第31話ー⑤ 卒業
――モニタールーム。
「どうだった、ゆめか君?」
「うん。十分すぎる結果だね」
そう言ってモニターを見ながら、満足げな表情を浮かべるゆめか。しかしそんなゆめかとは対照的に所長は心配そうな顔でモニターを見つめていた。
「キリヤ君のことが少し心配だね。ホログラムとは言え、目の前であんな……」
「大丈夫さ。彼はこれから大きく成長できるって思うから。さあ私たちも彼らのところへ行こうか、櫻井所長?」
そう言って立ち上がるゆめか。
「ああ、そうだね」
そしてゆめかと所長の二人は訓練室へと向かった。
「ははは! お前、面白いな!! えっと名前は……」
「糸原優香と申します」
優香はそう言って頭を下げた。
「糸原か! よろしくな!」
そう言って、ニコっと笑う神無月。
「は、はい……」
優香は神無月にそう返事をすると、そのままその場に座り込んだ。
「ははは! 初訓練にしては、なかなかだったと思うぞ! だが、まだ経験不足だな。経験していくうちに戦略の幅は広がっていくだろうから、訓練をしていけば今日よりもっとよくなると俺は思うぞ!」
神無月のその言葉を聞き、優香は自分の経験の浅さを痛感した。
もっと判断を早くできていたら……本当の事件なら、きっと私は――
そんなことを不意に思う優香。
そして優香は目の前でニコニコと微笑む神無月に視線を向ける。
その顔を見た優香は、あの戦いの後でもこの笑顔……『特別機動隊』の隊長を名乗るだけのことはある。その実力は伊達じゃないのかもしれないな――とそう思ったのだった。
「私が戦略もなく戦っていること、やっぱりお見通しだったんですね」
「もちろん! でも何かしようと考えていたことも知っていたぞ。そして体力と知識不足で、思考を放棄したこともな!」
神無月のその言葉に優香は苦笑いをした。
「あはは。さすがですね……今日得たことを今後に生かしていけるよう、精進いたします。ありがとうございました、神無月隊長」
「ああ。これからの糸原の成長が楽しみだ」
神無月はそう言って笑った。
「ふう。そういえば、キリヤ君はどうなったんだろう」
無事に任務を遂行できたのならいいけれど――そう思いながら、キリヤが向かった上層階の方を見つめる優香だった――。
キリヤはまだその場に立ち尽くし、自分の無力さを痛感していた。
誰かを救うということは簡単なことではなく、そして僕は弱い――。
「もっと強くならなくちゃ……」
そう言って頷くと、キリヤは今日の経験を忘れないように今の気持ちをしっかり胸に刻み込んだのだった。
「優香はどうなったかな……」
そしてキリヤは優香のいる下層階に戻っていった。
キリヤは下層階に向かいながら、廃ビルだと思っていたこの場所がビルと言うより真っ白なコンクリートの箱のような建物だということに気が付く。
「これに廃ビルを映し出していたのか……すごいな」
そしてキリヤは8階だったと思われる場所で、優香と神無月を見つけた。
「キリヤ君! どうだった……?」
座り込んでいる優香はそう言ってキリヤの方を向くと、
「少年を保護することはできなかった。……僕の力不足だよ」
キリヤは肩を落としてそう答えた。
無力な自分が恥ずかしい。だからこそ、もっと――
キリヤは俯きながら、そんなことを考えていた。
「ははは! まあこれは訓練だからな! 今回の訓練の反省点を洗い出して、実際の任務に生かしていけばいいさ! 二人とも、お疲れさん!」
そう言う神無月に顔を上げて、
「ありがとうございます」
と笑顔で答えた。
神無月の言葉を聞いたキリヤは、実際の任務までに必ず成長するんだと決意を新たにしたのだった。
キリヤたちが話していると、そこへゆめかと所長がやってきた。
「二人ともお疲れ様。初訓練はどうだったかな?」
「いろいろ勉強になりました。自分の足りないものが見えた気がします。僕も早く一人前になれるように、頑張らなくちゃと思いました」
キリヤの言葉を聞いたゆめかと所長は、互いに目を合わせて微笑んでいた。
「私たちもサポートするよ。だからこれから頑張っていこう」
「はい!」
それから休憩をした後、キリヤたちは施設に戻っていった。
――帰りの車内。
「今日はなかなかハードだったね」
キリヤは安堵の表情で優香にそう言った。
「これから毎日、あの訓練をやるわけね」
「うん、そうだね。……僕はもっと強くなりたい。たくさんの人を助けたいから」
キリヤが決意を込めた表情でそう言うと、
「そっか。じゃあ私も頑張ろうかな! 今度は隊長に勝ちたいし」
優香はそう言いながら微笑んだ。
僕たちの未来はまだまだ始まったばかり。きっとこれからもっといろんな事件に関わり、多くの人と出会うはず。
どんな未来になっても、僕は僕を貫いていく。そして多くの人を救うんだ――。
キリヤはそんなことを思いながら、窓の外に映る景色を眺めていた。
そして時間は流れ、キリヤたちは卒業の日を迎える。
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