へと戻って行ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る