第43話ー① 思い出の地へ
「ここは何も変わりないみたいだな」
暁は駅の改札を出て、そこから見える街を見ながらそう呟いた。
こんな自由に外に出られるのは、いつぶりだろう……高校1年生の夏以来、か?
暁はそんなことを思いつつ、胸を躍らせていた。
2日間だけ長期の外出許可をもらった暁は、久々に高校1年生まですごしていた地元の街へ戻って来た。
全く同じというわけではないが、やはり自分がいた頃の景色が残っていて、少し懐かしさを感じるな――。
そう思いながらぐるりをあたりを見渡して、一通り懐かしさに浸った暁は、
「じゃあ、目的の場所へ向かおうか」
そう言って実家のアパートがある方に向かって歩き出したのだった。
そもそもなぜ今回の外出許可が認められたのかというと……遡ること、2週間前。一本の電話がすべてのきっかけだった――。
『やあ、暁君。君から電話をくれるなんてね。嬉しいよ。それで、相談って?』
「ええ、実は――」
そして暁は、もう一度だけ家族に会いたい――と所長に自分の思いを伝えた。
すると所長は、
「では、さっそくその手配をしよう」
優しくそう告げた。
「あ、ありがとうございます!!」
暁はまさかそんな言葉をもらえるとは思っておらず、驚きと喜びで顔がにやけたのだった。
どうやら所長は暁がそう言ってくることを見越して、かなり前からいろいろと準備を進めていたようだった。そんな所長に、相変わらず準備がよいことだと暁は感心した。
所長には、本当に頭が上がらないな。いつか必ず所長に恩返しをしよう――その想いを忘れないように、暁はしっかりと胸に刻んだのだった。
――暁は実家を目指して歩みを進めていた。
「あの駅から確か……40分くらいだったか」
家まで少し距離があるものの、暁は地元での思い出に浸りながら歩いていたからか歩くストレスを感じることもなく、あっという間に目的地に到着した。
そして到着したその場所は暁がかつて住んでいたアパートが建っているはずだった。
「まさか、こんなことになっているとは……」
そう言う暁の目線の先には、真新しい鉄筋コンクリート造のマンションがそびえ立っていた。
まさか家族に会えないだけじゃなく、帰る場所までなくなっていようとは――。
そんなことを思いながら、暁がその場で途方に暮れていると、
「もしかして、暁じゃないか?」
右手の方からそう声を掛けられ、暁あはその声の方に顔を向けた。
「えっ……」
そこには小学校時代からの親友、
「そうだよな!! 俺だよ、俺!! たくや!!」
そういうたくやを前に驚きの表情になる暁。
本当にたくやか……? 何年振りなんだろう。でも俺のことを覚えて――
そう思いながら、嬉しいという感情が溢れてくる暁。
「ああ、うん……久しぶりだな、たくや!」
暁はそう言って、たくやに微笑む。
「おう、久しぶり! ……なんか暁、大人っぽくなったな!」
暁の顔をじろじろと見つめて、そう言うたくや。
「そういうたくやだって!」
暁がそう告げると、
「そ、そうか……? へへへ。ありがとな」
そう言ってたくやは恥ずかしそうに頭をかいた。
「そういえば、こんなところでどうしたんだ? たくやの家って、このあたりじゃないだろ?」
暁とたくやは小学生のころからの友人だったが、互いに近所に住んでいたわけではなかった。だからなぜわざわざたくやがこんなところに来たのか――と暁は疑問に思ったのだった。
「なんでだろうな……なんだか、ふとここに来たくなったんだよ。もしかしたら、暁が来るって無意識にそう感じたのかもしれないな」
そう言いながら、嬉しそうに微笑むたくや。
「もしそうだとしたら、嬉しいよ。俺のことなんて、もう忘れてしまったのかと思っていたから」
「忘れるわけないだろ! 大事な友達なんだから!」
「あ、ありがとな」
暁はそう言って、目を潤ませながら嬉しそうに微笑んだ。
「なあ、暁。ここで再会の喜びを分かち合うのも悪くはないが、どこか入らないか? その方がゆっくりできそうだ」
「ああ、そうだな」
それから暁とたくやは近くのカフェに入った。そしてそのカフェでゆっくりと過ごしながら、それぞれの辿った道と現在のことを話していた。
たくやは能力者にはならなかったものの、学校の仲の良かった友人たちはみんな能力に目覚めて、自分の周りからいなくなってしまったようだった。
自分が『
日々、能力者のいる環境で過ごしている暁は、自分が普段気が付けないようなことをたくやからたくさん教わった。
低級能力者へのいじめ問題や無能力者たちの被害。そして外の世界ではA級クラスが力で学校や家庭を支配している事態など――。
心に何かを抱えているのは、S級に限ったことじゃないんだという事を知った暁。
今の自分が何かできるわけじゃないけれど、でも子供たちは笑顔で健やかに育ってほしいな――と暁はそう願ったのだった。
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