第27話ー② 過去からの来訪者

 翌日曜日。暁とキリヤは、『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の件で話があると、研究所に呼ばれていた。


 ――研究所にて。


 暁たちはゆめかに指定された部屋へ向かって研究所の廊下を歩いていた。


「『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の話って何なんだろうな。もしかしてこの能力の秘密が何かわかったとか、そういう感じなのか……?」


 暁は隣を歩くキリヤにそう尋ねると、


「どうなんだろうね。研究を始めて、20年くらいになるんだっけ。まあそろそろ何かわかってもいい頃かも」


 腕を組みながらキリヤはそう答えた。


「キリヤはどうするんだ? もし、能力を消失させることができるとしたら」

「……たぶん今のままでいいって言うと思う。僕の能力がなくなっても、他の子供たちの能力がなくなるわけじゃないからね」

「そうだな」


 キリヤは、自分のやりたいことがもうはっきりとしているんだな――


 そう思いながら、微笑む暁。


「僕はこの力を利用して、能力者が不利益になるようなことをする人たちが許せない。だからその問題が解決するまでは、この力に付き合うことにするよ」


 キリヤはそう言って笑った。


「そうか。俺も『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』の影響で辛い思いをしてきた子供たちを救うために俺は施設の教員になったんだからな。キリヤと同じ。しばらくは今のままでいいや!」


 そう言って二ッと笑う暁。


「あはは。先生らしいや!」

「俺もこの世界から『白雪姫症候群スノーホワイト・シンドローム』がなくならない限り、この力と共に生きる。……だから、キリヤとは長い付き合いになりそうだな」


 暁が笑いながらそう言うと、キリヤは「うん!」と笑顔で返したのだった。


 それからすぐに暁たちはゆめかに指定された部屋へ到着する。


「えっと……『第3会議室』。ここだな」


 扉に書かれている表札を確認してから、暁はその扉をノックした。


 それから「どうぞ」というゆめかの声が聞こえて、暁とキリヤは会議室の中に入っていったのだった。



 ***



 同時刻、S級保護施設内――。


 施設では生徒たちが各々好きなことをして過ごしていた。


 平日の勉強疲れを癒すべく、優香はグラウンドでランニング。まゆおは日課の素振りと筋トレを屋上で行い、結衣とマリアとシロはシアタールームでアニメの鑑賞会。そして真一は自室に籠って過ごしていた。


 そしてまゆおが屋上で素振りをしていると、施設の周りに不審な車が数台あるのを見つけた。


「一体、あの車は何なんだろう」


 不審に思ったまゆおは屋上を出て、外へ向かった。



 ***



 その頃の結衣たちは、シアタールームでアニメの観賞会をしていた。


「ううう、アリス~」


 そしてまもなく感動のラストシーンというところで、突如シアタールームの電源が落ちる。


「あわわ……停電でしょうか?」

「みたいだね……シロ、大丈夫? 怖くない?」

「うん。大丈夫だよ。ありがとう」

「とりあえず、今はこの部屋から出ましょうか。原因究明はそれからですな」

「うん、そうだね」


 そして結衣たちはシアタールームを出る。


「ここのブレーカーは、確か職員室内にある変電室でしたよね」

「うん。職員室に向かおう。先生が帰ってくるまでに、原因を突き止めないとね」


 それから結衣たちは職員室へ向かったのだった。



 ***



 優香はランニングをしながら、キリヤと共に研究所へ行くことや自分の本当の能力のことなど、自分のこれからを考えていた。


 このまま本当の能力を使うことなく、能力が消失してくれるとありがたいけど……でもこの先どうなるかなんて誰もわからないよね――


「本当の私の力を知った時、キリヤ君はそれでも私と一緒にいたいと思ってくれるのかな……」


 そんなことを悶々と悩みつつ、優香はグラウンドを走り続けていた。


 優香が何周目かに差し掛かったところで、エントランスゲート付近に怪しい人影を見た。そして不審に思った優香はそのゲートに近づく。


 大人……? でも研究所の人ってわけじゃ、なさそうね――


 すると不審な大人たちは変な機械を使用し、ゲートをくぐって施設の敷地内に侵入してきた。


「あの! この施設は関係者以外、侵入禁止のはずですが!」


 優香を見て、驚く不審な大人たち。


「お、おい! いきなりS級が現れたぞ!? どうするんだ?」

「まあ、これは想定内だ。無効化の教師が出てくる前にやっちまおう! おい、出番だぞ!!」


 そう言う男の後ろから、いかにもひ弱そうな少年が現れた。


 この子、何者――?


 そう思いながら、その少年を見つめる優香。


「君……一体、何をするつもり?」

「――、ために」


 それから少年は両手を前に出し、無表情のままその手のひらから電撃を優香に向かって繰り出す。


 能力者!? でも――


 周りを見渡す優香。そして電撃が広範囲に渡ったまま自身に向かっていることを察した。


「逃げ場が、ない!?」


 それから優香は蜘蛛の糸でバリアを展開しようとするが、能力の発動が間に合わず、少年から放たれた電撃を受けてしまう。


「う……」


 そしてその場に倒れる優香。


 それから倒れた優香を取り囲む不審な大人たち。


「よし! こいつを人質にして、例の奴を連れ出すぞ!」

「ああ」


 それから優香は不審な大人たちに捕らわれたのだった。



 ***



 職員室に向かっていた結衣達は、その途中で偶然まゆおに出会う。


「まゆお、どうしたの? なんか怖い顔してる」


 マリアがまゆおに問うと、


「施設の外に不審な車が数台止まっていたんだ。なんだか嫌な予感がして……それで外に行こうと思って」


 まゆおは不安そうな表情で答えた。


「そう、なんだ。……結衣、シアタールームの停電と何か関係ありそう?」


 マリアが結衣の顔を見ながらそう言うと、


「――何とも言えないですな。もしもこの施設が狙われているのだとしたら、さっきの停電もその不審な車の人たちが原因ってことになりそうですが」


 腕を組んで唸りながら結衣はそう言った。


 すると、そんな会話をしている4人の前に不審な男たちが現れる。


「おい! こっちにS級がたくさんいるぞ! それと、ターゲット発見!!」

「ターゲット……?」


 まゆおは男たちの言葉に首を傾げる。


 それってこの人たちは誰かを狙って、この施設に来たってこと――?


 目の前に現れた男たちが、自分たちにとって良い存在ではないことを察するまゆお。


 そしてまゆおはマリアたちにしか聞こえない声で、


「僕があの人たちをひきつけるから3人は屋上まで逃げて。屋上に向かう階段はこの先にしかない。今ならあそこは安全なはずだから」


 こっそりとそう言った。


「まゆお殿は、どうするのですか」


 結衣は心配そうな顔をして、まゆおを見つめる。


「僕の速さなら、きっとあの人たちを撒ける。だから結衣ちゃんたちは何も気にせずに屋上に向かって。僕は結衣ちゃんたちの安全が確保できたら、すぐに向かうから」


 そう言って微笑むまゆお。


「で、でも――!」

「結衣、今はまゆおを信じよう」


 マリアは結衣を見つめて、そう告げた。そしてそのマリアの言葉に頷く結衣。


「健闘を祈りますぞ」


 そう言って結衣たちは屋上に向かって走りだした。


「おいおい、坊主が一人残ったぜ!」

「女の子にカッコつけたい気持ちはわかるけど、その選択は間違いだったなあ」


 不審な男たちは、笑いながらまゆおにそう言った。


 僕に何ができるかはわからない、けど――


 そしてまゆおは目を閉じ、意識を集中させる。


「いろはちゃん。僕は、みんなを守るよ!」


 それからまゆおはかっと目を見開き、男たちに向かっていったのだった。

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