第27話ー③ 過去からの来訪者
「じゃあ、ここに座ってくれるかな」
「あ、はい……」
会議室に入った暁たちは、ゆめかに言われるがまま椅子に腰かけた。
「……」
それからのゆめかは話し始める様子はなく、窓の外を静かに眺めているだけだった。
白銀さん……なんで黙ったままなんだ? 俺たちに伝えたいことがあって、ここへ呼び出したんだよな――?
それからしびれを切らした暁は、ゆめかに問う。
「あの、能力のことで話があるっていうのは……?」
「すまないね。それは君たちを呼び出すための口実だったのさ」
「口実……?」
そしてゆめかは暁たちの方を向き、不敵な笑みを浮かべる。
「今、施設がどうなっているか、知っているかい?」
「どう、なっているか……?」
「なんだか、嫌な予感がする――」
そう言ってキリヤはスマホを取り出し、施設にいる誰かに連絡を取ろうと試みる。しかし――
「電話が、繋がらない……」
「何だって!?」
暁も施設にいるまゆおに電話を掛けるが、圏外で電波が届かないことがアナウンスされた。
「白銀さん! これはどういうことですか!!」
暁は慌てながら、ゆめかの顔を見てそう言った。
「さあてね。……君たちは、これからどうする?」
ゆめかは試すように笑顔で暁へそう問いかける。
どうするって……どうしたらいいんだよ。施設とは連絡が取れない。それに今、施設はどんなことになっているんだ――
暁が狼狽えているとキリヤは暁の前にやってきて、
「先生。施設の様子を見る手段が一つだけある」
真剣な表情でそう告げた。
「その、方法って?」
暁が首を傾げながらキリヤにそう問うと、
「僕の……複合能力さ」
キリヤは淡々とそう告げる。
「え、複合能力……? キリヤ、お前も」
「うん……黙っていて、ごめんね。あとで詳しく説明するから、今は見ていて」
そう言ってキリヤは、カバンの中から一つの種を取り出した。そしてその種を握り、額に当てる。
「施設が今、どうなっているのかを教えて」
そう呟くキリヤ。
「これがキリヤの複合能力……」
「そうさ。これがキリヤ君の複合能力で『植物』だよ」
その言葉にはっとする暁。
「白銀さんは知っていたんですか?」
「そうだね」
キリヤも白銀さんもなんでそんな大事なことを――
「今は、なんで? という話は後にします。その力はどんなものなんです?」
「ああ。植物の力を借りて、いろんなことができるんだそうだ。どんなことができるかは、彼のみぞ知るって感じだけどね」
「なるほど……」
『植物』……いつも植物を大切にしているキリヤにはとてもふさわしい能力だなと暁は思ったのだった。
ここ最近、植物の管理がいっそう厳しくなったのはそういう事だったのか。そういえば少し水やりを忘れるとすぐにばれていたっけ……。キリヤには俺の部屋にいる植物たちの叫び声が聞こえていたのかもしれないな――
そんなことを思っているとキリヤは植物との会話を終え、真っ青な顔になっていた。
「どうしたんだ、顔色が悪いぞ?」
「先生、大変だ! 施設が不審な大人たちに襲撃されてる! しかも優香が捕まったって……他の生徒たちは無事みたいだけど」
そう言って俯くキリヤ。
「なんだって!! 優香が!?」
早く、何とかしないと……なんで俺はこんな時に――
そう思いながら、拳を強く握る暁だった。
***
施設内、教室にて――。
捕らわれた優香は大人たちに縄で縛られたのち、床に寝かされていた。
目を覚ましてみれば、こんな状況だったなんてね……ちょっと驚いたよ。でもせっかく不法侵入犯の近くにいるのなら、せめてその目的くらいは掴まないとね――
優香はそう思いながら、不審な男たちにばれないように目を閉じたまま意識を失ったふりをしていた。
「ターゲットは見つけたみたいだけど、逃げられたってよ。なんか剣術を使うガキにやられたとか」
剣術……という事は狭山君が、何とかしてくれたみたいね。それにしても、ターゲットって――?
「はあ? ガキ相手に何を手間取ってんだよ。早くしないと逃げ切れねえってのに!」
「まあ時間の問題さ。今はやべえ教師もいないみてえだし、今のうちに終わらせてずらかるのが安パイだな」
先生の能力を知っているみたいね。でもなぜ、このタイミングなの? 先生もキリヤ君もいない、今――
「そうだな。まあいざとなれば、この女を使って脅せばいいさ。そのための人質だろ?」
「ああ、そうだな」
話し声の感じから、この場所にいるのは見張りの2人だけか。あの能力者の少年はここにはいないみたいね――
それから優香は、ここまで聞いたことを一度脳内で整理する。
この人たちは誰かを狙ってここへ来た。そして今日、先生とキリヤ君がいないことを知って、施設に侵入したって感じね。
もしかして……これは、誰かが仕組んだことなの? ――ダメだ。まだ全然情報が足りない。仕方ないからもう少しだけ、狸寝入りと行きましょう――
優香はそんなことを思いつつ、反撃のチャンスを待つことにしたのだった。
***
結衣達を逃がしたまゆおは、一人で大人たちと応戦していた。
「このガキ、なかなかやるな……。おい! あれを使うぞ!」
「あれ……?」
そして大人たちの後ろから、一人に少年が出てきた。
「やれ! あいつをぶっ殺せ!!」
少年は頷き、まゆおを見つめる。
「何をするつもり?」
少年を見つめて、息を飲むまゆお。
そして少年は両手を前に出し、その手のひらから電撃を繰り出す。
その電撃はまっすぐまゆおに向かって行った。
「!?」
まゆおは間一髪でその電撃を躱す。
「これは……」
無表情のまま、少年は再び両手を前に出す。
「もしかして、またあの電撃を!?」
「次は手加減しない……」
そして両手に電気を溜める少年。
「さすがに今度は避けきれないかもしれないな」
まゆおは緊張で竹刀を握る手に力が入る。
技を使っても、威力を半減させるくらいしかできないだろうな。それとまともに当たれば、僕だってただじゃすまないよね――
弱気な表情でそう思うまゆお。そしてふいにいろはの顔がまゆおの頭をよぎる。
こんな姿をいろはちゃんには、見せられないな――
「僕は、みんなを守るって誓ったんだ! ここで負けるわけにはいかない!」
そう言ってまゆおは両足をしっかりと地に着けて、竹刀を構える。
「じゃあさようなら、お兄さん」
少年は電撃をまゆおに向かって放とうとした瞬間、足元がぐらついて転倒した。
そして少年の両手に溜まっていた電気は窓の方へ飛んでいき、窓ガラスが割れる。
「え!? 何が起こったの?」
そう言って驚くまゆおの後ろから足音がした。まゆおがその方へ振り向くと、そこには真一の姿があった。
「騒がしいと思ってきてみたら、これはどういうこと?」
「真一君……?」
ぽかんとするまゆお。
なぜ、彼がこんなところに――?
まゆおはそんな疑問を抱いていた。
「ねえ? だから今、どういう状況なのかって聞いているんだけど? スマホの充電ができないってどういうこと?」
それを聞いたまゆおは、あきれながら笑う。
「あはは。なるほど、そういうことね」
2人がそんなやり取りをしていると、転んだ少年が立ち上がる。
「理由はよくわからないけど、あの人たちはシロちゃんを狙っているみたいなんだ」
「へえ。じゃあさっさとシロを渡せばいいじゃないか。そうしたら、この問題は解決するんでしょ?」
淡々と答える真一。
「な、何言ってるの!! シロちゃんは大切な仲間でしょ!? 仲間を売るなんてできるわけない!!」
そんな真一にまゆおは声を荒げて怒る。
「はあ。また始まったよ。仲間とかそんな薄っぺらい言葉をよく言えるよね」
真一はため息交じりにそう言った。
「君は、またそんなことを――」
「だって、そうでしょ? 誰だって他人のことより自分の方が大切だって思っている。大切な仲間だとか言っていたくせにどうせ何かあれば、簡単に裏切るんだ」
「そ、そんなこと」
「だったら誰かと依存し合うより、1人の方がいいに決まってる。人はいつか1人になるんだからさ」
真一はまゆおから顔を背けてそう言った。
「それでも、僕は……」
2人が口論しているうちに、電撃少年は電気を両手に溜めていた。
「今度は、失敗しないから」
そう言う少年を見た真一は少し冷静になり、
「……まゆお。今は言い争っている場合じゃないみたいだ」
まゆおの方を見てそう言った。
「そう、みたいだね」
そしてまゆおはも真剣な表情で真一の方を見る。
「真一君、続きはこの人たちを片付けたらにしよう」
「それだけは同感だ」
そして構えの姿勢を取る、まゆおと真一だった。
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