第21話ー⑧ 眠り姫を起こすのは王子様のキス
まゆおは自分の技の完成に足りないものが何なのかを考えながら、素振りをしていた。
「一体何が足りないんだ。早くしないと、いろはちゃんが」
でも技が完成したとして、本当に僕はいろはちゃんを救えるのだろうか――
そんな不安がまゆおの頭をよぎった。
「もしうまくいかなくて、失敗したら……」
いろはちゃんはもう目覚めないかもしれない。技が外れて、いろはちゃんの身体を傷つけるかもしれない――
「また僕は、大切な人を不幸にするのかな……」
そして素振りをしていたまゆおの手が自然に止まっていた。
僕なんかが誰かを救うなんて――
まゆおは首を横に振る。
「僕は、いろはちゃんを救いたいんだ。ずっとずっと一緒に、いたい!」
うまくいくのか、正直自信はない。でも大切な人を救いたいという気持ちはある――
それからはっとする、まゆお。
「もしかして、僕の足りないものって……」
それはとても簡単な答えだった。足りない何かの正体は、『自信』。
僕は僕を信じられていなかった――
救いたいって気持ちから頑張ることはできても、実際に行動する為には自分を信じないと動くことはできない――まゆおはそう思い、竹刀を握る手に力が入った。
「今は自分の剣技を信じるしかない。そして必ず、僕はいろはちゃんを救うんだ!!」
そしてまゆおは再び、素振りを始めたのだった。
* * *
それから次の週末がやってきた。
キリヤは再び、研究所に来ていた。自分の覚悟を所長に伝えるために。
「それで? 話とはなんだい?」
所長は真面目な顔でキリヤにそう告げる。
そしてキリヤはそんな所長の目をまっすぐに見て、
「僕は僕の仲間たちを信じます。まゆおもいろはも仲間を信じていました。だから僕もそんな仲間を信じて、今回の作戦を実行します!!」
そう言った。
「ほう……」
「どんな未来があるかなんて、やってみなくちゃわかりません。だったら、少しでも可能性のある方を僕は信じたい。僕はその思いを伝えるために今日ここへ来ました」
それを聞いた所長はふふっと笑うと、
「そうか。どうやら君の覚悟は決まったようだね。じゃあやってみなさい。私も君たちを信じよう」
ゆめかと目配せしながらそう言った。
「ありがとうございます!!」
そしてキリヤはいろはたちの待つ施設へ戻ったのだった。
* * *
――その頃のS級施設。
暁はいつもと同じように食堂で食事をしていた。
「お! センセー、今日はぼっちなの? 一緒に食べようか?」
いろははそう言いながら暁の隣にやってきた。
「ぼっちって――まあ、そうなんだけどさ。いいぞ、一緒に食べよう」
「やった!」
そうしていろはは暁の正面に座った。
「そう言ういろはもぼっちじゃないか? まゆおは一緒じゃないんだな」
「そうだね。なんだか最近のまゆおは忙しそうだからさ。邪魔したくないんだ。本当は一緒にご飯を食べたいけど、今は我慢!」
そう言っていろはは笑う。
「そうか……」
キリヤに対して同じ思いを抱いていた暁は、いろはのその言葉に共感していた。
そう、だな。今は我慢だ。だから全てが終わったら、きっといつもの日常が戻ってくると俺はそう信じている――
そして暁がいろはと食事を楽しんでいるところにまゆおがやってきた。
「お、まゆお!! 調子はどうだ?」
「僕はいつも通りですよ」
「そうか。それなら、良かった」
それからまゆおはいろはの方を向く。
「いろはちゃんの調子はどう?」
「え!? アタシ!? アタシは、いつも通りだけど?」
いろはは目を丸くしてそう言った。
「そう。なら、よかった……」
いろはの言葉を聞き、ほっと胸を撫でおろすまゆお。
その様子を見て、暁はまゆおに疑問を抱く。
もしかして、まゆおは何か知っているのか? 『ポイズン・アップル』のことを誰かから聞いていて、それで――
「まさか、な」
「何がまさかなの?」
暁の独り言にいろはが反応した。
「いや、何でもないよ」
「?? そう?」
そしてまゆおはいろはの隣に座り、食事をはじめた。
先ほどまで少し元気のなかったいろはだったが、今はとても楽しそうに笑っていた。その様子を見た暁は、この2人は本当に仲良しなんだと改めて感じて笑顔になったのだった。
このまま俺がここにいるのは、ちょっとお邪魔かな――
そう思い、食事をさっさと済ませた暁は食堂から出ることにした。
「じゃあ。2人でごゆっくりな!」
「は!?」
いろはは頬を赤く染めて驚いているようだった。
そんな姿を横目に暁は食堂を出て行った。
* * *
『さあ私の可愛いお姫さま。お眠の時間よ』
「何……? 頭の中に、変な声が――」
それから急に胸を押さえるいろは。
「うぅ、胸が……」
そう言っていろはがその場にうずくまると、まゆおはいろはに駆け寄った。
「いろはちゃん! 大丈夫!?」
そう叫びながらいろはの身体を揺するまゆお。その顔はとても不安な表情をしていた。
「いろはちゃん! ねえ、いろはちゃ――」
そこでいろはの意識は途切れたのだった。
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