第37話ー③ 道化師が仮面を外すとき

 食堂に残ったしおんたちは、引き続き作詞作業を続けていた。


「ここのフレーズはなんか、こう……わーって感じがいいと思うんだけど!」


 しおんは身振り手振りで、思いのたけを真一に伝えていた。


 しかしそんなしおんの思いは届かなかったのか、「はあ」と小さくため息をつき、呆れた表情をする真一。


「あのさ、さっきから『わー』とか『どかーん』とか……そんなんで本当に歌詞なんて作れるわけ?」

「できるよ! ……たぶん」

「もういいや。しおんは作曲に集中して。詞は僕が考えるよ」

「ええ!? こういうのって、メンバーと熱く語り合いながら作るものなんじゃ――」


 すると真一は俯きながら、


「君といくら話し合っても、詞なんて書けないってことだよ。察してよ」


 と少々きつめな口調で答える。


「ああ、悪い……じゃあ俺は作曲を頑張るよ」


 そう言って肩を落とすしおん。


「よろしく。……また熱くなる曲を作ってよ」


 しおんは真一のその言葉に顔がぱあっと明るくなると、万遍の笑みを真一に向けた。


「そういうの、気持ち悪いからやめてよ。……じゃあ、僕は部屋に戻るから」


 そう言って真一は立ち上がり、食堂を出て行った。


「真一は素直じゃないなぁ」


 しおんはニヤニヤとしながらそう言って、真一の出て行った扉を見つめた。


「これでなんとか俺たちも始動って感じだな。やっと俺もお前を追える。俺は絶対にお前に負けないからな、あやめ……」


 しおんは真剣な表情でそう言って、その場に佇んだ。




 1週間後。いつも通りの朝を迎えた暁が食堂に行くと、再びしおんと凛子は口論になっていた。


「朝から何やってるんだ!」


 暁はそんな二人の仲裁に入る。



「こいつ、また俺のことを馬鹿にしたんですよ!! お前は一体、俺の何が気に入らないって言うんだよ!」


「全部です。全部が気に入らないです。ギターをやるのも、真一君とコンビを組むのも。それにプロのロックミュージシャン? はっ。その程度でよくもそんなことを言えますよねぇ」


「お前! 夢を追いかけてるやつを馬鹿にしてそんなに楽しいか? 自分が天才子役って呼ばれていたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!」


「はいはい。悔しかったら、『ASTERアスター』みたいにオリコン1位を獲れるくらいの人気者になってからいいなよ」



 挑発するように、凛子はそう言った。


「その名前を出すな! 俺はそのバンドが嫌いなんだよ!! 俺は絶対に『ASTERアスター』を超えるロックミュージシャンになるんだ!」


 むきになってそう答えるしおん。


「その頃には、もうお爺ちゃんになっているんじゃないの?」


 そう言って鼻で笑う凛子。


「おいっ!!」

「ああ、もう! だからもうその辺にしておけって!! なんでお前たちは顔を合わせるたびに喧嘩をするんだ……。せっかく出会った仲間だろう? もっとお互いのことをだな――」


 暁はなだめるように、そう告げたが2人は聞く耳を持つつもりはないようだった。


「ちょっと、外出ろよ……この間のレクの続きだ!」

「いいですよお。粉々になっても知りませんからあ?」


 2人はバチバチににらみ合い、食堂を出て行ったのだった。


「はあ。朝から、何なんだよ……」


 正反対なのか、それとも似た者同士なのか――。


 そう思いながら、ため息をつく暁。


「ってこんなところでため息ついている場合じゃないだろ! 俺も追わなきゃ! もしもの時のために……」


 そして暁は2人の後を追ったのだった。

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