第21話ー⑦ 眠り姫を起こすのは王子様のキス
――S級保護施設、エントランスゲート前。
「じゃあ、私は部屋に戻るよ」
「う、うん」
それからキリヤは自室に戻り、ベッドに寝転んだ。そして優香に言われた言葉を何度も思い出していた。
「覚悟の問題、か」
そうだよね。確かに優香の言う通りだ。僕は覚悟が決まらないだけなんだ――
そう思いながらため息を吐くキリヤ。
いつだってそう。大人を信じられなかったとき、何があってもこの人を信じるっていう覚悟を持てずにいた。そして僕はそんな自分から目を背け、信じることからずっと逃げていた――
「僕は逃げてばっかりだな。結局、自分一人では何も決められない……僕は、また先生に頼るの?」
暁に相談すれば、きっと助けてくれるだろうということをキリヤはわかっていた。
でも、本当にそれでいいのかな。僕はこれからの人生、ずっと先生に頼り切って生きていくの――?
そして以前、所長から言われた、研究所に来ないかという話がキリヤの頭をよぎる。
もし研究所に所属することになれば、僕は自分の力で解決していかなくちゃいけない。もう先生の力は借りられないんだ――
「でも、僕は……」
結局キリヤはその日のうちに覚悟が決まらず、ベッドで悶々と過ごしたのだった。
翌朝。早起きしたキリヤはなんとなく、屋上へ向かっていた。
「奏多のバイオリンはもう聞けないんだけど、なんとなく行きたくなるのはなんでだろうな」
そして屋上の扉の前でいろはを見つけるキリヤ。
「あれ、いろは? こんなところで何してるの?」
「しー! ほら、あれ見て」
いろはにそう言われたキリヤは屋上を扉の隙間からそっと覗くと、まゆおが竹刀で素振りをしている姿を目にした。
「まゆお、頑張ってるっしょ? 理由はわからないけど、最近毎朝ここで素振りを頑張っててね」
いろはは嬉しそうな顔でそう言った。
そうか、いろはは事情を知らないから――
「アタシさ、まゆおを見守ることにしたんだ。頑張りすぎだって前に言ったんだけど、それでも頑張りたい理由があるんだって。そんなこと言われたら、応援するしかないよね」
そう言ってから、また扉の隙間から笑顔でまゆおを見守るいろは。
優香が言っていたことはそういうことなんだ――
『狭山君の覚悟はとっくの昔に決まっていると思うよ』
なら、僕は――?
「ねえ、いろは。もし自分に命の危機が迫っているとして、救える可能性は低いけど、たった一つの方法しかないとしたら、君はどうする? 救うために行動しようとする友人に何を思う?」
いろはは少し考えて、
「自分のために友達が行動しようとしてくれてるんでしょ?」
そう言った。そして、
「じゃあアタシはその友達を信じるよ。どんな結果になるかなんて、やってみないとわからないじゃん? だったら、少しでも可能性のあることを試してほしいって思うな」
笑顔でいろははそう答える。
「いろは……」
いろはは仲間を信じている。だったら、僕にできることは決まったよ――
「ありがとう、いろは」
いろははきょとんとした顔をした。
「なんかよくわかんないけど、キリヤ君が元気になったならよかったよ」
「じゃあ、僕は部屋に戻るね」
そしてキリヤは自室に向かった。
僕の覚悟は決まった。どんな結果になるかなんてわからないけど、いろはもまゆおも仲間を信じて行動している。だったら、僕も仲間を信じて行動しよう――
「僕だっていろはを救いたい」
その為にやれることをすべてやってみて、それからまたどうするかを考えたらいいんだ――!
授業後、キリヤはまゆおを部屋に呼んだ。
「話って何? 僕はやらなきゃいけないことがあるんだけど」
「……技の完成度はどうなの?」
キリヤがそう言うと、まゆおは目を丸くする。
「知っていたんだ。僕がチップを破壊しようとしていること」
そしてキリヤは頷いた。
「――確信はなかったけど、なんとなくね。……僕も優香もまゆおの剣技がチップを破壊できると信じている。だから――」
「キリヤ君に言われなくても、僕が破壊するつもりだったよ。それしかないって狂司君にも言われたからね」
そうか。やっぱり狂司が――
それからキリヤはまゆおの顔をまっすぐに見つめ、
「どうする? やれるの?」
そう問いかけた。
「あと少しなんだ。まだ何かが足らなくて……でもその何かがわからないんだ」
「足りないもの、か……」
覚悟は十分だし、実力もある。まゆおにとって足りないものって何なんだろう――
そう思いながら、キリヤは腕を組む。
「だからそれがわからないことには、あの技を使うことはできない……」
「そう、だよね」
まゆおの言う通り、技が完成しないことにはこの方法を試すことができないということはキリヤも理解していた。失敗の許されない作戦。だから慎重に行動しなくてはならない、と。
でも今のまゆおに足りないものって何なんだろう――
それからキリヤたちは2人で頭を悩ませたが、答えが出ることはなかったのだった。
キリヤはまゆおに足りないものが何なのか、まゆおと解散後もずっと考えていた。
しかし、キリヤがどれだけ考えてもその答えは出なかった。
これはきっと、まゆお自身の問題なんだ――
「この問題の答えは僕に出すことはできない。だからまゆおを信じるしかない、か……」
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