第39話ー③ 夜空の下の奇跡

 ――食堂。


「ここはこんな風にしたけど、どうだ?」


 しおんは真一に考えてきたメロディを披露した。


「……なんか、違う」


 真一は気に入らなかったのか、不服そうな顔をしていた。


「そうか……。なあ、真一は、どんな歌にしたいんだよ」

「どんな歌……」


 真一は頬杖をつき、考える。


 それを真剣な表情で見つめるしおん。


「……」

「ちなみに、歌詞は進んでるのか?」

「全く……」

「お前……はあ。まあ初めてのことだし、仕方がないよな。でも、自分がやるって言ったんだから、必ず完成させてくれよ」


 しおんがそう言うと、真一は少々機嫌を損ねたようで、


「しおんにそんなこと言われなくても、わかってる」


 そう言ってそっぽを向いた。


「じゃあ、任せたよ……」


 しおんはやれやれといった顔をしつつ、そっぽを向いた真一の方を見ていた。


「ねえ。この歌、作ったらどうするの?」


 真一はそっぽを向いたまま、しおんに問う。


「どうしような……せっかくに作ったなら、どこかで発表しないのはもったいないかもしれない」

「ライブ……とかやってみたいかも」


 真一はぽつりとそう呟いた。


 そしてしおんはその一言に目を輝かせながら、


「よっしゃ! やろうぜ!!」


 そう言いながら、右手の拳を突き上げる。


「そんないい加減なこと言って……」

「俺たちはビッグなロックミュージシャンになるんだろう! じゃあ、どんどん売っていかなきゃ! そうと決まれば……」


 しおんは持っていたギターをケースにしまうと、立ち上がった。


「先生に相談してくる! 俺たちのこと応援してくれているみたいだから、きっと何かいい案を出してくれそうだ!!」


 そう言ってしおんは一目散に食堂を出て行った。


「ちょっと! 曲作り、まだ終わってない……」


 その真一の声がしおんには届くことはなかった。


「なんだよ……」




 食堂を出たしおんは、まっすぐに暁のいる職員室へと向かった。


 そして職員室の前についたしおんは、勢いよくその扉を開ける。


「先生! 相談があるんですけど!!」


 唐突に職員室に来たしおんを見た暁は、とても驚いているようだった。


「どうしたんだ、そんなに慌てて……?」

「実は!!」


 しおんはそう言いながら、ずかずかと職員室に入っていく。


「俺たち、ライブがやりたいんですけど、何かいい方法はないですか?」


 しおんは先生の前に立ち、はつらつとそう告げた。


「なるほど……」


 暁はしおんの言ったことを聞いてから顎に手を当てて「うーん」とうなった。


「やっぱり、ここでライブなんて、難しいですかね……」


 しおんが不安な声でそう言うと、


「いや、できないことはないさ! ここにはシアタールームもあるし、それにやろうと思えば、屋上でだってできると思うぞ!」


 暁は笑顔を作って、そう言った。


「それじゃ……」

「ああ。やろう! 俺もしおんと真一の歌を聴きたいって思っていたからな!!」


 暁がそう言うと、しおんは右手を突き上げる。


「よっしゃ! やったぞ、真一!!」


(ライブができる……俺と真一が!!)


 しおんは嬉しさから、暁に最高の笑顔を見せていた。


「あはは! じゃあ時間とか場所とかいろいろと決めなくちゃな!」

「わかりました! 今すぐ真一と話し合ってきます!! ありがとうございました!」


 そしてしおんは大急ぎで職員室を後にした。




「早く真一に知らせてやらないと!」


 しおんはそう言いながら、廊下を走る。


 すると曲がり角からいきなり凛子が現れ、突然のことで止まれなかったしおんは、凛子とぶつかってしまう。


 そして凛子はその場に尻もちをついたのだった。


「ちょっと! 痛いでしょ? もうどこ見てるのよ! それと、廊下は走ってはいけません!」


 凛子はぶつけたおしりを撫でながら、そう言っていた。


 いつもいがみ合っている憎き凛子を前に、今回のことはさすがに申し訳なく思ったしおんは、


「悪い……今度からは気をつけるよ」


 そう言って頭を下げたのだった。


 それを見た凛子はとても驚いたようで、


「ま、まあ今回は許してあげる……それに、私も前を見てなかったし。ごめん」


 と小さく謝った。


「ははっ。珍しいこともあるもんだな」


 しおんはそう言って、まだ立ち上がれない凛子に右手を差し出す。


「どっちがよ」


 そして凛子はその手を取って、立ち上がった。


「じゃあ俺いくわ!」


 そう言ってしおんが再び駆けだそうとすると、


「廊下は走らない!!」


 凛子がびしっとそう言った。


 それからしおんは親指をぐっと立てて、早歩きでその場を後にした。


「もう何、それ……」


 凛子は笑いながら、しおんの背中にそう告げたのだった。

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