第45話ー② 少女たちの出会いの物語

 6年前。結衣はS級クラスの生徒たちがいるこの保護施設にやってきた。


「今日からここで暮らすことになった流山結衣さんです。みんな、仲よくするように」


 当時の教師だった男性から紹介された結衣は、


「よ、よろしくお願いします」


 そう言いながら教壇の前で頭を下げた。


 ここがS級クラスの教室。そしてS級クラスの子供たち――。


 そう思いながら、結衣はとても楽しみでドキドキしていた。


 そう。だってこんなアニメみたいな設定の子供たちに会えるなんて、夢なんじゃないかと結衣はそう思ったからだった。


「じゃあ席は……年も近いし、マリアさんの隣で」


 そう言った教師の手の先には、黒髪がとても綺麗でお人形のように可愛らしい女の子がいた。


(か、かわいいすぎじゃないですか!? あんな美少女の隣の席なんて、なんてご褒美!!)


 そんなことを思いながら、結衣は席に着く。


「これからよろしくね、マリアちゃん!」


 結衣がそう言うと、マリアは顔を真っ赤にして顔を反対に向けた。


(あれ、もしかして私は嫌われたのでしょうか? さすがに心の声までは漏れていないと思ったのですが……。まあ初日はこんなものかもです!)


 それからその日の授業を終えた結衣は、再びマリアに声を掛けようとマリアちゃんの方を向くとマリアは立ち上がり、


「キリヤ! 待ってー!」


 そう言って、マリアと同じ黒髪の美少年の元へと走っていった。


(あんなイケメン君、クラスにいたっけ? それにしても、マリアちゃんとはどんな関係なんでしょうか)


 そんなことを思いつつ、結衣は教室を去っていく二人を見つめた。




 翌日。結衣は隣に座るマリアに再び声を掛ける。


「マリアちゃん、おはようなのです!」

「……」


 結衣がいくら声を掛けてもマリアは顔をそらしてばかりで、何も返すことはなかった。


 若干の寂しさを感じる結衣。しかしその寂しさは少しずつ、興味へと変わっていった。


 突き放されると追いたくなってしまうのが性と言いますか――。


 結衣はそれから毎日、めげずにマリアへ声を掛け続けたのだった。




「マリアちゃん! 今日もかわいいですね!」

「……」




「マリアちゃん、昨日のアニメは観ましたか??」

「……」




「マリアちゃん――!」

「……」




 それから1か月が経過した。


「きょ、今日こそマリアちゃんのハートを射止めるのです!!」


 結衣はそんな意気込みを口にしながら、教室に向かった。


 すると、今朝はいつもと違う雰囲気だった。


「ちょっとキリヤ、それはやりすぎだって!! 死んじまったらどうするんだよ!」

「剛は黙っててよ。同じ目に遭いたいの?」

「う……」


 そしてそれを怯えながら見つめるマリアの姿。


「こいつが昨日、どんなことをしようとしていたか知ってる? 成績の悪い生徒には体罰が必要だって、だからその許可をってどこかに訴えてたんだ。このまま放っておいたら、誰かが犠牲になるでしょ。だからその前に身の程をわきまえさせただけのことだよ」

「でも、どうするんだ……こいつ」


 そしてそこにいた2人は結衣の存在に気が付く。


「おはよう、結衣。朝から騒がしくしてごめんね」


 そう言って微笑むキリヤの顔に少し恐怖を感じる結衣。


「お、おはようございますなのです……」


 これはなんですか? 結衣はそう尋ねたかったけれど、そんなことを尋ねられる雰囲気ではないことくらい結衣自身もわかった。


 それから結衣は何も言わず、席について勉強用具を広げた。


 キリヤと剛は2人で先生を廊下に出して、教室の扉を閉めた。


 これで何もなかったことにしようとしているのだろうか――。


 教室を眺めると、自分以外のクラスメイトは何事もなかったかのように黙々と勉強を始めていることを知った結衣。


 奏多ちゃんは自分よりも年上だから、落ち着いているのは当たり前だとは思うけど、同い年の真一君もまるで何もなかったかのように冷静に勉強を進めているなんて――。


 そんなクラスの様子に結衣はとても驚く。


 もしかして、これがここの当たり前なんですかね……。この様子に驚く私がおかしいのでしょうか……?


 結衣はそんなことを考えながら、隣にいるマリアに目を向けると、マリアは他の生徒たちと違ってとても怯えた目をしていた。


「……マリアちゃん?」


 結衣がそう声を掛けると、いつもはそらす視線をゆっくりと結衣に向けるマリア。その目には涙を浮かべ、不安の感情を表していた。


 何とかしなきゃ――。


 結衣はマリアを見て咄嗟にそう思った。


 そして午前の授業を終えた結衣は、強引にマリアの手を引いて教室を出た。

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