第39話ー④ 夜空の下の奇跡

 しおんが食堂に着くと、そこに真一の姿はなかった。


「もしかして俺がなかなか戻らないから、自室に戻ったのか……」


 しおんはその場で考えていると、


「やっと来た。ほら、続きやるよ」


 そう言いながら、奥のキッチンスペースから出てくる真一。


 真一の姿を見てほっとしたしおんは、真一にニコッと微笑んだ。


「おう! それと……やるぜ、ライブ!」

「まさか、本当に……?」


 しおんの言葉に目を丸くする真一。


「そうだ! 俺たちはビッグになるんだろう?」

「そうだね。でもその前にやることがあるんじゃない」


 そう言って真一は机で開きっぱなしのノートを指さした。


「ああ……そうだったな」


 そしてしおんたちは、曲作りを再開した。ライブで披露するために――。




 それから数日後。しおんと真一はライブの打ち合わせをするために食堂に集合していた。


 会場の場所と設置に必要な機材。その他諸々の準備の段取り――。


 初めて行うライブにわからないことだらけの2人は、頭を悩ませていた。


「ここにはアンプを置きたいよな」

「立ちでやるのか座ってやるのかで見え方が変わらない?」

「そうだな……うーん」


 しかししおんは悩みながらも、真一と一緒にできるライブに心を弾ませていた。


(なんだか本物のミュージシャンみたいだな)


 そう思いながら、しおんはニヤニヤとしたのだった。


 それから2人は次にセットリストの確認を始めた。


「ここはこのカバー曲と、『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』の曲は入れたいな」

「そうだね」

「あーそういえば真一。歌詞はできたか?」

「……まだ」


 そう言って、しおんから顔をそらす真一。


「どれくらいかけたのか、見せてくれよ!」

「……これ」


 真一から手渡されたノートには、


『運命は自分で決める』


 そのフレーズのみが書かれていた。


「もしかしてだけど、これだけ?」


 しおんは確かめるように、恐る恐る問う。


 コクンと頷く真一。


「……曲を作り直すよ。たぶん俺の曲が、真一の書きたい思いとマッチしないんだ」

「それは、違う。きっと僕の問題だよ」


 真一は顔を伏せてそう言った。


「どっちにしろ、この曲はなしだな。そもそも俺の気持ちにメロディを乗せたから、これは俺たちの歌じゃない。俺だけの歌だ。だからこれはなしにして、もう一度考え直そう」

「でも時間ないでしょ。今からもう一曲作れるわけ?」


 真一は少々苛立ったようすでしおんにそう言った。


「できるかできないかじゃねぇ。俺はやるってだけの話だよ」


 そう言ってしおんは真一に微笑む。


 そしてそんなしおんの顔を見た真一は、


「……そういうのは、嫌いじゃない」


 と小さく呟いた。


「あんがとな。じゃあ次の曲だけど……。まずは歌詞から考えようか。それからメロディをつける! その方が、真一が自由に詞を書けるんじゃね?」

「そんなこと、できるの? 僕の書いた歌詞に、しおんはメロディをつけられる?」


 少々怪訝な顔をする真一。でもしおんはそんな真一に、歯を見せてニコッと笑いながら、


「俺はやるっていってんだろ?」


 そう言った。


「わかった……」


 真一はそれだけ告げて、椅子から立ち上がり食堂を後にした。


「頑張れよ、真一」


 しおんは笑顔で真一を送ったのだった。

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