第63話ー③ 夢に向かう者たち

 翌日。食堂では恒例の卒業生お別れ会が開かれていた。


「みんな、頑張れよ……俺、応援してるから!」


 目を潤ませてそう言う暁。


 そんな暁を笑顔で見届ける生徒たち。


「俺と真一は必ず世界一のミュージシャンになりますから! な?」

「もちろん。その時まで、その涙は取っておいてよね」

「おう……」


 暁は涙を拭ってそう返した。


 それから結衣が暁の顔を覗き込むように、


「私も声優になって、この施設で主演アニメの上映会ができるよう頑張るのです!」


 そう言って笑っていた。


「そうだな。楽しみにしてるから!」

「その時は『はちみつとジンジャー』に主題歌を歌ってもらえるよう頼み込むのです!」


 結衣は真一としおんの方を見てそう言った。


「それはありがたい限りだね」

「よろしくな、結衣!」

「はいなのです☆」

 

 そんな3人のやりとりを見て、


「あーあ。騒がしいしおん君がいなくなってせいせいしますねえ」


 凛子は嫌味っぽくしおんにそう告げた。


「俺も凛子からの嫌味を聞かなくて済むから、これから快適な毎日だな!!」

「嫌味ですか?」

「お互い様だろ」


 しおんが笑いながらそう言うと、


「ふんっ。……早く有名になりなさいよ。私達はジャンルが違っても世界を目指すライバルなんだから」


 凛子はそう言ってそっぽを向いた。


「おう! 凛子もアイドル活動頑張れよな」


 しおんがそう言うと、凛子はしおんに背を向けて、


「……ありがとう」


 そう言って食堂を出て行った。


「りんりんもきっとしおん君とお別れするのが寂しいのでしょうな」


 結衣はそう言いながらしおんの隣に立っていた。


「寂しいとか思うのか、あいつ」

「そういうものですぞ、ふふふ……」

「は、はあ」


 生徒たちがそれぞれ楽しそうに会話をしていたが、まゆおだけは離れたところに一人でいた。


 それを見つけた暁は、まゆおに近寄る。


「どうした?」


 暁が優しくまゆおにそう問いかけると、


「ここにいた時間があっという間だったなって思って。こんなに素敵な仲間たちと出逢えた僕は幸せ者だなって思っていたんですよ」


 そう言って微笑んだ。


「そうか」


 暁はそう答えると、初めてあったまゆおのことを思いだしていた。


 おどおどしていて、何かに怯えていたまゆお。初めてのレクリエーションでは、1人だけその場から動けずにいた。でも今はその時とは違って、とても強くたくましくなり、すっかりと大人の表情になったと感じる暁。


 まゆおはこれまでたくさんの苦難を乗り終えて、成長していったんだな――と思い、暁は自然と笑顔になっていた。


 これからのまゆおの人生を身近で見届けることはできないが、俺はまゆおの夢も目標も応援しているからな――。


「卒業おめでとう」


 暁は生徒たちを優しい眼差しで見つめながら、そう呟いたのだった。

 


 * * *



 翌日。卒業した4人がエントランスゲートの前で集まっていた。


「じゃあ、また」


 まゆおがそう言うと、


「はい、必ずまた会いましょうぞ! それとまゆお殿! いろはちゃんとまた会えたら、連絡くださいね?」


 結衣は笑顔でそう言った。


「もちろん!」


 そんな結衣にまゆおも笑顔で返す。


「真一君としおん君もファイトなのです! 主題歌の件、よろしくですよ?」

「ああ! もちろんだ! だから結衣も必ず声優になれよな!」

「はい!!」

「いこうか」


 真一はそう言ってエントランスゲートを見つめる。


「真一は何も言わなくていいのか?」

「いい。だって今日までにさんざん話し合ったでしょ?」

「そうですな!」「うん」


 結衣とまゆおはそう言って頷いた。


「ま、まあ結衣とまゆおもそういうなら……」

「それに僕たちは今からスタートラインに立つんだよ? この先は新たな挑戦なんだから、しんみり別れを悲しんでいる場合じゃない」

「真一君の言う通りだね。僕たちはここから始まるんだよ」

「よーし、じゃあさっそく初めの第一歩を踏み出すのです!」


 そう言ってエントランスゲートを出る結衣。


 それにしおん、真一が続く。


 まゆおはエントランスゲートを出る前に建物の方へ顔を向けた。


「ありがとう。僕たちはまた夢を叶えた時に、必ず戻って来るから」


 そう言ってからまゆおはゲートを出た。




 4人はそれぞれの道を歩みだす。


 きっとまたこの場所で会えると信じて――

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