第45話ー① 少女たちの出会いの物語

 今日も暁はいつものように生徒たちが勉強する姿を見守っていた。


 そして終業チャイムが鳴る時間になる頃、教室にはマリアとまゆおの2人が残っていた。


「2人とも今日の分は終わったか?」

「はい。ギリギリですけど、何とか……」


 そう言いながら、まゆおは机に突っ伏す。


「私はもう終わってる。今日は試験範囲の予習をしていたの」

「そうか。2人ともお疲れさん! マリアはあんまり根詰めすぎるなよ」

「うん。わかった」


 そう言って微笑むマリア。


 しっかりしているマリアだから心配はしていないが、なるべく注意して見守っていないとな。また剛の時みたいになってほしくないから――。


 暁はそんなことを思いつつ、微笑むマリアの顔を見つめたのだった。


 それからしばらくしてチャイムが鳴ると、まゆおとマリアはそれぞれ荷物をまとめて教室を出て行った。


 そして一人残った暁も荷物をまとめてから、教室を後にする。


 それから職員室に向かう途中、暁は廊下で久しぶりの光景を目にした。


「最近見ないと思っていたから、今は違う作品を研究しているのかと思っていたよ、結衣」


 廊下に一人で寝そべる結衣。


「ははは。たまには初心に帰ることも必要かなと思いましてな」

「それで、俺はどうしたらいいんだ?」

「じゃあ、これを……」


 そして例のごとく、結衣は暁に一枚のメモ用紙を差し出す。


「えっと……『お前にばかり無理をさせてしまって悪かったな。そんなにお前が傷ついていたなんて、気が付かなかったよ』ふふふ……」


 今日のセリフ読みも安定の棒読みで、暁は演技の才能のなさに笑いがこみ上げていた。


「いえ、全ては私の弱さが引き起こしたことです。あなたが自分を責める必要はありません……」


(結衣、今日はやけに気合が入ってるな)


 そんなことを思いながら、続きのセリフを読む暁。


「『すまない、ありがとう。そしてこんな状況で悪いが、お前の力を少しだけ貸してはくれないか』」

「もちろんです。私はこの世界を救うためにここへ来たのですから」


 そう言って微笑む結衣。


「あ……」


 その圧巻の芝居に暁は心を奪われ、セリフを言わなければならないことを忘れていた。


「はい、カーット! 先生! セリフ!!」

「あ、悪い!! つい感動して……それにしても、結衣は演技が上手になったな! 驚いたよ!」


 暁がそう言うと、結衣は腰に手を当てて得意げな顔を見せる。


「りんりんから芝居の稽古をつけてもらってますからな! やっぱり天才子役と呼ばれて一世を風靡した役者さんは格が違いますです!」

「そういうことか」


 凛子のことはしおんや結衣の話で知っていたが、本当にすごい子役だったんだなと結衣の上達具合を見て暁はそう思った。


「結衣は着実に夢へと近づいているんだな」

「そうでしょうか! もしそうだとしたら嬉しいですな! マリアちゃんが頑張っている姿を見て、私も触発された感じはありますがね」


 そう言って笑う結衣。


「そういえば、結衣とマリアってだいぶタイプが違うけど、どうやってそんなに仲良くなったんだ?」

「あー、それ。聞いちゃいますか? 我々の百合百合なお話、聞きたいですか?」

「ゆ、百合百合なお話……? ま、まあ興味はあるかもしれないな」

「ふふふ! じゃあ教えてあげましょう。あれは私が初めて施設に来た日のことです――」


 そして結衣はマリアとの過去を語り始める――。

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