第21話ー⑩ 眠り姫を起こすのは王子様のキス

 暁たちが所長室に着くと、そこには所長とゆめかがいた。


「やあ。お疲れ様」


 所長はそう言いながら暁とキリヤに微笑む。


「お疲れ様です。所長、白銀さん」「お疲れ様です」


 そう言って暁とキリヤはそれぞれ頭を下げた。


「さて、さっそくだけど。キリヤ君、今回の報告を頼むよ」


 所長はキリヤに向かって真剣な顔でそう言った。


「ちょっと、待ってください! 報告なら、責任者である俺が――」

「ははは! ああ、すまない。そうか、暁君のことを忘れていたよ」


 所長は笑いながら、そう答えた。


 その場にいる自分だけがこの状況を理解していないことを察する暁。そして、


「あの、どういうことなんですか?」


 所長の顔をまっすぐに見て、暁は所長へそう尋ねた。


「ああ、黙っていてすまなかった。実はキリヤ君には、極秘任務をお願いしていたんだ」

「極秘、任務……? でもなんでキリヤに?」


 それから暁ははっとすると、


 もしかして俺が関わらないようにするためなのか――


 とそう思った。


「キリヤ君にはインターンシップとして、研究所の仕事を手伝ってもらっていたんだ」


 インターンシップ? キリヤはそんなこと、一言も――


「でもなぜインターンシップで極秘任務なんですか!? そんなの危険すぎる!!」

「まあ君の言う通りだと思う。でもこれを決めたのはキリヤ君自身だ」


 それから暁はゆっくりとキリヤの方を見る。


 そして、暁はキリヤのその顔から覚悟を感じ取ったのだった。


 所長の言う通り、キリヤは自分で決めたという事か――


「そう、ですか……キリヤが決めたのなら、俺から何か言うことはありません」


 暁はため息交じりにそう言った。すると、


「先生、ごめんね」


 キリヤは申し訳なさそうな顔をして暁にそう言った。


「いや、キリヤが自分で決めたことなんだろう? だったら、謝ることなんてないさ。お前の人生はお前自身が決めることなんだから」


 それを聞いたキリヤは「ありがとう」と笑顔でそう言ったのだった。


「さて、気を取り直して……キリヤ君。今回の報告を頼むよ」

「はい」


 そしてキリヤは自身が見たことを所長に報告した。


「――なるほど。わかった。ありがとう。……じゃあ今度は私からの報告だ。今回のキリヤ君の判断は正しかった。いろは君の中にあった『ポイズン・アップル』の破壊を確認できた。そしていろは君も無事だよ。お手柄だったね」


 所長はそう言って、優しく微笑んだ。


「よ、よかった……」


 それを聞いたキリヤは目を潤ませてそう呟く。


 キリヤのその顔を見た暁は、キリヤが自分の知らない場所で大きな不安を戦っていたんだと知る。


 誰にも悩みを相談せず、きっと見えない敵と戦っていて……そしてキリヤはその見えない敵に勝ったんだな。すごいよ、キリヤ――


 そんなことを思いつつ、暁はキリヤの成長を喜んだ。



「さて。検査も無事に終わった。あとは、いろは君が目覚めるのを待つのみだ。君たちはどうする?」


「僕は一度、施設に戻ります。優香も心配しているだろうから」


「そうだな。優香君も今回は協力してもらったわけだし、報告の義務はあるな」


「え!? 優香も今回のことに関わっていたんですか!?」



 暁のその問いにキリヤは困った顔をすると、


「ま、まあそれは成り行きでね。そのことはまたおいおい話すよ」


 そう言って、「ははは」と最後に笑う。


「あ、ああ。……わかった」


 暁はキリヤの表情から、きっと優香と何かあったんだろうと察したのだった。


「それで暁君はどうする?」

「俺は残ります。いろはもまゆおも心配ですから」

「わかった。じゃあキリヤ君。施設に戻るための車を用意するよ。少し待っていてくれ」

「ありがとうございます」


 それから所長は部屋を出て行ったのだった。

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