第64話ー① その力の真実を

 まゆおたちが施設を出て数日。暁は何となく寂しさを感じていた。


 卒業はもう何度か経験していることなのに、やっぱり別れって言うのはなかなか慣れないな――


 そう思いつつ、暁は職員室にある自分の席で頬杖をついて、


「でもまゆおたちは夢に向かって歩いていったんだよな」


 そう呟きながら目の前のPCを見つめる暁。そしてその画面には今年度卒業した生徒たちの進路報告書が表示されていた。


 卒業はゴールじゃなく、きっと新たな人生のスタートラインだ。だから別れを悲しむのではなく、始まりを喜んでやらないと――!


「俺もまだまだ夢の途中みたいなものだしな。卒業生たちに負けないくらい、俺ももっと頑張らないとだ!!」


 そう言って暁は頷いた。


 あ、そうだ。卒業生と言えば――


 暁はまゆおたちが卒業する前にキリヤへメッセージを送っていたことをふと思い出す。


「あれから結構経つけど、キリヤから連絡がないな……。そういえばこの前、『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』関連のニュースをやっていたっけ」


 そのニュースはとある街の繁華街で能力者の少年が暴走し、死亡したという内容だったことを思い返し、暁の表情が曇る。


「『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』ってことは、もしかしてその事件にキリヤと優香も関わっているんじゃ……」


 もしそうだとしたら、今はとても連絡が取れる状況じゃないのかもしれない。だったら、やっぱり連絡がつくまで待つべきか――


 そう思いながら腕を組み、考えを巡らせる暁。


 でももし優香が『ゼンシンノウリョクシャ』で蜘蛛化が進んでいるとしたら、悠長なことは言っていられないだろうな――


「うーん」


 その後も悶々と頭を悩ませる暁だった。




 それから数日後。暁の元へ所長から連絡が来た。


『悪い、暁君。連絡が遅くなってしまった』


 所長は申し訳なさそうに暁へそう言った。


「あ、いえ。俺は問題ないですよ! それよりもう大丈夫なんですか? 立て込んでいるようなら、もう少し後でも……」


 そうは言いつつも、本当は優香のことが気がかりになっている暁。


 できればそろそろ優香に会いたいところだけど、でも優香や所長だって暇じゃないだろうしな――


 暁はそう思いつつ、所長の答えを待った。


『あはは、何とか落ち着いたから本当に大丈夫さ。ありがとう。それで、研究所に来る日だったな。えっと……今週末なら、どうだい?』

「はい! その日でお願いします」

『こちらの都合で申し訳ないね……』

「あ、いえ……」


 なんだか疲れているように感じる。何かあったのか。やっぱりニュースでやっていた事件のことで何か――


 暁は所長の言葉を聞き、そんなことをふと思っていた。


「俺は早い方が助かりますから! ありがとうございます、所長」

『そうか。そう言ってくれると助かるよ。じゃあ優香君には、私の方で伝えておくから』

「はい、よろしくお願いします」


 それから通話を終える暁。


『どうやら蜘蛛の子に会う日が決まったようだな』


 そう言いながら、暁の足元に寄るミケ。


「ああ。今度の週末に行くことになったよ。ミケさんももちろん行くんだろう?」

『私が行くと、変に思われないか』

「うーん、どうだろうな。ミケさんが変ってよりは、俺の方が変に思われそうだけど」


 そう言って苦笑いをする暁。


『うむ。確かにそうだな』

「あはは。それに俺が優香に説明するより、ミケさんから直接言ってもらった方がわかってくれると思うんだよ」

『そうか。それならば仕方がない。私も同行しよう』

「助かるよ! ありがとな、ミケさん」


 暁はそう言って微笑んだ。


『ということは、だ。水蓮も連れて行くのだろう? 1人にはしておけないだろうしな』

「あー、そうだな! 俺も水蓮からなるべく離れたくないし、一緒に連れて行こう。退屈しないといいけどな」

『大丈夫だ。私も暁もいるのだから』


 それから数日間、暁たちはいつも通りの日々を過ごしたのだった。




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