第48話 新しい思い出

 職員室にて――。


 暁は机の前で書類の整理をしていた。


「また新学期が始まるんだな……」


 そんなことを呟きながら、暁は書類に目を通していく。


 そしてこの一年をふと振り返っていた。


 転入生の3人は個性豊かだったけど、もともといた生徒たちに大きな影響を与えてくれた。一番変化あったのは、きっと真一だっただろう。まさかしおんとミュージシャンを目指すことになるなんて――


「どこで誰が交わるかで、人生は大きく変わるものなんだな」


 そんなことをしみじみと思う暁。


 織姫も奏多とのわだかまりが解けたことで、あれから少しずつ他の生徒たちと関わるようになったっけ――そんなことを思いながら、暁は織姫の顔を思い浮かべた。


「まだ素直じゃない時もあるけどな!」


 そう言って笑う暁。


 今度、から揚げのおいしさを説いてやらんとな――と思いつつ、暁はニヤニヤとしていた。


 そういえばまゆおの兄さんの事件は驚いたな……。結局所長からはあれから何の音沙汰もないけど、研究は捗っているのだろうか。


「今度行ったときにでも、聞いてみようかな」


 あの時のまゆおには冷や冷やしたけど、いろはと真一のおかげでまゆおが立ち直ったんだよな……俺からどうにかしなくても、生徒たちは自分で動けるだけの力を身につけてきているのでは――


 暁はふとそんなことを思ったのだった。


 しおんと凛子も今は最初の頃より、だいぶ仲良くなった……わけじゃないだろうけど、でも関係が変わったように思う。


 そしていつの間にかちゃんと名前で呼び合う仲になっているし。俺の知らないところできっと2人に何かあったんだろうな。


 似ていないようで意外と似た者同士の2人。きっとこれから先も2人でいがみ合いながら高みを目指してくれるんだろう――。


「しおんと凛子はライバル、何だもんな」


 暁はそう言って笑った。


 そして暁は故郷に帰った時のことを思い出す。


美鈴みすずもたくやも元気そうだったな。父さんと母さんに会えなかったのは残念だったけど、大切なものをもらったからな。他の兄妹たちも元気みたいで安心したよ。でも――」


 幼き姿の弟、かけるが暁の脳裏に映し出される。


「翔はどこへ行ったんだ……きっと生きているはず。でも手掛かりが全くないなんて」


 所長に相談してみよう。そうしたら、もしかして――と希望を見出したのだった。


「まあ何はともあれ……これからも俺は俺のにできることをやるだけだ!! それだけは変わらないから」


 暁はそんなことを呟き、机に積まれた書類たち再び読み始めるのだった。




 そして今日もいつも通りの日々が始まる――。

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