第39話ー① 夜空の下の奇跡
しおんと真一は、食堂で楽しそうにノートを囲んでいた。どうやら最近は2人で食堂に入り浸り、曲作りをしているようだった。
「ここのメロディなんだけど……こんな感じでどうだ?」
しおんはそう言って、持ってきたアコースティックギターで試し弾きをする。
「……うん。いいんじゃない? それとさっきのここはもっと疾走感のある感じがほしいかな。イメージする歌詞に少しでも近づけたい」
「おう!」
暁はそんな二人の姿をこっそりと見つめる。
「真一もしおんも楽しそうだな。やりたいことがあって、それができるのってたまらなく嬉しいことなんだろうな」
暁はそう言いながら、微笑んだ。
「先生? こんなところで何をしているんですかぁ?」
暁が食堂の前でこっそりと真一たちを見つめていると、後ろから凛子がやってきた。
「ほら、あれ! なんかあの二人を見ていると、俺まで楽しくなるっていうか。やっぱりやりたいことをやって、楽しそうにしている奴らを見ていると、俺まで幸せになれるなって思うんだよ」
「へえ。そうですか」
淡々と答える凛子。でもその表情は、以前のしおんを見つめる瞳とは違って、優しい目をしていた。
「そういえば、凛子も最近はアイドル活動を頑張っているらしいじゃないか」
「ふふ。そうですねぇ。これもまた芸の肥やしといいますか。やはりいろんなことを経験している役者の方が、深みが増すと思いませんか?」
そう言ってニコッと微笑む凛子。
「あはは。そういうものなんだな」
「ええ。だからアイドル活動でしか見えない世界があるのなら、それをちゃんと見つめて、自分の成長の糧にしたいって思ったんですよぉ。だから今の私は、嫌々やっていた頃の私とは一味違います☆」
ウインクをしながら、凛子は暁にそう答えた。
「そうか……凛子も好きなことのために楽しむことにしたんだな。良いと思うぞ! 俺は、凛子のことも応援しているからな!」
暁は親指を立てながら、凛子にそう言った。
「よろしくお願いしまあす☆」
凛子は暁に笑顔でそう言うと、そのまま食堂に入っていった。
「うわ! 何しに来たんだよ!」
嫌そうな顔でそう言うしおん。
「別にいいじゃないですかぁ。ただ見に来ただけですけど?」
「はあ? なんだよ、それ! どっか行けよ!」
食堂からそんな声が聞こえて、暁はくすっと笑う。
あいつらは相変わらずだな。さて、俺も行くか――。
そして暁は職員室へと戻っていった。
曲作りを終えたしおんは真一と別れてから、自分の部屋に向かっていた。
しおんはその途中、共同スペースでテレビを見ているまゆおに会った。
「よ、まゆお!!」
「しおん君、こんにちは。今日も真一君と?」
「おう!!」
「なんだか最近、楽しそうだね」
まゆおはそう言って、しおんに微笑みかけた。
「そうだな、念願の相棒と組めたんだ。俺は今すごく嬉しくて、楽しい!」
「そっか。良かった」
「まゆおがあの時、『音楽に対する気持ちがその程度だ』って言ってくれなかったら、俺はきっと行動に移せなかったかもしれない。だから、ありがとう。まゆお! 感謝してるぜ!」
しおんはそう言いながら、まゆおに笑顔を向けた。
「そんなことを言ってもらえるなんて嬉しいよ。僕の方こそありがとう、しおん君。実はあの時は少しきつかったかなって後悔していて……。でも君の背中を押せたのなら、言ってよかったな」
「あはは。確かに言われた直後は少しへこんだかも……でもさ、あの言葉をきっかけに少しだけ昔のことを思い出したんだよ」
「昔のこと……?」
まゆおは首をかしげながら、しおんに問う。
「ああ。音楽に夢中になったきっかけ、かな。だから、本当にありがとう」
「そっか」
そう言って、まゆおは笑っていた。
笑うまゆおを見つめながら、しおんはふと思う。
(まゆおはいつも優しい。でもたまに確信づいたことを言う時があるんだよな。きっと俺の知らないまゆおがまだまだあるってことなんだろうな)
そう思いながら、小さく頷くしおん。
普段は温厚なまゆおがふとした時に確信づいたことを言えるのは、きっといろんなことを経験してきたんだろう。だからその言葉に力があるのかもしれない。
俺はここでのまゆおは最近の姿しか知らないけれど、それでもわかる。きっとまゆおはずっと優しくクラスメイトのことを見守ってきたんだな――と。
そして自分もそんなまゆおに見守られているんだと知り、しおんはほっとしていた。
「まゆお、これからもよろしくな!」
しおんはそう言いながら、まゆおに右手を差し出した。
そしてまゆおはきょとんとながらその手を見つめ、
「え……? うん。こちらこそ」
そう言って笑顔で握り返したのだった。
「じゃあ俺は部屋に戻るわ」
「うん、じゃあまた夕食の時にね」
それからしおんは自分の部屋に戻ったのだった。
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