第43話ー② 思い出の地へ
暁たちが話し始めてから2時間ほどが経過していた。
「――そういえば、暁の実家のことなんだけど」
「あ……ああ」
暁は話に夢中になりすぎて、なぜ自分はこの地に来たのかをすっかりと忘れていた。
「話しても大丈夫か……?」
心配そうにそう言うたくや。
「え? ああ。大丈夫だけど……何かあるのか?」
「……」
「たくや??」
たくやは表情を曇らせたまま、黙り込んでいた。それから何かを決意したように頷くと、
「それが――」
暁に三谷家がどうなったのかを話し始めたのだった。
「――え、父さんと母さんがもうこの世にいないなんて」
「ああ。母さんは7年前。暁が施設に行ってから、すぐだったかな」
「そんな……」
そんなことも知らずに自分はのうのうと生きていたんだということを知り、暁は怒りと後悔で身体を震わせていた。
家族は大変な時期だったのに、俺は何もしてあげられなかったんだな――と。
「父さんもその3年後に……だいぶ無理をして働いていたからな。それが原因で病気になって、そのままって聞いたよ」
暁はたくやから聞いたその事実に、驚愕したまま言葉が出てこなかった。
「暁……?」
心配そうに暁の顔を覗き込むたくや。
それに気が付いた暁ははっとした後、心配させまいとしてたくやに微笑みかけた。
「大丈夫。続きを教えてくれないか?」
「あ、ああ……」
そしてたくやは暁に家族の話を続けた。
「暁の母さんが亡くなったすぐ後にあのアパートの取り壊しが決まって、三谷家は隣町に引っ越していったんだよ。それから数年後に今度は暁の父さんがな……それで父さんが病気になった時に、兄妹たちはバラバラに暮らすことになったらしいんだ。それ以降、三谷家がどうなったのかは俺にはわからない」
「そうなのか……」
他の兄妹たちは今どこでどうしているんだろう。もしかして
暁はそんな最悪な考えが頭をよぎる。
「ごめんな、ここまでしかわからなくて……それにせっかく帰ってきてくれたのに、辛い思いをさせちまったよな」
たくやはそう言って申し訳なさそうな顔で暁を見ていた。
「いいんだよ。たくやにあの場所で会えなかったら、俺は家族のことを何にも知らずにいたかもしれない。だからありがとう。悪かったな、辛い話をさせてしまって……」
暁は悲しさを隠しながら、精いっぱいの笑顔をたくやに向けた。
「ありがとうな、暁」
「……ああ、もう暗い話はやめだ、やめ!! せっかく久々にあったわけだし他の話をしようぜ!」
「ああ、わかったよ。じゃあテーマはどうしようか。そうだ……お互いの恋愛事情とか?」
「は、はあ!? なんでそんな! 俺たち、女子じゃないんだぞ!!」
「今は男だってコイバナをする時代なんだよ」
たくやはニコニコと微笑みながら、暁にそう告げた。
「はあ……?」
そんな話、聞いたことなんてない!
と暁は言おうとしたが、きっと言っても無駄だという言う事がなんとなくわかってしまい、それ以上のことを何も追求しなかった。
(まったく……たくやは昔とほとんど変わっていないな。大人になったのは、見た目だけじゃないか。……まあそれが嬉しいんだけどさ!)
それから暁たちはそれぞれの恋愛事情について語り合ったのだった。
「暁……絶対そんないい子を手放すなよ!! ああでも……いいなあ。年下で音楽家で、しかも大手企業のご令嬢……そんな子と出逢えるなんて、お前は本当に幸せ者だな!! 羨ましいぜ……」
「ありがとうな。でもたくやだって、結婚の約束してるんだろ? 十分幸せじゃないか?」
「そうだけど……でも隣の芝生は青いっていうだろう? だから羨ましんだよー」
「ははは。そうか」
そしてたくやのスマホが振動する。
「あ、噂をすれば……」
スマホに目を落とすたくや。
「なんだって?」
「今夜、ご飯行こうだって。ってもうこんな時間か!」
スマホに表示されている時間を見て、驚くたくや。
「16時35分……ってだいぶ長居したな。ありがとう、たくや。こんなに長い時間、付き合ってくれてさ」
「いいんだよ! 久々に親友にあえば、こんなもんだろ? じゃあ俺はそろそろ行かないと……」
「そうか。今日はありがとな!」
「俺の方こそ、サンキューな! そうだ! 連絡先、交換しようぜ! また兄妹のことで何かわかれば連絡するからさ!」
「本当か!! それはありがたいよ。じゃあ、これ……」
暁は連絡用アプリのIDをたくやにみせる。
「おう! ……これで、よし! じゃあまた連絡する! 久々の地元楽しめよ!」
「ありがとう。たくやも楽しい夕食にしてこいよ!」
「あ、ああ。頑張る……」
そう言って、カフェを出るたくや。
なんであんなに嫌そうなんだよ!
そんなことを思いつつ、暁はくすっと笑った。
「俺も宿泊施設にいこうかな……」
そして暁はカフェを出たのだった。
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