第35話ー④ 七夕
そしてパーティ当日。ドレスアップをした織姫は、家の車でパーティ会場のホテルへと向かっていた。
織姫は今日という日まで、テーブルマナーも挨拶の仕方もしっかりと学んできた。これで本星崎家の恥にはならないと、織姫は自信をもって会場入りをする。
織姫が会場に入ると、そこには着飾ったたくさんの大人たちの姿があった。
とても賑やかでみんな楽しそうに会話をしている。そしてその中に、弦太の姿もあった。
大人たちにも物怖じせず、堂々と会話をする弦太の姿を見た織姫は、やはり弦太はトップ企業の御曹司なんだなと改めて思わされる。
普段、学校にいるとそんな雰囲気をださない弦太だったため、跡取りとしての面構えを直に見た織姫はなんだか悔しい気持ちになった。
私だって、あれくらい――。
そう思った織姫は、弦太に負けじとパーティ会場を堂々と歩く。しかしその姿をおかしく思った大人たちは、織姫を見ながら嘲るように笑う。
「お嬢様はいいな、楽しそうで」「一人舞踏会でもしているつもりなのかしらね……。可愛らしいわ」
(そんな、私は――)
織姫は周りからの声を聞き、急に気恥ずかしく思うと隠れるように会場から出ていった。
そして織姫は誰もいない廊下で一人ため息をつきながら、椅子に座っていた。
「なんでうまくいかないんだろう。私だって、負けてないと思ったのに……」
織姫がそう言って落ち込んでいると、遠くからパーティの参加者と思われる声が聞こえた。そして織姫は逃げるように身を隠した。
「今日の主役は、やっぱり神宮寺家の跡取りだよな」
「そうだろうね」
「それにしても本星崎家は哀れだよな。せっかくできた子供が、男じゃなくて女だったんだから。確かに文武両道で優秀な子だとは聞いているけど、それでも女じゃ跡取りにはなれないからなあ」
「噂じゃ、本星崎さんはもう会社の後継者探しを始めているらしいぞ」
「もしかしてこのパーティって……」
「ああ、たぶん本星崎家のお嬢様の婿探しってところじゃないか。ひどいことするよなあ」
そう言って、通り過ぎるパーティの参加者たち。
それを聞いた織姫は、その場で途方に暮れる。
やっぱり父様も母様も私のことより、仕事なのね……。私はそのビジネスの為の道具ってところかしら――。
そして織姫はその場に座り込み、そこから動けなかった。
しばらくして警備員が織姫を見つけ、織姫はその警備員に体調が優れないと伝えると、一足早く会場をあとにすることとなった。
帰りの車。織姫は窓の外を眺めていた。
夜空には無数の星々がきらめいており、とても綺麗な景色だった。
私の名前は織姫だけど、きっとこの空にいたとしたら、誰にも見つけてもらえず、消滅する星かもしれない――。
そんなことを思い、自分の心が荒んでいくのを感じる織姫。
「何が織姫よ……。私なんて、誰にも見つけてもらえない7等星以下の星なのに」
そして織姫は窓から目線を外して、悲し気な表情で俯いた。
織姫はそれから家に着くまで、ずっと俯いたままだった。
それから車は自宅へ到着し、帰宅した織姫はまっすぐ部屋に向かった。そして部屋に着くと、織姫はそのまま部屋に籠った。
部屋に戻って一人になった織姫は、さっきまで忘れていた会場で耳にした言葉を思い出し、その言葉が頭から離れなくなっていた。
『噂じゃ、本星崎さんはもう会社の後継者探しを始めているらしいぞ』
『もしかしてこのパーティって……』
『ああ、たぶん本星崎のお嬢様の婿探しってところじゃないか。ひどいことするよなあ』
両親は、自分に何も期待していない。しかし、それでもせっかく生まれた娘を活用しない手はないと考えているのだろう。
いい婿が見つかり、本星崎の婿養子として来てくれたら、跡取り問題も解決できるだろうし。両親にとって、きっと自分はその程度の存在なんだろう。
私は親にすら見捨てられた、本当に孤独な人間なんだ――。
織姫がそうを思った時、自分の内側から何かがこみ上げてくるのを感じた。
そして織姫の周囲には、無数の石の塊が現れる。
「何、これ……」
そう思った事もつかの間、その石は部屋の窓を突き破り、外へと飛んでいった。
その後、何事かと聞きつけた使用人たちは、織姫の部屋の状況を見て驚愕していた。
織姫はこの日、『
それから織姫はいくつかの検査を経て、S級クラスだという事が判明する。
織姫は4月からS級クラスの子供たちが暮らす、保護施設へ移ることが決まった。
そして現在。環境は変わっても、織姫は今までと変わらない生活を送っていた。
今日も教室の机で肘をつきながら、窓の外を眺めてため息をつく。織姫は今もまだ孤独で、淋しい日々を過ごしたままだった。
「私はこのまま消滅して、誰にも見つけてももらえなくなってしまうのかな」
もう一度、奏多ちゃんに会いたいな――
織姫はふとそんなことを考えていた。
しかし奏多は、留学中で現在海外に住んでいる、そのためすぐに会うことは難しい。織姫もそんなことはわかっていた。
「はあ。仕方ないよね……」
(まただ。また私は、『仕方ない』って……)
その言葉は織姫がいつも仕事でいない父と母に向けていた言葉だった。
この言葉を使うとあきらめがつく。だからとても便利な言葉だと思って織姫はついつい使ってしまっていた。
そして織姫はその後自室に籠り、孤独に過ごしたのだった。
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