第45話ー③ 少女たちの出会いの物語

「ど、どこにいくの?」


 そう言われた結衣は足を止め、


「はて。私はどこに行こうとしたんでしょうか」


 唖然としながらそう言うと、さっきまで不安そうな顔をしていたマリアは笑顔になっていた。


「え、なんで笑うのですか!!」

「結衣ちゃん、おもしろい。こっちきて!」


 そう言って、今度はマリアが結衣の腕を掴んで走り出した。


「えっと、ここは?」


 シアタールームと書かれた扉の前に結衣達はいた。


「この時間なら、ここに誰も来ない」


 そう言って結衣たちはシアタールームの中へ。


「なんか悪いことしてるみたい」


 マリアはそう言って笑っていた。


「よかった」

「え?」


 マリアはきょとんとして、結衣の顔を見つめた。


「だってマリアちゃん、ずっと不安そうな顔をしていたから!」


 そう言うと、マリアは俯き、結衣の隣に座った。



「また私、何にもできなかったなって思って。私のせいでキリヤがどんどん冷たくなっていく気がするの……それが悲しくて」


「ああいうことってよくあるんですか?」


「……たまに。先生が私達に何かしようとしているのを見つけるたびに、ああやって先生にひどいことをするの」



 なるほど。だから他のクラスメイト達は動じないのですね――。


 クラスの雰囲気をなんとなく悟った結衣はそう思いつつ、小さく頷いた。


「びっくりしたよね、ごめんね」


 そう言って、また不安そうな顔をするマリア。


「あはは。確かにびっくりしましたが、マリアちゃんと話すきっかけになったので万事OKです!」


 そう言って結衣は指で丸を作って、マリアに笑いかけた。


 そして結衣のその顔を見たマリアも笑顔になった。


「結衣ちゃ……結衣。これからお友達になろう。結衣と一緒だと、なんだか落ち着くの」

「もちろんです! 私もずっとお友達になりたいと思っておりましたので!!」


 それから結衣とマリアは一緒に過ごすようになったのだった――。




「――とまあ、こんな感じですね! 涙腺崩壊案件でしたでしょ?」

「涙腺崩壊とまではいかないが、2人が仲良くなったのはそんなきっかけがあったんだな」

「ふふふ」


 それからも結衣は、マリアとの思い出を暁に語った。喧嘩した時のことやお互いの誕生日を祝いあった事。悲しいときは二人で支え合って乗り越えたこと。


 その話を聞いて、暁は自分の知らない2人を見た気がしていた。



「この話をしたことはマリアちゃんには内緒ですぞ! たぶんこういう話をしたって言うと、マリアちゃんは恥ずかしいって言いながら怒りますからね」


「ははは! それはそれで見てみたいと思うけどな!」


「卒業までは喧嘩なくいきたいので、やめてくだされ!」



 そう言って口を尖らせる結衣。そしてその顔は少し寂しさを含んでいた。


 たぶん、マリアとの別れが寂しいのだろう。ずっと同じ時を過ごしてきた親友で家族。別れが寂しくないはずがないよな――。


「わかったよ! 残りの時間は大切にな!」


 暁がそう言って結衣に微笑むと、


「はいなのです!」


 そう言って結衣も笑顔で暁に返した。




 それから結衣と別れた暁は職員室に戻った。


「マリアと結衣にあんな思い出があったなんてな。親友っていいな」


 そう言いながら、暁は職員室に机に荷物を下ろす。


 そしてスマホを手に取ると、たくやからチャットが届いていた。


『暁! 元気でやってるか!! この間、中学の同窓会があって、暁の話をしたら、みんな会いたがってたぞ! また帰ってくるときは連絡くれよな!』

「たくや……」


 暁はそのチャットに嬉しくなって、すぐに返信した。


『必ず連絡するよ! ありがとう、たくや!』


 そしてスマホを机に置き、PCを起動する。


「よし! 報告書やるか!」


 友人からの連絡で元気をもらった暁は、また会うその日まで頑張ろうと誓ったのだった。

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