第38話 マリアの進路相談
4月に施設へやってきた3人がすっかり馴染みはじめた夏の頃のこと。マリアは暁に話があるといって、職員室を訪れていた。
「先生……。この間のこと覚えてる?」
「この間……?」
「研究所のこと」
「ああ、あれか! 白銀さんの話を聞いて、カウンセラーになりたいって言っていた」
「そう。だから私、心理学科のある大学に行こうと思って……」
そう言うマリアは少し不安そうな表情を浮かべていた。
「……どうした? 何か心配事でもあるのか?」
「私の偏差値で行けるのかどうかが不安なの……」
「そうか」
確かに、大学受験というものはかなりのストレスがかかる。『
(やっぱり自分の生徒の悩む姿を見るのは辛いからな……)
そして顎に手を当てて考える暁。しかしいい案が浮かばず、
「マリアならきっと大丈夫だ! なんて、こんな何の気休めにもならないことを言ってもしょうがないことはわかっている。でも俺は今、マリアになんて言えばいいかわからないんだ。すまない……」
そう言って肩を落とした。
「ううん。聞いてくれただけで、少しだけ気分が晴れた! ありがとう、先生」
そう言って、マリアは微笑んでいた。
そんなマリアの笑顔を見た暁は、自分はまた何もできず生徒が苦しんでいるのを見ているだけなのか――と唇を噛んだ。
そんなのは……嫌だ。今できる最大限のことをするんだ。もう生徒が苦しむ姿は見たくない! それにマリアにはずっと笑顔でいてほしいと暁はそう思った。
それは自分の願いでもあり、キリヤの願いでもあるのだから――。
「マリア、俺には何もできない。でも、マリアが目指す場所にいる白銀さんなら、何かヒントをくれるかもしれない」
「白銀さん……そうだね。そうかもしれない」
「そうと決まれば、白銀さんにアポイントを取ってみるよ! マリアのお願いなら、絶対に聞いてくれると思うしな!」
「そう、なの?」
どうして? という顔できょとんとするマリア。
「あ、あれだ! マリアがキリヤの妹だから!! ほら、いつも助かってるって白銀さんも言っていただろう?」
「そっか。そうだね」
その言葉でマリアは納得したようだった。
(つい、白銀さんがシロだってことを言いそうになってしまった……気をつけないと)
マリアは白銀さんの正体に気が付いていない。だから自分がそれを伝えるなんて、野暮なことはしないと暁は決めていた。
マリアはいつかきっとシロに気が付く。2人の絆は今でもしっかりとつながっているんだからな――。
そしてマリアは今度の月曜日から、3日間だけインターンシップとして研究所で働くことになった。
翌月曜日。暁はマリアを連れて、再び研究所に来ていた。
「待っていたよ」
そう言って、入り口で暁たちを迎えるゆめか。
「よ、よろしくお願い、します……」
緊張気味にそう告げるマリア。
さすがに大人のシロは2回目だから、まだ慣れないのも無理はないか、と思いながらマリアの横顔を見つめる暁。
「もっとリラックスしてくれていいんだよ?」
ゆめかはそう言いながら、マリアの前に来て微笑んだ。
「は、はい……」
そんなやり取りを見ながら暁は、
「じゃあ3日間、マリアのことを頼みます」
そう言ってゆめかに頭を下げる。
「ああ、任せてくれ。君のかわいい生徒を取って食ったりはしないから」
ゆめかはそう言って、マリアの肩を抱いた。
「し、白銀さん!?」
「ふふふ」
ゆめかのその表情はとても幸せそうだった。
久々にマリアと長時間いられるから、きっとシロも嬉しいのだろう――
そう思いながら、暁は微笑んでいた。
それから3日後、マリアは施設に戻って来た。
戻って来たマリアは行く前の不安な表情が消えて、とてもすがすがしい表情をしていた。
「おかえりマリア。なんだかすごく良い顔してるな!」
きっと白銀さんのところで何かを掴んだのかもしれないなとマリアの顔を見て、嬉しく思う暁。
「うん! 先生、インターンシップに行ってよかった。ありがとう」
そう言って、微笑むマリア。
「そう言ってもらえてよかったよ」
マリアの笑顔につられて、暁もそう言って微笑んだ。
それからマリアは楽しそうにインターンシップで行ったことを暁に話していった。
そこで見たものや聞いたこと、そして肌で感じた経験のおかげで受験の不安なんて吹き飛んだらしい。この仕事をしたいと強く思うきっかけになったと――。
「大学受験、頑張る。私は必ずカウンセラーになって、白銀さんと一緒に働く。そして多くの人たちの力になりたい……ううん。なる!」
「そうか……応援してるよ。マリアなら、きっとできる」
「うん! ありがとう、先生」
この先のマリアの未来が繋がった。マリアにとって、これからもっと素敵な人生になるといいなと暁はそう思ったのだった。
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