第37話ー① 道化師が仮面を外すとき
『本日のゲストは! 現在人気沸騰中の天才子役!
『よろしくお願いします!』
『今日も元気一杯みたいだね! 女優の仕事は楽しい?』
『はい! 役者って私じゃない私をたくさん知ることができて、いろんな人の人生を生きているような気持ちになれるんです。だから、私はこのままずっと役者でありたいと思っています』
笑顔でそう語るかつての凛子。
凛子は部屋のソファに座りながら、動画サイトで過去の自分のインタビューを観返した。
「何がずっと役者でいる、よ……。なんで私はこんな……」
そして抱きしめているクッションに顔をうずめる凛子。
私は役者でいたかった。それなのに、なんで――
とある日曜日。
腹をすかせた暁は、食べるものを求めて食堂に向かっていた。
「冷蔵庫になにかあったかな……そういえば、今日の昼の豆乳プリンがあったな。まだ残っているといいけど……」
そんなことを言いつつ、暁は空腹に耐えながら廊下を進む。
食堂に近づくと、そこから楽しそうな声が響いていることに気が付く暁。そしてこっそりと食堂を覗くと、一冊のノートを囲いながら真一としおんが話し合っている姿が見えた。
生き生きと話すしおんとそんなしおんに淡々と返す真一。
その姿をみて、暁はしおんの望みが叶ったことを知った。
(良かったな、しおん……)
そんなことを思いながら、二人をそっと見つめた。
しかし真一が誰かと一緒に過ごす日が来るなんて、思いもしなかったな……。何があっても、どんな時でも今までの真一は一人で過ごしていたから。しおんの存在が真一を変えていくのかもしれない――。
暁はそんなことを思いながら、二人の姿を見守っていた。
しかし……
――ぐぅぅぅぅ。
「うぅ……」
暁の腹の虫は、このまま見守ることを良しとしていないようだった。
「二人には悪いけど、俺は豆乳プリンを食べないと、どうにかなってしまいそうだ」
そして暁は食堂へ入っていった。
「お! 先生! どうしたんです?」
しおんが暁の存在に気が付き、そう言って声を掛ける。
「楽しんでいるところに悪いな。ちょっと腹が減って、冷蔵庫に何か残っていないかと思ってきたんだ。あ、俺のことはいいから、続けてくれ」
そう言って、暁はキッチンスペースの方に向かう。
この食堂には、小さな冷蔵庫が設置されており、その日に出たデザートは後からでも食べられるようにと少しだけこの冷蔵庫に入っている。
「ええっと、豆乳プリンはあるかな……」
暁は冷蔵庫を開けて中を覗くと、そこには暁の求めていた豆乳プリンがしっかりと存在感を示しながらそこにいた。
「よし! 今日はついている!!」
そう言いながら、暁は冷蔵庫から豆乳プリンを持ちだし、カウンターに取り付けられている引き出しからデザートスプーンと取り出した。
「二人の邪魔にならないよう、俺は自室で食べるかな……」
そう言って、暁はキッチンスペースから出ようとした時、しおんと誰かが言いあう声が聞こえた。
「なんなんだよ! いちいち俺のやることに口出しするんじゃねぇよ! このしょぼアイドル!」
「はあ? 口出しじゃないし! ただ気に入らないって言っているだけなんですけど?」
「お前に気に入られるために、俺は音楽をやるわけじゃねえんだよ!」
暁は豆乳プリンを持ちながら、その場を冷静に見ている真一の隣に立った。
「おい、あの二人に何があったんだ?」
「凛子が食堂に来て、『才能ないやつが何頑張ってんの』って言ったことがすべての始まりかな」
「……そうか。というか、真一は止めなくてもいいのか?」
「めんどくさいから、このまま見ておくよ」
「さすがだな……」
凛子としおんは初めて会った時からずっとこんな調子だった。顔を合わせれば、口喧嘩ばかり。だいたい凛子から喧嘩を吹っかけて、気が付いたらお互いが罵倒しあうことになる。
しおんの『コトダマ』が発動する前に、なんとかことを収めないとな――
「こら、二人とも! いい加減にしないか! ほら、しおんも落ち着けよ? 今夜の晩御飯は、星を見ながらになるだろう? あと、凛子も! 口喧嘩になるんだから、毎回しおんを挑発するな!」
「ちっ」「ふん」
二人はそう言って、お互いそっぽを向く。
「……まったく」
暁はため息交じりにその言葉が出てきた。
それから凛子は、不機嫌そうに食堂を出たのだった。
「なんであいつは、いつも俺につっかかってくるんだよ。俺、何かしたか?」
しおんは真一に確認するように問う。
「めんどくさい性格だからじゃない」
淡々と答える真一。
「そうだよな……あのアイドル、めんどくさいよな……」
うん、うんと頷くしおん。
「いや、めんどくさいのは、しおんの方だから」
「え!?」
「ほら、続き……歌詞つけるんでしょ」
真一はそう言いながら、ノートを指さす。
「お、おう。そうだったな!」
そして2人は再びノートに向かった
何とかことを収めた暁はほっとしつつ、豆乳プリンを持ったまま自室に向かった。
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