第27話ー⑤ 過去からの来訪者

「よかった、間に合ったみたいだね」

「まゆお殿ー!!」


 結衣はそう言って涙目になりながら、その場に座り込む。


「ふふふ。今度は、お兄ちゃんが遊んでくれるんですかあ?」


 そう言って楽しそうに笑うキキ。


「まゆお殿、気をつけてくだされ。この子はかなりの手練れです」

「……そう、みたいだね」


 まゆおはキキの不敵な笑みを見て、彼女の危険さを肌で感じたようだった。


「じゃあ、お兄ちゃん。何をして遊びましょうかあ?」


 そう言いながら、氷の刃を生成するキキ。


 そして竹刀を構えるまゆお。


「竹刀……ああ、そうですか」

「?」

「それに、その不安な顔。すごくいいです――素敵ですねえ。ふふふ……じゃあこれは、私からのお近づきの印です!」


 キキはそう言い、まゆおに向かって氷の刃を放つ。


「気持ちだけで充分だよ!!」


 そしてまゆおはキキから放たれた氷の刃を竹刀でたたき落としていった。


 全ての刃を叩き落され、まゆおの足元に転がる氷のかけらを見ながらキキは少し残念そうな顔をする。


「あらら。全部落としちゃいましたか」


 そして今度は満面笑みを浮かべ、


「お兄ちゃん、面白いですねえ? さすがとしか言いようがないですね。――じゃあ今度は、これでどうですかあ?」


 そう言ってキキは右手を天に向ける。


 すると急に空が暗くなった。


「何……?」

「そういえば、私の能力の説明をしてなかったですね! 私の能力は、『天気ウェザー』。天気を操ったりできる能力なんですよお。ちなみにさっきの氷はひょうの一種です。さて、お兄ちゃん。これは避けられるますかあ?」


 そう言って、右手を振り下ろすキキ。


 そして雷鳴と共に、眩しい光がまゆおに向かっていく。


「まゆお殿!!」


 屋上には結衣の叫び声が響き渡った。


「ふふふ……さすがに死んじゃいましたあ?」


 そう言いながら、まゆおの立っていた場所を見るキキ。


 そしてそこには無傷のまゆおの姿があった。


 キキはそんなまゆおの姿に不機嫌になる。


「ふーん。なかなかやるじゃないですか」

「い、いったい何が起こったのですか……!?」


 結衣は目を丸くしながらまゆおに問う。


「自分の技を使って凌いだだけのことだよ。雷よりも早く技を出したから、僕に直撃しなかったのさ」

「あーなるほど。そうだとしても雷より早く技を出すなんて、さすがですな!!」

「え、あ、ありがとう!」


 まゆおは結衣の言葉に照れながら、頬を掻いていた。


 そしてそんなまゆおたちの話を聞き、キキは高らかに笑い出す。


「あはははははは! ――お兄ちゃんは、なかなか手ごわそうですね。でも……なんだか楽しくなってきました」

「それはどうも」

「じゃあ今度は、どうですかあ?」


 そう言うと、キキはまゆおを目掛けて突っ込んでくる。


「私が使えるのは、能力だけじゃないんですからねっ!」


 そう言いながらキキはまゆおに拳を振るう。それを間一髪でよけるまゆお。


「おやおや。でも、私も負けてはいられませんねえ!」


 それからまゆおは、次々とキキから繰り出される拳をよけ続けた。


「へえ――体力もそれなりって感じみたいですね。ふふふ。なかなかやりますねえ、お兄ちゃん?」

「まあ、これでも鍛えているからね」

「ふふっ。でも、もうおしまいにしましょうか――!」


 キキがそう言うと、まゆおの目の前は霧のようなもので真っ白になる。


「何、これ……。何も見えない……」

「私がいつ能力を使わないって言いましたあ? 戦いの場で油断は禁物ですよ?」


 そしてキキは再び氷の刃を生成する。


「じゃあさようなら、お兄ちゃん?」


 キキはまゆおに向かって刃を放った。


「まゆお!!」「まゆお殿!!」


 屋上に結衣とマリアの声が響く。


「――危なかったな、まゆお。間に合ってよかったよ」

「せ、先生!?」


 視界が晴れたまゆおの前には暁の姿があった。



 ***



「俺の生徒を、だいぶいたぶってくれたみたいだな」


 暁はそう言って、奇抜な服装の少女の方を見た。


 暁の登場で不機嫌になったその少女は、


「あと少しだったのに……タイミング最悪です」


 そう言って頬を膨らませる。


「今度は俺が、相手になるよ」


 暁がそう言って身構えると、少女は戦意喪失をしたのか、雲のようなものを生成してそれに飛び乗った。


「さすがに、無効化あり、そしてあの力を有する人間を相手にするほど、私も馬鹿じゃないですからね。今日はこの辺にしておいてあげます。……じゃあ剣道のお兄ちゃん、またいつか遊びましょう? ふふふ」


 そう言いながら、少女は飛んでいった。


「先生! 追わなくてもいいんですか!?」


 まゆおは少女の姿を目で追いながら、暁にそう告げる。


「ああ。いいんだよ。それは、俺たちの役目じゃないからな」


 そして少女は、空の彼方へと消えていった。


「ふう。これで難は去ったみたいだな……みんな無事か?」


 暁は振り向いて、マリアたちに声を掛ける。


「先生ー!!」


 そう言いながら、結衣は暁に抱き着いた。


「よしよし、怖かったなあ。ごめんな、すぐに戻ってこられなくて……」


 そして暁は結衣の頭をなでる。


「先生。キリヤは?」


 マリアは心配そうに暁に問うと、


「キリヤはまだ研究所だ。そのうち戻ってくるよ」


 そう言って暁は微笑んだ。


「良かった……」

「それよりも優香は無事か!? 捕まったって聞いたけど――」

「え……糸原さんが!?」


 暁の言葉に驚くまゆお。


 優香のことは誰も知らなかったのか……もしかしたら優香にも危険が迫っているかもしれない。早く探さないと――


「俺は、今から優香を探しに行く。お前たちは危ないから、ここにいるんだ」


 暁は目の前にいる4人にそう告げた。そしてその言葉に頷くマリアと結衣。


「僕、は真一君のところに行きます。彼を一人で残してきてしまったから……」

「そうか。わかった。じゃあ、まゆおは一緒に中へ行こう」

「はい!」


 そして暁とまゆおは建物の中へ向かったのだった。

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