第36話ー④ 追憶とセレンディピティ

 ――屋上。


 アンプとギターを持って屋上にやってきたしおんは、ギターを取り出しそれをアンプにつなげた。


「延長コードの準備もOKだな。よしっ!!」


 それからギターを肩に掛けて、屋上の柵のぎりぎり立つ。そしてそこからグラウンドを見渡した。


「確か大きな木の下に……あそこだな」


 そして真一を見つけると、しおんは真一に向かって大声で叫んだ。


「風谷真一! 俺の魂のロック、聴きやがれ!!」


 それからしおんは持ってきたアコースティックギターをかき鳴らす。


(この曲に歌詞はない……でもこの音に俺の気持ちを全て乗せて……お前に届けるんだ!!)


 しおんは届くかわからない自分の音を、ただまっすぐに真一に向けて送り続けたのだった――。




 真一はいつものようにグラウンドにある大樹の下でゆっくりと音楽を聴いていた。


「へえ。こんな歌い分けもあるんだ……それと歌が前よりもうまくなってる。確かボーカルのあやめってまだ中学3年だったっけ……」


 真一は最近発売した人気バンド『ASTERアスター』のアルバムを聴いていた。


 自分と同世代のメンバーで構成されている『ASTERアスター』。いつか自分も彼らと同じ場所へ行くんだ――と真一はそう思っていた。


「僕もいつか外の世界で、自由に音楽を……」


 そんなことを呟きながら真一はその音楽を静かに聴いていた。


 そして音が途切れたタイミングで、ヘッドホンの外から聴こえてくるギターサウンドに真一は反応する。


「ギターの音……?」


(なんだろう。この最高に熱く、そして聴いていてワクワクするような音は――)


 真一はヘッドホンを外し、その音の出所を探した。


(この音は、どこから……)


 キョロキョロと周りを見渡し、その音の出所が屋上にいるしおんだという事に気が付いた真一。


「しおん……? それにこの音――」


『俺は本気だ、だから一緒にいこうぜ! 世界へ!!』


 聴こえてくるギターの音から、しおんのそんな気持ちを感じ取った真一。


(なんだろう、この感情は……まるで『Brightブライト Redレッド Flameフレイム』の曲を聴いているような、そんな気持ちになる)


「あ、そういうことか」


 そして真一ニヤリと笑い、自分の胸が熱くなっていることに気が付いた。


 その音からは音楽が好き、ロックが好きという気持ち。そして『俺と一緒にこい』と言われている気がした。


「まったく……」


 真一はそう呟いて、その音のする場所へと向かったのだった。




 ――屋上にて。


「ふぅ。これで真一に俺の気持ちは届いたはず……」


 そしてしおんは真一がいる木陰へ目を向けた。


「は!? 真一、どこ行ったんだよ!?? 俺、結構いい線言っていたと思うんだけどな……うーん。まあ、今回ダメでもいいや。俺は絶対にあきらめないからな!!」

「それは頼もしい限りだよ」


 しおんは後ろから聞えた声の方に顔を向けると、そこには真一の姿があった。


「し、真一!?」

「まったく……あんな爆音でギターをかき鳴らすなんてね。先生に怒られてもしらないからね」


 真一はやれやれと言った顔でしおんにそう言った。


 するとしおんは歯を見せて笑い、


「真一のためだ。きっと先生もOKしてくれるさ」


 そう答えた。


「あ、そう」


 しおんの言葉に無関心な表情でそう答えた真一。


「そういえば、真一はなんでここに?」

「は? 自分で僕を呼んでおいて、それはないでしょ」

「俺が、呼んだ……?」


 真一の言葉に首をかしげるしおん。


「さっきのギター音が『一緒に来い』って言っているように聴こえたんだけど」

「え? 真一ってギターと会話できるのか!?」


 真一は額に手を当てて、あきれ顔をする。


「あーもう……だからそうじゃなくて!! とりあえず、しおんと組んでもいいよって言いに来たんだよ!!」

「え?」


 真一の言葉に耳を疑うしおん。


(今、なんて? 一緒に……?)


 しおんはそう思い、呆然としていた。


「だからやるんでしょ? 一緒に! 音楽を!! 僕は君のギターの音を信じたいと思った。だから――」

「本当に、本当か!? 嘘じゃないんだな??」

「……うん」

「よっしゃ、やったぜ! ありがとな、真一!!」


 そう言って真一に抱き着くしおん。


「そういうのはやめてくれない? 慣れ合うつもりはないんだから。それにいらないと思ったら、すぐ切り捨てるからね」

「おう! そうならないように、俺も頑張らなくちゃな!!」


 しおんはそう言って微笑んだ。


 それからしおんたちはその場所でセッションをした。


 真一の透き通るような芯のある綺麗な声と、しおんの熱い思いの乗ったギターの音が屋上に響き渡る。


 きっとここから俺たちの伝説は始まっていくんだな――


 しおんはそう思いながら、笑顔でギターを弾いていた。


 そして真一に視線を向けると、やっぱりこれは誰も予想をしていなかった運命的な出会いに違いない――と心の中でそう思ったしおんだった。


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