第45.5話ー① 素直じゃない ~暁のいない2日間~
今回のお話は、暁が地元に帰省していた2日間で起きた出来事。
食堂。今日も生徒たちはいつもように朝食を楽しんでいた。
「へっぽこギタリスト君は食べる量もへっぽこなのねぇ」
「はあ!? 俺の本気はこんなもんじゃねぇ! 見てろよ、不人気アイドル!!」
凛子の挑発に乗ったしおんは、茶碗に白米をたくさん盛り付けるとそれを勢いよく食べ始めた。
「はあ。馬鹿なの……」
そんなしおんを横目に、真一はため息交じりにそう言った。
「先生もいないんだし、みんな仲良くしないとダメだからね!」
まゆおはしおんと凛子の前に立ち、そう言った。
「出たよ、まゆおのいい子ちゃん」
真一がぼそっと呟く。
「僕は先生からみんなのことを頼まれているんだ。だからこの2日間は問題なく終えたいだけだよ」
まゆおが真一にそう言うと真一はため息をついて、
「そう。じゃあ頑張って」
そう言って立ち上がり食器を片付けて、食堂を出て行った。
「ちょっと! 真一君! ……本当にわかったのかな」
「まゆお、気張りすぎても疲れるだけ。いつも通りでいいんだよ」
マリアはそう言ってまゆおに微笑む。
「あ、はい。桑島さん、ありがとうございます!」
「でもこの光景もいつも通りと言えばいつも通りですな」
「ふふ。確かに」
そう言って微笑みあうマリアと結衣。そんな2人の隣で黙々と朝食を摂る織姫。
「本星崎さんは、いつも対応が落ち着いているよね」
まゆおは織姫にそう声を掛けた。
「そうでしょうか」
織姫は首をかしげながら、そう言った。
「確かにそうですな! さすがは奏多殿の親戚! 佇まいがいつも美しいのですよ!」
「うんうん」
「あ、ありがとう……」
織姫は照れながらそう言った。
「くそっ! アイドル、てめぇ!!」
織姫たちの和やかな空気をしおんの大声が遮った。
「ああ、また……」
そう言ってまゆおはしおんたちの前に戻った。
――織姫の自室にて。
食事を終えた織姫はマリアと結衣と別れてから、自室に戻っていた。
「あの野蛮人がいないだけで、なんだかいつもと違う朝に感じたわね」
そんなことを言いながら、織姫はいつもの暁の行動を思い出す。
そう言えば、毎朝私が食べている隣にやってきて、毎回どうでもいい話をしていたな。『今日は何をするんだ』とか『今日のから揚げはいつもと違うぞ』とか。思い返せば、思い返すほどばかばかしい話ばかりね――そう思いつつ、心がモヤつく織姫。
「べ、別に寂しいわけじゃ!!」
って私、誰に言っているんだろう――。
「はあ。もう何なのよ……」
織姫はため息をつき、それから何をするでもなくその日を終えたのだった。
そして翌日の食堂。今朝も昨日と同じように賑やかな朝食だった。凛子としおんが喧嘩をして、それをまゆおが仲裁。そんなまゆおに茶々を入れる真一。そしてそれを見守るマリアと結衣。
それはいつもと変わらない日常なのに、やはり何かが足りないと寂しく思う織姫。
「はあ」
「ため息なんて、どうしたんです? 織姫ちゃん?」
結衣は心配そうに織姫に尋ねた。
「え、私……ため息なんてついていました?」
結衣に言われた言葉に、きょとんとする織姫。
「うん。結構深めのね」
「そうですか……」
マリアさんが言うから間違いないと織姫はそう思い、また小さなため息を吐く。
「何かあった?」
マリアは心配そうな表情をして、織姫の顔を覗き込む。
「いえ、ただ何か足りないものがある気がして」
(それが何なのか私にもわからないけれど……)
「足りないもの……?」
そう言って結衣は首をかしげていた。
「なんだろうね」
「まあ、きっとわからないってことは気のせいかもしれません。お気になさらず」
「そう? だったらいいけど」
「あ、マリアちゃん! そう言えば先生は今日お戻りになるんでしたっけ?」
結衣の言った言葉にドキッとする織姫。
(え、今のは……?)
「そう。夕食くらいには戻るって言っていたかな」
「そうでしたか!」
「何かあるの?」
「いえ、先生が貸してほしいと言っていた漫画を読み終えたので、渡してあげようかなと思って!」
「へえ」
マリアたちの何気ない会話の中で出る、『先生』というワードに反応する織姫。そして同時に胸が熱くなるのを感じていた。
(この感覚って何……?)
そう思いながら、織姫は俯いた。
「織姫? 下向いてどうしたの?」
マリアは俯く織姫を心配そうに見つめてそう言った。
「いえ、何でもないです」
それから織姫は食器を片付けて、食堂の出口に向かう。
「織姫??」
マリアの声を背中で聞きながら、織姫は何も言わず食堂を出て行った。
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