第71話ー⑧ 捕らわれの獣たち 後編
「君たちがここを出るには、僕の息の根を完全に止めてからじゃないとね。中途半端に生かしておくと君たちに未来はないよ? まあ君に人が殺せたら、だけどね!! あはははは!」
隼人はそう言って高笑いをする。
確かに、俺には人を殺す覚悟なんて……やっぱり無理なのか――
そう思って、拳を握る暁。
「――ねえ。あなたが本当に総理の皮をかぶっているか教えてよ」
翔が一歩前に出て、そう告げた。
「翔……?」
「はあ? なんでそんなことをしなきゃいけないわけ?」
隼人は眉間に皺を寄せてそう言った。
「だって、僕はそれを見たわけじゃない。だからあなたが言う事が真実かどうか疑わしい。もしもできないのなら、虚偽の発言だってことで僕はあなたをここでいたぶらなくちゃいけない」
翔は淡々とそう告げた。
なんでそんな挑発するようなことを――?
翔の顔を見ながら、そう思う暁。
「ちっ。ガキのくせに面倒だな。篤志も余計なことをガキに吹き込みやがって……わかったよ。じゃあ、みせてやろうじゃないか。僕の能力をさ――」
そう言いながら、隼人の顔が変貌していく。
「ははは。これでどうかな! 信じる気になっただろう」
「ああ、そうだね。あなたは正真正銘の現総理大臣、安藤征夫だね」
そう言ってニヤリと笑う翔。
「そうだ! 私が安藤征夫だ! はははは!」
一体翔はどうするつもりなんだ――?
暁がそう思っていると、部屋の扉がゆっくりと開く。
「誰だ?」
黒服がそう言うと、
「私だよ、隼人」
そう言って篤志が部屋に入ってきた。
「ずいぶん遅かったな、篤志!」
「本当はもう少し前からついていたんだけどね。面白そうなものが撮れそうだったから――」
そう言って篤志はスマホを取り出し、とある配信動画を見せた。
『そうだ! 私が安藤征夫だ! はははは!』
これはさっきの……もしかして、翔はあの人がいることを察して、あんなことを言い出したってことか――
「な……これは一体どういうことだ!」
安藤の顔をした隼人は隣にいる黒服に問う。
「わ、私も状況が……」
「僕をはめたのか、篤志!」
隼人は篤志を睨みつけてそう言った。
「それは違う。真実を白日の下にさらしただけだ。これで終わりにしよう、隼人。私達はここで終わらせなくちゃいけない」
篤志は隼人の顔をまっすぐ見てそう告げる。
「い、嫌だ! やっと恵里菜から解放されて、自由になったんだ! 僕はずっとこの世界を手に入れることが夢だった!! だから、こんなところで終わってたまるか!!」
そう言って、机から何かを取り出す隼人。
「――僕の能力は変身だけじゃない。例えば、この鉄の箱。なんだかわかるかい? これは僕の能力で爆弾にしたものさ」
隼人はそう言って、手のひらサイズの箱を暁たちが見えるように持つ。
「爆弾に、した……?」
「ああ、そうさ! じゃあこれをここで爆発させれば、この部屋はおろかフロアごと吹っ飛ぶ。そしてらお前ら全員一網打尽だな! あははははは!」
狂った笑いをしながらそう言う隼人。
早くあれを止めないと……でも下手に近づいて、爆発させられたら――
そう思った暁はなかなか動き出すことができなかった。
「大丈夫。兄さんの速さなら、止められる。躊躇しないで行って!!」
「翔……でも!!」
「僕たちにはドクターもいる。だから大丈夫」
そう言う翔は、勝利を確信している表情をしていた。
きっとさっきみたいに、何か考えがあるんだよな――!
「ああ、わかった」
そして暁は隼人に向かって走り出した。
「あれえ? 聞いてなかったわけ? これは本当に爆弾――って爆発しない!? なんでだ!! そうか、お前か、篤志ぃぃぃぃ!!」
「くらえ!」
そして暁は、右手に『
「ぐはっ」
そして隼人は、ゆっくりとその場に倒れた。
「ふう」
「お見事ですね、暁先生」
篤志はそう言って拍手をしながら暁の方に歩み寄った。
「いえ、あなたのおかげ……なんですよね?」
「ははは。僕の『
なんて便利な能力なんだ――暁はそう思って、目を丸くした。
「そうだ! さっきの動画――」
「ええ、私がこのペン型カメラで撮影して、生配信していました。公共の電波をジャックして」
そう言って胸ポケットのあるペンを取り出す篤志。
「公共の電波をジャックって……翔、この人は本当に何者?」
「ドクターは本当に何でもできるんだよ!」
なぜか偉そうにそう言う翔。
「そ、そうか」
理由はわからないけれど、ドクターがチート級に強いという事だけはわかった暁だった。
「じゃあ私たちはそろそろ退散しようか、翔。そろそろ警察関係者が乗り込んできそうだからね」
「あ、はい!」
そう言って扉の方に向かう篤志と翔。
「ま、待ってください! そんな逃げるみたいなことをしなくても……それにこの世界が救われたのは、あなたのおかげで――」
その言葉に篤志は振り返ると、
「いいんだ。私は陰でひっそりと生きていきたいと思っているからね。だから、君がこの事件を解決した英雄になるんだ。そうなることで、『ゼンシンノウリョクシャ』が危険な存在ではないことのアピールにもなるだろう」
そう言って笑った。
そんなことまで考えてくれていたのか――
「じゃあね、暁先生。能力者の未来を君に預けるよ」
「兄さん、お元気で!」
それから篤志と翔は部屋を出て行った。
「俺に能力者の未来、か……」
それからしばらくして、神無月たちが警察関係者たちを連れて隼人の部屋にやってきた。そして黒服と隼人は警察署へと連行されたのだった。
その時、黒服の男から龍海の居場所を聞いた暁は急いで言われた部屋に向かうと、
「龍海!」
「ううう……先生~!」
そう言って龍海は暁に泣きついた。
少し痩せたように見えたが、身体の異常はなさそうだとホッとする暁。
「じゃあ帰ろう、優香たちも待っているからさ!」
「うむっ!」
そして事件は無事に解決になったのだった。
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