第27話ー④ 過去からの来訪者
「先生、今すぐ施設に戻ろう!!」
キリヤは慌てながら、暁にそう告げた。
「ああ、そうだな」
暁は冷静にそう返しつつも、キリヤが慌てる気持ちも理解していた。
そう。今から車で施設に向かっても、1時間くらいはかかるからだ――
「でも、どうしたら――」
暁は不安な顔でそう呟く。
そしてそんな暁たちを見ながら、ゆめかは落ち着いた口調で言う。
「さあ、君たちはどうする? 早く決断をしないと、取り返しのつかないことになるよ」
と不敵な笑みを浮かべながら。
「先生、早く戻らなくちゃ!」
「ああ。でも、間に合うのか? どうしたら、一番早く着く……」
1時間後にはもしかしたらもう取り返しのつかないことになるかもしれない。だとしたら、車で向かう選択はダメだ。もっと早く到着するには――
暁はその場で俯いた。そして視界に入った自分の手を見て、暁ははっとする。
これなら、いけるかもしれない――!
「キリヤ、俺は能力を使う!!」
「先生の能力……? それってもしかして――」
「ああ。あれなら20分もあれば、施設に着くはずだ!!」
そう言って二ッと笑う暁。
「でも、大丈夫なの?」
そう言って心配そうな表情をするキリヤ。
「大丈夫だ。俺を信じろ!」
「……わかった。気をつけて、先生!」
暁はキリヤの言葉に頷き、外に向かって走り出した。
「よし、ここでいいかな」
そこは研究所の屋上。普段は昼休みの時に、研究員たちが昼食を楽しむスポットでもあった。
しかし――午前10時37分の今現在。その場所には誰の姿もなかった。
「いくぞっ!」
それから暁は両足を獣人化させ、その両足に力を入れて高く飛び上がった。そしてそのままビルとビルの間を飛び渡り、暁はS級保護施設を目指したのだった――
***
電撃少年と対峙するまゆおと真一。
「どうやら、僕たちの方が優勢みたいだね」
息切れをする少年を見て、まゆおがそう言った。
「そうみたいだ。そろそろおしまいかな」
すると少年は無表情のまま、
「能力者は僕だけじゃない」
まゆおたちにそう告げる。
彼だけじゃない……? もしかして――
ハッとしたまゆおは、
「シロちゃんたちが危ない!!」
そう言って真一の顔を見る。
「ふーん。つまりまだ仲間がいるってことね。悪役でも群れたがるんだ」
焦るまゆおとは正反対に真一は淡々とそう言った。
「そんなことを冷静に言っている場合じゃないでしょ!? 真一君、ここは君に任せてもいい?」
「はあ。好きにしたら? まゆおの行動を決めるのは、僕じゃないからね」
相変わらずなんだから――そう思いながら、やれやれと真一を見つめるまゆお。
「ありがとう、真一君!」
それからまゆおは、屋上に向かって走り出したのだった。
***
――屋上にて。
結衣は、置いていったまゆおの身を案じていた。
「まゆお殿、本当に大丈夫なんでしょうか。一人であんなに大勢を相手にするなんて……」
結衣がそう言って俯くと、マリアは結衣の顔を覗き込み、
「今はまゆおを信じよう。私たちはシロを守らないと」
そう言って微笑んだ。
「ええ……そう、ですね!」
「うん!」
「ありがとう。結衣ちゃん、マリアちゃん」
シロは震えながらも、そう言って笑った。
「うん。……ひとまずはここで隠れていよう」
「そうしましょう」
そう言って結衣は、マリアの顔を見ながら頷いた。
「ふふふ。お姉ちゃんたち楽しそうですね、私も仲間に入れてくれませんか?」
「え……?」
「誰ですか!?」
結衣たちの目の前に、奇抜な服装をした少女が現れた。
「ここ、屋上なのにどうやって!?」
「簡単なことです。私の能力を使えば、こんな高さなんて余裕なんですよねえ!」
結衣が少女の足元を見ると、その少女は雲のようなものの上に乗っているようだった。
「マリアちゃん、シロちゃん。この子はちょっと危険な感じがします」
「……そう、だね」
「2人は私の後ろに隠れてください!!」
そう言ってマリアとシロの前に立つ結衣。
そして屋上に降り立ち、不敵に笑う少女。
「そんなに警戒しないでくださいよー。私はただ一緒に遊びたいだけなんですからー? じゃあお姉ちゃんたち、何をして遊びます?」
「結衣……」
心配そうに結衣を見つめるマリア。
「今、ここで戦えるのは私だけですからね。2人を必ず守ります。英雄、流山結衣の爆誕ですね」
結衣は額に汗をかきながらそう言った。
「無理、しないでね」
そしてマリアはシロを抱きしめる。
「任せてください!」
そして目の前の少女と対峙する結衣。
「そっちのお姉ちゃんが私と遊んでくれるんですか? 楽しみだなあ。ふふふ……」
少女は口に手を当てて、楽しそうに笑っていた。
「そんなに期待されても困ってしまいますね。えっと――」
「ああ、そうでしたね! 私の名前は、キキと言います。よろしくお願いしますね? それじゃあ、いきますよー!」
そう言ったのと同時に、キキの周りには無数の氷の刃が現れる。そしてキキが微笑むと、その刃が結衣に向かって飛んでいった。
「守って、私の
それから結衣の前にうさぎの大群が現れる。
そして飛んできた氷の刃は、うさぎたちに突き刺さった。
「えー! 何それ、すごくかわいいじゃないですか! ふふふ……じゃあもっともっと、かわいくしてあげますねえ!!」
そう言いながら、キキはさらに氷の刃を生成して、結衣達に向かって放つ。
「頑張って、うさぎさん!!」
氷の刃を受け、結衣の
「ふふふ。そろそろおしまいですか??」
そう言って、最後の1頭に氷の刃を放つキキ。
そして最後の
「そんな……」
「S級なのに、その程度なんですかあ? なんか、つまんないですね。はあ」
打つ手のなくなった結衣は、ただ呆然とその場に佇んでいた。
このまま、私たちは殺されるの――?
そう思いながら、結衣は先ほどの光景を思い出し、その恐怖に震える。
「うーん。これでおしまいなのは、ちょっと期待外れかもしれませんねえ。ま、でも仕方ないか」
そう言ってつまらなさそうな顔をするキキ。
それから顎に指を添えて、不敵な笑みを浮かべながら、
「そうだ! お姉ちゃんたちにチャンスを上げます! そこにいる、白髪の女の子を頂けません? そしたら、これ以上は攻撃しないって約束します」
そんな残酷な提案を結衣とマリアにする。
「さあ、その子をこちらへ」
そう言いながら、笑顔で手を差し出すキキ。
「マリアちゃん。私があの子についていけば、みんなはもう傷つかなくてもいいんだよね。だったら……」
シロは悲しそうな顔でマリアに告げる。
「何言ってるの!? シロを渡すはずないでしょ!! シロは、大切な仲間なんだから!」
「マリアちゃん……」
マリアの言葉で目に涙をためるシロ。
「何があっても、私がシロを守るから!!」
「……うん!」
そんなやり取りを聞いていた結衣は、首を横に振る。そして、
「マリアちゃん……シロちゃん。――私も、こんなところで怖気ずくわけにはいきませんね!」
そう言って笑った。
その様子を見ていたキキは、またつまらなそうな表情をして、
「交渉決裂ですかあ。じゃあここで2人を殺して、無理やり連れて行くしかないですね」
再び氷の刃を生成する。
そして身構える結衣たち。
キキはそんな結衣たちに、容赦なく氷の刃を放つ。
「間に合わない――!」
結衣は覚悟を決めて目を閉じた。
「あ、れ? 痛く、ない……?」
そして結衣がゆっくりと目をあけると、結衣達の前にまゆおがいた。
「よかった、間に合ったみたいだね」
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