第26話ー③ 未来へ進む路
キリヤの自室前――。
暁はキリヤの自室の扉をノックしたが、中からの返答はいつまで経ってもなかった。
「もしかして、まだ優香と会っているのかな?」
まあ少しだけここで待っていようか――
そんなことを思いながら、暁はキリヤが戻るまで生活スペース内のリビングで待つことにしたのだった。
それから暁が共同スペースでテレビを観ていると、
「あれ? 先生がこんなところにいるなんて、珍しいですね」
そう言いながらまゆおは暁の前にやってきた。
「そうかもな。ちょっと、キリヤを待っていてな」
「ははは、そうだったんですね! あの……隣、いいですか?」
まゆおは暁が座るソファを指さしてそう言った。
「おう」
暁がそう言うと、まゆおは「失礼します」と言って暁の隣に座った。
「そういえば、まゆおはすっかり元気になったみたいだな!」
暁が嬉しそうにそう言うと、
「そう、ですね。いつまでもくよくよしていたら、いろはちゃんに怒られちゃいそうなので」
そう言いながら、まゆおは笑った。
「そうか」
そんなまゆおを見た暁は、本当に強くなったな――と思ったのだった。
「それと、真一君が励ましてくれたから――」
「は!? 真一が!?」
暁は目を丸くしてそう言った。
真一が誰かを励ますなんて、少し驚いたな。真一は誰にも興味がないのかと思っていたけど、そうじゃないってことなのかもしれないな――
そう思いながら、「うんうん」と頷く暁。
「本当にびっくりですよね。僕も正直驚いて! でも彼の言葉が、僕に大事なことを思い出させてくれたんですよ。だから、感謝しているんです」
まゆおはそう言いながら微笑んだ。
「そうか」
暁はまゆおの笑う顔を見て、微笑ましく思っていた。
少し前までギスギスしていたまゆおと真一が、なんだかんだでいい関係性になっているようでほっとしたからだった。
そして暁がまゆおと談笑していると、キリヤが男子の生活スペースに戻ってくる。
「先生、なんでこんなところに?」
首を傾げながらそう言うキリヤ。
「よう、キリヤ! 待ってたぞ!」
「じゃあ、僕は部屋に戻りますね」
そう言ってまゆおは立ち上がり、自室の方へ歩いて行った。
「ありがとうな、まゆお!」
暁はまゆおの背中にそう告げた。
それからまゆおが見えなくなると、
「それで? わざわざ来たってことは、さっきの件を伝えに来たってことかな」
キリヤは真剣な顔で暁にそう言った。
「ああ。でもその前に――優香の答えはどうだった?」
「優香も僕と同じ思いだったよ。だから研究所には二人で行く」
そう言うキリヤの目には、覚悟が現れていた。
暁はキリヤのその目を確認して安心していた。きっとキリヤと優香なら、この先も大丈夫だろう――と。
「ああ、わかった。ちなみに所長に話したら、2人の研究所入りを認めるって。もちろん優香の飛び級も」
それを聞いたキリヤは、真剣な顔から笑顔に変わる。そして、
「ありがとう、先生!!」
そう言ってキリヤは暁に飛びついた。
「ちょっ!! キリヤ――!?」
そしてキリヤのあまりの勢いにひっくり返り、ソファから転げ出る暁たち。
「いてて……」
「あはは……ごめん、つい……」
「まったく」
嬉しそうなキリヤに暁もつい嬉しく思っていた。
なんだか、こんな笑顔のキリヤを久しぶりに見たかもしれないな――
そう思いながら、暁は「ふふっ」と笑った。
そして、キリヤたちがここで過ごす残りの時間は、この笑顔が絶えまなく続くように努めよう――と暁は誓う。
その後。暁たちは食堂に向かい、いつものように夕食を楽しんだのだった。
翌土曜日。暁は所長に呼ばれて、研究所に来ていた。
「少し時間があるな――よし、剛の部屋に寄って行こう」
それから暁は剛の部屋に向かった。
「――久しぶりだな、剛」
剛の部屋に入った暁は、ベッドで眠る剛にそう声を掛けた。
しかし、剛から暁の言葉への返事はなかった。
「もしかしたら……なんていつも思うんだけどな。まあそうだよな」
そして暁はベッドの近くにある椅子に腰を掛け、剛に語り掛ける。
「そういえば言い忘れていたんだが、いろはが施設を出て行ったんだ。そしてキリヤももうすぐ施設を出ることになる。剛が眠っているうちに、どんどんいろんなことが変わっていっているよ」
「……」
相変わらず剛からの返事はなかったが、暁は構わずに話を続けた。
「どんなに周りが変わっていっても、俺だけはあの場所で待っているからな。だからいつになってもいいから、必ず戻って来いよ」
「……」
やっぱり変化はないか――
そう思いながら悲し気な表情をする暁。それから暁は剛の手をそっと握った。
剛に俺の声が届いているかはわからない。でも、俺は信じてるからな。剛は必ず目を覚ますって――!
「俺も、頑張らなくちゃな」
そして暁は立ち上がり、剛の部屋を後にしたのだった。
――研究所内、廊下にて。
暁が所長室に向かって歩いていると、正面からやってくるゆめかの姿が目に入った。
「白銀さん、お疲れ様です」
暁が頭を下げてそう言うと、
「やあ、暁君。調子はどうだい?」
いつもの調子でゆめかはそう言った。
「まあいつも通りですね。白銀さんはどうですか?」
「私は元気いっぱいだよ! 今日もいい日にしよう」
そう言って微笑むゆめか。
その顔を見た暁は、誰かの面影とゆめかが重なる。
あれ……この笑った顔は、どこかで――
そう思いながら、ゆめかの顔をまじまじと見つめる暁。
「どうしたんだい?」
ゆめかは首を傾げながらそう言った。
「あ、すみません! なんだか白銀さんを見ていると、懐かしいというか……知り合いに似ているような気がするんですよね」
顎に手を当てて、そう言う暁。
「うーん。そんなにありきたりな顔ってわけでもないと思っていたんだけどな……まあでも、親しみがあるのは嬉しいことだね!」
ゆめかは楽しそうにそう言って笑った。
「あはは、そうですね!」
でも本当に誰に似ているんだろう。もしかして俺は昔、白銀さんに会ったことがあるのだろうか。でも、そんな記憶はないんだよな――
きっといつかわかるときが来るだろう――暁はそう思って頷くと、
「白銀さん。いつか思い出したら、またお話しますね!」
そう言って微笑んだ。
「ああ。その時が楽しみだよ」
それから暁はゆめかと別れて、所長室へ向かったのだった。
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