第30.5話 女子会

 奏多のクリスマス演奏会後のこと。マリアの部屋には施設の女子たちが集まっていた。


「私も来てしまってよいのでしょうか……」


 そう言って心配そうな顔をする優香。


「もちろんです! 優香さんのことは先生からいろいろとお伺いしておりますし、直接お話したいと思っておりました」


 奏多は優香にそう言って微笑む。


 そして奏多の言葉を聞いた優香は小さく頷いて、


「神宮寺さん……わかりました! それでは、ぜひ参加させてください!」


 笑顔でそう答えた。


「それでは始めましょうか! 女子会を!!」

「「おー!!」」

「お、おー!」


 優香は3人のテンションに遅れ気味になりつつ、女子会は始まった――。




「奏多は向こうで、どんな生活を送っているの?」


 マリアは目を輝かせて、奏多にそう尋ねた。


「そんなに興味津々に聞かれたのなら、お答えしないわけにはいきませんね! そうですね……それでは少しだけ、お教えしましょう!」


 奏多は笑顔でそう言うと、留学先の暮らしについて話し始めた。


 その街で見たものや聞いたもの、そして肌で感じたものなど……。奏多は留学先での出来事を楽しそうに語っていた。


「……とまあ、こんな感じです!」


 奏多の話を聞き終えた3人は感心しながら頷いていた。


「こっちとはかなり違う生活なんですね」


 優香がそう言うと、


「そうですね。でも毎日楽しいですよ!」


 奏多は微笑んでそう答える。


「そうなんだ! ちょっと憧れちゃうなあ」


 そう言って目を輝かせるマリア。


「まあでも……大好きな人と離れ離れなのは寂しいですが」

「そうだよね、家族と離れて暮らすって寂しいよね」


 マリアはそう言いながら頷いた。


「あはは。たぶん今のはそう言う意味じゃないのでは……?」


 あきれ顔の結衣。


「え……?」

「まあそれもマリアちゃんの良いところですけどね!」


 それから4人は今までのことを話し合った――。




 そして夜が更けた頃、マリアと結衣は肩を寄せ合い眠っていた。


「二人とも、相変わらず仲良しみたいですね」


 マリアたちを見て、微笑みながらそう言う奏多。それから奏多は優香の隣に腰を下ろすと、


「さて。ようやく二人きりになりましたし……しましょうか!」


 そう言って優香に微笑んだ。


「え……一体、何をする気なんですか?」


 奏多の言葉の意味がわからない優香は首をかしげる。


「もちろんこんな夜更けにする内緒の話と言えば、コイバナですよ!」


 奏多からの思いもよらないに目を丸くする優香。


「コ、コイバナ!? 神宮寺さんでもそういう話をされるのですね。ちょっと意外です」

「それはそうですよ! 私だって、恋する乙女なんですから!」


 奏多は自慢げにそう答えた。


「は、はあ」


 優香は奏多の言葉になんとなく納得して頷いた。そして奏多は優香に詰め寄る。


「それで? キリヤとはどうなんですか?」

「ど、どうというのは!?」


 急に突撃してきた奏多に少しだけ怯む優香。


「あら! 私の見立てでは、二人はただの友人という関係には見えなかったのですが?」


 奏多のその言葉に、優香はとても切ない顔をする。


「あはは……本当にそうだったら、どれだけ嬉しかったことか」

「え、違うのですか?」


 奏多は驚いた表情をして、優香の方を見た。


「ただの友人ですよ。私とキリヤ君は」


 そう言って肩を落とす優香。


 それを見た奏多は真剣な顔で優香と向き合う。


「その話、詳しく聞きましょう」

「実は……」


 そして優香はキリヤへの想いを語り始める。



「……それでその時に言われたんですよね、友達って。私の気持ちを全然気が付いてくれないんですよ。まったく……鈍感にもほどがあります。そういうこと以外には敏感なのに」


「ははは。つまり片思い、ですか。それはそれで辛いですね」


「まあ私の話はいいんです。それよりも神宮寺さんと先生のことを教えてください」


「ふふふ……わかりました。それではどこから話しましょうか」



 そう言って今度は奏多が嬉しそうに暁のことを話し始める。


「私が先生のことを好きになったのは、そうですね……施設での初めての演奏会準備をしていた時です」

「初めての演奏会……」

「はい。1週間くらい二人でこそこそと授業後に準備を進めていて……」


 数分後――。


「そんな馴れ初めがあったなんて。先生の攻略もなかなか大変だったんですね。少し意外です。神宮寺さんくらいの魅力がある女性だったら、もっとスマートに落とせそうなものなのに」

「ふふふ。一筋縄でいかないからこそ、落とし甲斐があるというものです」


 そう言って微笑む奏多。


 そんな奏多を見て、優香は顔を伏せた。


「そういうものでしょうか……? 私にも神宮寺さんくらいの魅力があれば、キリヤ君も振り向いてくれるんでしょうけど」

「キリヤは私じゃダメです。きっと優香さんみたいな方の方がきっと……」

「そう、でしょうか」


 優香はそう言いながら顔を上げた。


「ええ。だから、あなたはあなたらしくいてくださいね」


 奏多はそう言って優しい笑顔を優香に向けた。


「ふふふ。ありがとうございます。神宮寺さんにそう言っていただけると、なんだかそんな気がしますね!」


 優香は笑顔で奏多にそう返した。


「うふふ、ありがとうございます! じゃあ優香さんの今後のキリヤ攻略のために、もう少しコイバナを続けましょうか」

「よろしくお願いします!」


 それから奏多と優香は、二人きりで内緒のコイバナを続けたのだった。



 ――翌日、奏多は自宅に帰っていった。


「優香、夜中に奏多とどんな話をしていたの?」

「ふふふ。それは二人だけの内緒のお話です!」


 そう言った優香に首をかしげるマリアと結衣。


 私らしく、ね――。


「うん、そうします。……あ、キリヤ君!!」


 そして優香は微笑みながら、今日もキリヤの隣に立っていた。

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