第47話 またね、マリアちゃん!

 3月。マリアが卒業する時が来た。


 能力が消滅し、この春から大学に通うことになったマリアは実家に帰ることになったのだ。


「マリア、荷造りは終わったのか?」


 暁は目の前で優雅にお茶を飲んでいるマリアにそう問いかけた。


「うん。大体の物はもう送った。あとは小さいカバンだけ」

「そうか……明日、マリアがここを出ると思うと、少し寂しく感じるな」

「そうだね。私も寂しい。でもこれは別れじゃない。また会えるし、遊びに来るから」


 そう言って微笑むマリア。


「そうか。そうだな。俺はいつでも待ってるよ」

「うん!」

「そう言えば、結衣は? いつも一緒にいるイメージがあるから、別れが迫っている今日も一緒にいると思ったんだが」


 そう言うと、マリアは少し寂しそうな表情をして、


「最近はあまり一緒にいないかも。たぶん別れが寂しいのかな」

「そう、なのか」

「本当はもっと一緒にいたいんだけどな」

「そうか……」


 結衣が寂しい気持ちもわかるけど、今のままじゃきっと後悔する、よな――そう思った暁は立ち上がり、


「よし。ちょっと結衣を呼んでくる!! 今日はたくさん話せ! そして思い出を作るんだ!」


 そう言って食堂を出て行った。




 さて。結衣はどこにいるのやら。廊下のどこかで転がっていそうなも……の!?


「うわ!!」


 何かに躓いた暁は、はっとして視線を足元に向ける。


 まさか――


「ってやっぱり結衣か!!」

「あ、先生!」

「『あ、先生!』じゃなくて……こんなところで何やってんだよ」

「いやあ。眠たくて、ついうとうとと……ふわあ」


 そう言ってあくびをしながら目をこする結衣。


「またアニメか?」

「いえ、今日は違うんです」

「へえ。違うのか? 珍しいな!」

「私がいつもアニメばかりとは限りませんぞ!」

「ははは……」


 そうじゃない時もあるんだな――そんなことを思いながら、暁は微笑んだ。


(そうだ、今はそんな話をしている場合じゃ――)


「マリアが寂しがってたぞ。最近、結衣と距離を感じるって。別れが寂しくて、関わらないようにしているんじゃないかって」

「ああ~。そうだったんですね」


 そう言って困った表情で笑う結衣。



「実際はどうなんだ?」


「違うんですよ。実は卒業するマリアちゃんにプレゼントしようって思って、こっそりと動画作成をしていたのですよ」


「そう、だったのか……それで完成したのか?」


「はい! ちょっとぎりぎりになっちゃいましたが、ようやく! 全米が震撼するほどの最高傑作となりましたです!!」


「そうか。良かったな」


「明日マリアちゃんが旅立っていく前に、みんなで観ようって思っていたんです」


「それはいいな! みんなで動画を見るってことは、シアタールームがいいよなあ」



 暁が顎の手を当ててそう言うと、


「おおお! 話が早い! まさにシアタールームの使用許可を先生にお願いしようと思っていたところなんです!」


 結衣はそう言って起き上がった。


「なるほど! でも眠気に勝てず、ここでスヤスヤと……」

「あはは」


 結衣はそう言って恥ずかしそうに後頭部を掻いた。


(きっとすごく頑張ったんだろうな。マリアのために)


 そう思いながら、結衣を見つめる暁。それから暁は微笑み、


「まあそう言う事ならわかったよ! 明日、シアタールームが使えるようにしておくからな!」


 結衣にそう告げたのだった。


「ありがとうございます、先生! それと……明日になるまでマリアちゃんには内緒ですよ?」

「おう! もちろんだ!」

「ふふふ」


 そう言って嬉しそうな顔をする結衣。そんな結衣の顔を見た暁は、


「でも寂しくないのか、結衣? マリアは親友なんだろう」


 心配そうな表情でそう尋ねた。結衣は柔らかい笑顔を作ると、


「……寂しくないといえば、嘘になります。でもマリアちゃんは夢のために進んでいくんですから! 私も頑張らねばって気持ちの方が強いですね!」


 暁の顔を見てそう言った。


「そうか」


 そんな結衣につられて、暁も柔らかい笑顔になる。


『声優になる』という夢を追う結衣だからこそ、きっとそう思うのだろう――暁は結衣の顔を見ながらそう思ったのだった。


「はい! だから明日も笑顔で送り出します!!」

「ああ、そうだな!!」


 それから結衣はマリアの元へと向かっていった。最後の2人の時間を楽しむために――。


「最高に楽しい時間を過ごせよ、結衣。マリアも」


 暁は去っていく結衣の背中を見ながらそう呟いた。


 ――その後。食堂でマリアのお別れ会を開き、マリアとの最期の夜を生徒たちは楽しんだのだった。




 翌日。朝食を終えた暁たちはシアタールームへ向かった。


「私達からマリアちゃんに餞別です!」


 結衣がそう言うとシアタールームが暗くなって、動画が始まる。


 マリアと結衣がこの施設で過ごした日々を映像化したものだった。


 そこには暁がまだ知らない思い出やここへきてから過ごした日々など、たくさんの思い出の写真が映し出されていった。


 そしてもう卒業していった生徒たちの姿に暁は懐かしく思い、微笑みながらその動画を見つめていた。


 動画が終わってシアタールームが明るくなると、


「ありがとう、みんな」


 マリアはそう言って生徒たちの方を向き、涙を流していた。


「みんなマリアちゃんのためならって、そう言って協力してくれたんです」


 マリアの前に来た結衣が笑顔でそう言うと、


「結衣……」


 マリアはそう言って、結衣に抱き着いた。


(最後に最高の思い出ができたみたいでよかったな――)


 そう思いながら、2人を見守る暁だった。




「それじゃあ、みんな。またね!」


 そう言ってからゲートを潜るマリア。


「またね、マリアちゃん! 私も来年ここを出たら、必ずまた会いに行きますから!」

「うん。待ってる。結衣も夢に向かって頑張って! 私も頑張るから!!」

「はい!!」


 そしてマリアは迎えに来ていた父の車に乗り込み、その車は走り出した。


「マリア、行っちゃったな」


 寂しげな声で結衣にそう声を掛ける暁。


「そうですね……私も頑張るです!」

「おう! 俺もだ!」


 そう言って暁と結衣は笑いあったのだった。

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